エンパイアビスケットのお話しとレシピ

器に盛られたエンパイアビスケット
エンパイアビスケット

スコットランドで会いたいお菓子

久しぶりに訪れたスコットランド。
真っ先に飛び込むのはベイカリー。
あるある、パイナップルタルトにエンパイアビスケット、スコッチパイにタティースコーン。あ~スコットランドに来た!と実感できる瞬間です。

ショーウインドウにならぶスイーツ、エンパイアビスケットやタルト
スコットランドのベイカリーで

その中から今日ご紹介するスコットランド菓子は「エンパイアビスケット」。
スコットランド生まれのビスケットと言えば、バターたっぷりの分厚いショートブレッドが有名ですが、それに負けず劣らず愛されているビスケットです。

エンパイアビスケットとは?

その厳つい名前とは裏腹にとってもキュートなその姿。二枚の薄いショートブレッドの間からラズベリージャムがのぞき、上にはたっぷりの白いアイシング。そして真っ赤なチェリーがのせられています。
ベイカリーやカフェで売られているものは、直径8cm程はあり、これ一つで紅茶が二杯は飲めそうなボリューム。一見イギリス中どこにでもありそうなレトロなお菓子ですが、意外とイングランドやウェールズではあまりお目にかかりません。

スコットランドのショップで出会ったエンパイアビスケット
スコットランドで出会うエンパイアビスケット

エンパイアビスケットのオリジン

このエンパイアビスケット、その元を辿ると、中央ヨーロッパ、オーストリア・ハンガリー帝国時代にさかのぼると言われています。
実はこのビスケット、スコットランドではもともと「Linzer Biscuits(リンツァービスケット)」「Deutsche Biscuits(ドイツビスケット)」「German Biscuits(ジャーマンビスケット)」などという名前で呼ばれていました。
オーストリアのリンツ地方の名がついたリンツァービスケットは、ジャミードジャー風に上のビスケットの穴から赤いジャムがのぞいているジャムサンドビスケット。生地にはシナモンなどのスパイスや挽いたナッツが入っています。それがスコットランドに渡り、お得意のショートブレッド生地に変化し、ジャムをのぞかせる代わりにチェリーがのった、という流れのよう。

いつ名前が変わったの?

1914年第一次世界大戦がはじまると、このビスケットにも危機が訪れます。
オーストリアもドイツもまさに敵国。こんなおいしいビスケットをそんな(リンツァーまたはジャーマンビスケット)名前で呼ぶのはけしからん!と思ったかどうか、、、愛国心そそる「エンパイア(大英帝国)ビスケット」と呼ばれるように。時には「Imperial biscuits(インペリアルビスケット)」なんて呼び名も。
ビスケットの名前一つとってもこんな調子ですから、当然、当時の国王ジョージ5世(在位1910-36)は祖父から引き継いだドイツ風のSaxe-Coburg-Gotha(ザクセン=コーブルク=ゴーダ)家改め、Windsor(ウィンザー)家と改称。王室、国民一体となってつらい時期を乗り越えたわけです。
余談ですが、同じ理由で、アメリカではザワークラウトがLiberty Cabbage(リバティーキャベッジ)、ハンバーガーがFreedom Sandwich(フリーダムサンドイッチ)なんて呼ばれた~という話しも。
結局、世界大戦終結後もエンパイアビスケットの名は元に戻ることはなく、そのまま。ただし、北アイルランドでは「ジャーマンビスケット」の名のほうがメジャーなようです。

エンパイアビスケットの今

スコットランドの旅で出会った風景や動物たち
スコットランドの風景

今回訪れたスコットランドでは、スーパーでも、カフェでも、ベイカリーでもよく見かけたエンパイアビスケット。日々の暮らしに根付いていることが分かります。スーパーで売っているパック入りのお安いものは、チェリーの代わりにデュードロップス(カラフルな小粒のジェリー菓子)がのせられていたり、多少バリエーションはありますが、どれもレトロでかわいらしく、思わず手が伸びるビスケット。
コロナ禍で3年半ぶりのイギリスでしたが、変わらず素朴なお菓子がたくさん並んだショーケースに、ほっと胸をなでおろし、いつもの安らぎを覚えたのでした。
皆さんももしスコットランドを訪れる機会があれば、是非、エンパイアビスケットを探してみてください。その姿に味に、旅の疲れが癒されること間違いなしです☆

エンパイアビスケットのレシピ

  • 無塩バター _________ 120g
  • 粉砂糖 ____________ 60g
  • 塩 _______________ ひとつまみ
  • 薄力粉 ____________ 180g
  • バニラエクストラクト __少々

<仕上げ用>

  • 粉砂糖 _________ 80g
  • 水 ____________ 小さじ3
  • レモン果汁 ______ 2~3滴
  • ドレンチェリー ___ 5個
  • ラズベリージャム _ 大さじ4

*下準備*

*バターを室温に戻しておきます。
*天板にオーブンシートを敷いておきます。
*オーブン予熱170℃
*ドレンチェリーは半分にカットし、洗って水気をよくふきとります。

  1. ボールにバターを入れてゴムベラで軽く練り、粉砂糖と塩を加えてすり混ぜます。
  2. 薄力粉をふるい入れ、バニラエクストラクトも加えたら、ゴムベラで混ぜて生地をひとつにまとます。ラップで包んで30分程冷蔵庫で休ませましょう。
  3. めん棒で3mm弱の厚さに伸ばし、直系6.5cmの型で20枚カットします。
    (できればここで10分ほど冷蔵庫または冷凍庫で冷やすと型崩れが防げます)
  4. 170℃に予熱したオーブンで15分ほど焼き、冷まします。
  5. アイシングを作ります。
    ボールに粉砂糖、水とレモン果汁を加えてゆっくりとたれるくらいの固さに調節します。
  6. 冷めたビスケットにジャムを小さじ半分ほどのせてのばし、もう一枚を重ねます。
    アイシングをスプーンなどで表面に伸ばし、ドレンチェリーをのせて固まるまで置いて、出来上がり☆

安田真理子

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仙台市出身 宇都宮にてイギリス菓子教室「Galettes and Biscuits(ガレットアンドビスケット)」を主宰。イギリスの暮らしに息づくお菓子の味・...

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