Mothering Sunday(マザリングサンデー)のお話しとレシピ

毎年、春分の日のすぐ後の満月の次の日曜日と決められているイースター。その46日前の水曜日からレント(四旬節)と呼ばれる節制期間があることは、前回の「パンケーキデイのお話し」で触れましたが、今回はそのレントの期間中に食べられてきたお菓子についてのお話しです。

日本とは異なるイギリスの母の日「Mothering Sunday(マザリングサンデー)」

今年のレントはパンケーキデイの翌日、2月17日のAsh Wednesday(灰の水曜日)に始まり、イースターサンデーの前日4月3日(土)まで続くのですが、この中間地点にあたる、第4日曜日はMothering (マザリング)Sunday(サンデー)と呼ばれ、イギリスでは「母の日」となっています。つまり、移動祝祭日であるイースターの日にちに伴い、毎年母の日も大きく変わるということ。

イースターの花と言えば、黄色のプリムローズに水仙
イースターの花と言えば、黄色のプリムローズに水仙

ちょっと待って、母の日って5月の第二日曜日じゃないの?と思われるかもしれませんが、あれはアメリカで1914年に制定されたもので、それに倣い日本にも100年ほど前から徐々に導入されていったようです。
イギリスの母の日はもっとずっとずっと古い歴史を持ち、16世紀頃から祝うようになったと言われています。その頃、イギリスの人々はレントに入って4週目の日曜日にMother(マザー) Church(チャーチ)(教区のメインの教会)に礼拝に行く習慣がありました。

当時は10歳を過ぎた頃から子供たちは奉公に出るなどして、働くために家を離れて暮らすことが多かったのですが、この日は勤め先から休暇をもらえ、家族と一緒に過ごすことができました。マザーチャーチに礼拝に行く日、その道すがら貧しい子供たちは教会にお供えするために野の花を摘み、時には母親にも花を贈り、そこから次第に母へ感謝し贈り物をする日、となっていったのがイギリスの母の日「マザリングサンデー」です。

お母さんのために 家族・子供たちとパパが協力する日

日本では母の日というとカーネーションを連想しますが、イギリスの母の日にはカーネーションはそれ程登場しません。 この日は普段家事に仕事に育児にと、目が回るほど忙しくしているお母さんに、なるべく楽をしてもらおうと、子供たちとパパが協力する日。朝ごはんをベッドまで運んであげたり、ケーキを作ってあげたり、バラや菊の花束をプレゼントしたり、お母さんを喜ばせるために知恵を絞ります。

母の日がテーマのシュガーペースト作品(子供たちやパパが朝食やケーキを作るために大奮闘したキッチンの様子)
母の日がテーマのシュガーペースト作品(子供たちやパパが朝食やケーキを作るために大奮闘したキッチンの様子)
母の日がテーマのシュガーベースト作品(ベッドで待つお母さんに運ぶ朝食セット)
母の日がテーマのシュガーペースト作品(ベッドで待つお母さんに運ぶ朝食セット)

菊の花?そう菊の花。日本では菊の花束はプレゼントには使いませんが、イギリスではごくごく定番。菊は英語で「chrysanthemum」。略してmum(マム)と呼ばれることや、幸福や家族愛を意味する花でもあるので、特に母の日にふさわしい花として昔から、子供たちからお母さんたちへ贈られてきました。

マザリングサンデーに食べるお菓子「Mothering buns(マザリングバンズ)」

前置きがすっかり長くなってしまいましたが、今日は「マザリングサンデーに食べるお菓子のお話し」でした。現代のイギリスではイースターに食べるお菓子として、チョコレートやイースタービスケット、シムネルケーキなどが有名ですが、そちらについてはまた次回にでもお話しするとして、今日はその名も 「Mothering(マザリング) buns(バンズ)」というパン菓子をご紹介します。

イングランド南西部に Bristol(ブリストル)という貿易でとても栄えた港町があります。このブリストルで100年以上前から食べられてきたマザリングバンズ、さてどんな姿かというと~

マザリングバンズ
マザリングバンズ

どうでしょう?とっても可愛らしい姿ですよね。小型の丸いパンにアイシングとカラフルなお砂糖の粒々がちりばめられています。ブリストルでは、マザリングサンデーの前日の土曜日にこのマザリングバンズを作る習慣がありました。レントの期間中ですが、Mid(ミッド)()Lent(レント) Sunday(サンデー)とも呼ばれるこの週末はレントの節制が緩められ、甘いものを食べてもいい日とされていたそう。

このカラフルな飾りはイギリスで「Hundreds(ハンドレッズ) and(アンド) Thousands(サウザンズ)」と呼ばれるカップケーキなどのデコレーションによく使われるもの。その昔はキャラウェイシードやアニシードのコンフィが使われていました。ちょっとすっとするような独特の風味なので今はあまり使われませんが、19世紀、20世紀初頭まではパンやケーキにキャラウェイシードやアニシードのコンフィを入れるのは、とても人気のフレーバーだったのです。

年に一度マザリングサンデーの前日にだけブリストルのベイカリーに登場したマザリングバンズ。「Traditional Foods of Britain(2004)」Laura Mason著によると、毎年この日だけでブリストル中のパン屋で焼かれていたマザリングバンズは25,000個にものぼっていたとか。残念なことにここしばらくは、可愛らしいイースターモチーフのチョコレートやシムネルケーキなどに押されて、ほぼその姿を消しつつあったようですが、昨今のベイキングブームと、伝統的な地元のお菓子を見直そうという動きが活発になってきたこともあり、地元のベイカリーでもまたちらほら再登場しているようです。

言い忘れていましたが、今年のマザリングサンデーは3月14日(日)。レントの節制は難しいけれど、マザリングバンズと紅茶のティータイムはちょっと真似てみたくなりますね。 ふんわりほのかに甘いパンに、シャリっとしたアイシング、幼かった頃の思い出がよみがえるような、心和むお茶菓子です。

Mothering Bunsマザリングバンズ<レシピ>

焼きあがったところのバンズ
焼きあがったところのバンズ

~12個分~

< Mothering Buns~マザリングバンズ~>

A┏強力粉__________ 400g
 ┃塩_____________ 小さじ1
 ┃インスタントドライイースト__ 7g
 ┗グラニュー糖____ 40g
無塩バター _________ 40g
牛乳 ______________ 130ml
水 ________________ 130ml

<アイシング>

粉砂糖 150g
水  大さじ2
ハンドレッズ&サウザンズまたは好みのトッピングシュガー  適量

  1. Aをボールに入れて軽く混ぜ合わせ、小さく切ったバターを加えたら、指先で粉とバターをこすり合わせるようにしながら、全体をさらさらのパン粉状にします。
  2. 牛乳をレンジなどで軽く温め、お水を加えて人肌程度の温度にしたら、《1.》に回し入れて生地をひとつにまとめます。台に取り出し、全体が滑らかになるまで10分ほどよくこねましょう。
  3. ボールに戻したらラップで覆い、暖かいところに60分ほどおいて(またはオーブンの発酵機能を使って)、約2倍に膨らむまで醗酵させます。
  4. 《3.》の生地を12等分して丸め、オーブンシートを敷いた天板に間隔を空けて並べます。ビニールなどをすっぽりかぶせて40分程、暖かい所において1.5倍くらいになるまでもう一度発酵させます。
  5. 190℃に予熱したオーブンへ入れて、12~15分ほどきれいな焼き色がつくまで焼きます。
  6. アイシング用の粉砂糖と水を滑らかに混ぜ合わせて堅めのアイシングを作ります。パンがしっかり冷めたのを確認して表面に塗り、トッピングシュガーをまぶします。
上にトッピングするハンドレッズアンドサウザンズ
上にトッピングするハンドレッズアンドサウザンズ

安田真理子

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仙台市出身 宇都宮にてイギリス菓子教室「Galettes and Biscuits(ガレットアンドビスケット)」を主宰。イギリスの暮らしに息づくお菓子の味・...

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