パーキンのお話しとレシピ

ヨークシャーパーキンと紅茶
ヨークシャーパーキン

ハロウィンの次なる子供たちのお楽しみ『ボンファイアナイト』

10月末、イギリスは夏時間から冬時間に切り替わり一気に日が短く感じられます。それでなくとも日本より大分緯度の高いイギリスのこと、午後になったかと思うとあっという間に日は傾き、急に寒さが身に染みる季節の到来です。

この時期、ハロウィンが終わると次なる子供たちのお楽しみは11月5日の『ボンファイアナイト』(Bonfire Night)。暗くなると、そこかしこで花火が上がり、地域ごとに大きな篝火がたかれます。

ボンファイアナイトの花火
ボンファイアナイトで楽しむ花火
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見物の大人たちが炎で顔を照らしながら、周りに並ぶストールから買ってきた温かい紅茶やホットサイダーなどで凍える手を温めている脇で、子供たちは寒さなどどこ吹く風。手持ち花火を楽しんだり、篝火の中で無残に燃えていくガイ・フォークス人形を見ては大はしゃぎ。

ガイ・フォークスの仮面
ガイ・フォークス・マスク
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その炎の中で灰になりつつある「ガイ・フォークス」が実はこのイベントのある意味主役。
時を遡ること約400年。イングランドでは国王ジェームズ1世によるイングランド国教会優遇政策のもと、厳しい弾圧を受けていたカトリック教徒たちが 国王暗殺の陰謀を企てます。それも 議会の開会の日に議事堂ごと爆破してしまおうという大胆な計画。準備は着々と進み 歴史が変わるかと思われたその当日、企みはカトリック教徒の議員を巻き込むことを危惧した仲間の密通により発覚。ウエストミンスター宮殿の地下に仕掛けた火薬の点火係だったガイ・フォークスが捕らえられます。
つまり 「ボンファイアナイト」別名「ガイフォークスデイ」は1605年11月5日にこの事件が未遂に終わったことを祝うお祭りというわけです。

首謀者はRobert Catesby という男だったのですが、火薬の点火係りだったせいか、真っ先に捉えられたせいか、篝火にくべられるのはいつもガイ・フォークス。子供たちはこの日が近づくと古着やぼろ布を使って手作りの等身大ほどもある大きなガイ・フォークス人形を作って準備万端。地域によっては人形を火あぶりの刑に処する前に町中を引きずり回したりと、なかなかシュールな場面もあるイベントです。

もう一つのお楽しみ”ボンファイアナイトトリーツ”

それはさておき、子供たちのお楽しみはもうひとつ、ボンファイアナイトトリーツ(ご褒美フード)と呼ばれるトフィーアップル(りんご飴)にキャンディーフロス(綿あめ)などの甘いモノ。また伝統的には、特にガイ・フォークスが生まれ育ったヨークシャー地方では「ボンファイアトフィー」と呼ばれる堅い手作りの飴や、「パーキン」と呼ばれるオーツ麦(オートミール)を使ったジンジャーブレッドなどが食べられてきました。

ボンファイアトフィー
ボンファイアトフィー

ボンファイアトフィーは乳製品のたっぷり入るリッチなキャラメルのようなトフィーとは別物。ゴールデンシロップやブラウンシュガー、少しのバターにブラックトリークルを加えて煮詰めたもので、トリークルの生み出すほろ苦い甘さが特徴。トフィーハンマーなる可愛いらしい専用のハンマーでたたいて砕くくらい堅~いトフィーです。

ヨークシャーの名物、オーツ麦を使った”パーキン”

そして今日レシピをご紹介したいのが「パーキン」。イギリスの他の地方で食べられる糖蜜たっぷりのしっとりとしたジンジャーブレッドとは異なり、オーツ麦をたっぷり使うためしっとりしつつもほろっとした独特の食感です。
ヨークシャーはイングランドの北部、寒さのため小麦よりもオーツ麦の栽培に向いていたため、何かとオーツを使うレシピが多く残る地方です。実はパーキンひとつとっても、ヨークシャーの地域によって、ケーキタイプからビスケットタイプ、フラップジャックのような姿のものもあれば、豚さんの形をしたものまで数えきれないほどのバリエーションがありました。残念なことに家庭で作り続けられてきたそれらの多くは姿を消し、現在残っているのは商業的に作られてきたものなど、限られた種類のみ。
それら失われつつある地方のパーキンについては拙著「ジンジャーブレッド~英国伝統のレシピとヒストリー~」(内外出版社)に詳しく書いていますので、ご興味がある方はご覧ください。

いろんな種類のパーキン
オーツ麦をたっぷり使ったパーキン

秋らしい味わいの “パーキン”をお試しください

ここでご紹介するのは、ヨークシャーで「パーキン」として今は季節問わず一年中作られている王道のもの。
作り方はとにかく簡単。お鍋と木のスプーンがあれば出てきてしまう、昔ながらの家庭のお菓子です。しかも、たっぷりのゴールデンシロップやブラックトリークル(モラセス)のおかげで、焼いた当日よりも翌日、翌々日のほうが、しっとり馴染んで美味しくなるので、味の変化を楽しみつつ、ゆっくり味わうことが出来るのも嬉しいところ。スパイスの効いたパーキンにマグカップたっぷりのミルクティーがあれば、秋の肌寒さも、そこはかとないもの悲しさも、今日の失敗も、全部吹き飛ばしてくれそう。
噛み締めるほどに滋味深い味わいのオーツ、身体を内から温めてくれるジンジャーと糖蜜の甘さ、これほど秋らしいイギリス菓子は他にはないかもしれません。
是非一度お試しいただきたいひと品です☆

ヨークシャーパーキン<レシピ>

Yorkshire Parkin

~ヨークシャーパーキン~

18×28cm長方形 1台分

【A】
 ┏薄力粉 ____________ 225g
 ┃重曹 _____________ 小さじ1
 ┃ジンジャーパウダー __ 小さじ2
 ┃シナモン __________ 小さじ1
 ┃ミックススパイス __ 小さじ1
 ┗塩 ______________ 小さじ1/4

【B】
 ┏ブラウンシュガー ___ 175g
 ┗オートミール ______ 115g

【C】
 ┏無塩バター _________ 115g
 ┃ブラックトリークル(モラセス) ___ 115g
 ┗ゴールデンシロップ __ 50g

牛乳 ______ 150ml
卵 _______ 1個

<下準備>
*オーブン余熱170℃
*型にオーブンペーパーを敷く

  1. Cを小鍋に入れて火にかけ、バターが溶けたら火からおろします。
    牛乳を加え、粗熱が取れたら卵を加えて混ぜ合わせます。
  2. Aを合わせてボールにふるい入れ、Bも加えてざっと混ぜます。
    ここに 1 を流し入れて、ホイッパーでむらなく混ぜ合わせます。
  3. 型に生地を流し入れ、170℃のオーブンで45分ほど焼きます。
    涼しいところで密閉保存し、翌日以降が食べごろです☆

ミックススパイスはイギリスの焼き菓子によく使われるスパイス
手作りする場合は
コリアンダー50%・オールスパイス30%・シナモン10%・ジンジャー5%・ナツメグ5%を混ぜて小瓶に入れて保存


安田真理子

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仙台市出身 宇都宮にてイギリス菓子教室「Galettes and Biscuits(ガレットアンドビスケット)」を主宰。イギリスの暮らしに息づくお菓子の味・...

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