イギリス映画談”6月公開のイギリス映画2本”
~人生はロングロード~
『君を想い、バスに乗る』、『エリザベス 女王陛下の微笑み』

人生は長い。今や人生100年などと言われているが、そこまでいかずとも長生きされる方が多くなった。どんな年齢になろうとも、そこには山あり谷あり、様々な事が起こってくる。どんな時にも、どんな事にも生きていることの喜びを感じながら、楽しんでいけるようにしたいもの。 6月には2本のイギリス映画が公開される。どちらも90歳以上の人物が主人公だ。

『君を想い、バスに乗る』

『君を想い、バスに乗る』ポスター
『君を想い、バスに乗る』ポスター
© Last Bus Ltd 2021

6月3日公開

LEJOGを知っていますか?

かつて旅行業にいた関係で、イギリスにランズエンドという地名がある事は知っていた。イギリス・イングランドの南西の端の地名、「地の果て」の名前通り、イングランド南西端でペンウィズ半島の突端にある岬だ。ここをグレードブリテン島の端だとすれば、反対の端は何処かと言えば、ジョン・オ・グローツというところになる。この映画で初めて知った。ジョン・オ・グローツはスコットランドのハイランド地方にある村。グレードブリテン島の最北端の村、近くには最北端のダン岬がある。
Wikipediaによると、イギリスでランズエンド・トゥ・ジョン・オ・グローツ(Land’s End to John o’ Groats、LEJOG)と言えば「究極の旅路」とか、「かなりの距離」という意味を指すそうだ。LEJOGでググると、英語ですがイギリスのサイトが色々出てくる。端から端迄は誰もが好きというか、気になるんでしょうね。

※UK Walkerコラム”写真で巡るイギリスの旅~ウイルトシャー&コーンウォール~ 地の果て「ランズエンド」”
※UK Walkerコラム”写真で巡るイギリスの旅~スコットランドの島々とハイランド~「グレートブリテン島最北の地 ジョン・オ・グローツ」

トム・ハーパーの長い旅

映画はジョン・オ・グローツから定期バスを乗り継いでランズエンドまで行こうとする老人トム・ハーパーの話だ。

机の上に地図を広げ旅を計画するトム
旅を計画するトム
© Last Bus Ltd 2021

無料バスパスを出しながら、初めに乗った定期バスの馴染みの運転手にランズエンドまで行くと伝えると、1,300kmもあるぞの声に、いや正確には1,350kmあると答える。
勿論一つのバスで行けるはずはない。それからいくつのバスに乗り継いだろうか。ダブルデッカー(2階建)のバスもかなり多く、色、デザインも様々なバスが登場する。

バスに乗り込む羊に驚くトム
バスには羊が乗ってくることも
© Last Bus Ltd 2021

90歳にもなる主人公トム・ハーパーがランズエンドを目指したのは、妻のメアリーが亡くなった後だった。多くのバス停で乗り換え、スコットランドの高地を通り、様々な町を通り過ぎながら多くの人との出会いがあった旅は次のように進んだ。

自宅の庭のトムとメアリー
自宅の庭のトムとメアリー
© Last Bus Ltd 2021

元整備士のトムは道をふさぐ故障車を直し、バス停では蛙の折り紙で女の子と遊び、大事に持ち運ぶアタッシュケースが盗まれたのを取り返し、眠り込んだためバスの終点まで行ってしまい、道に倒れていた時通りすがりの夫婦に助けられ、バスの中でイスラムの母子に絡む男と対決して降車させ、ダブルデッカーの屋根がぶっ飛ぶという信じられない事故に遭い・・・。そしてイギリスで暮らすウクライナの人々の優しさに触れることも。

道をふさぐ故障車を押すトム
道をふさぐ故障車を押すトム
© Last Bus Ltd 2021

イングランドに入ってから暫くして、あるバス運転手から”このバスパスはスコットランドだけで有効”と言われて降ろされたり、アメイジング・グレイスをトムが歌ったり、いつかイングランドでも無料でバスに乗せてくれるようになったりと、様々な経験をしながらの長い旅。長い人生そのままのようでもある。

ティモシー・スポール

トム・ハーパーを演じているのはティモシー・スポール、1957年生まれの65歳。数多くの作品に主に脇役で出演している。「ラスト・サムライ」、「ハリー・ポッターシリーズ」、「英国王のスピーチ」等に出演、「ターナー、光に愛を求めて」では主役ターナーを演じてカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞している。多分何かの作品で出会ったことのある人は多いだろう、イギリスが誇る最も才能あるキャラクター俳優の一人である。

1952年トムとメアリーの夫婦は、実は”ランズエンドからできるだけ遠くに連れて行って”という妻の希望でジョン・オ・グローツにやってきたのだ。最後の力を振り絞ってランズエンドに向かうトムの旅。誰もが応援したくなる。

劇場というバスに乗って、トムと一緒にランズエンドの結末まで、ぜひご覧いただきたい作品だ。

『君を想い、バスに乗る』公式サイト:https://kimibus-movie.jp/

『エリザベス 女王陛下の微笑み』

『エリザベス 女王陛下の微笑み』ポスター
『エリザベス 女王陛下の微笑み』ポスター
© Elizabeth Productions Limited 2021

6月17日公開

ロジャー・ミッシェル監督の遺作

現在のエリザベス女王
現在のエリザベス女王
© Elizabeth Productions Limited 2021

今年の4月に96歳になったイギリスのエリザベス女王のドキュメンタリー『エリザベス 女王陛下の微笑み』は、何とも楽しい映画だった。上映時間90分の作品を20のキーワードにまとめて見せてくれる作品を作ったのは、ロジャー・ミッシェル監督。この作品の前に『ゴヤの名画と優しい泥棒』を制作し、このドキュメンタリーを作った後、映画が公開される前に残念だが亡くなってしまった。
この作品が『ノッティングヒルの恋人』でも有名なロジャー・ミッシェル監督の遺作となった。

映画を縁取る “キーワード”

若き日のエリザベス女王
若き日のエリザベス女王
© Elizabeth Productions Limited 2021

主なキーワードとその内容は次の通り。

  • マーム:女王に謁見する時、初めは”女王陛下(Your Majesty)”と話しかけ、それ以降は”マーム(Ma’am)”と言うこと。
  • ビートルズの大英勲章第5位叙勲:彼らは1965年10月26日にバッキンガム宮殿で受勲。
  • クローズアップ:紙幣や葉書、Tシャツ迄モナ・リザのように女王陛下は印刷される。
  • 自宅にて:女王が開くガーデン・パーティには7,000人の招待客。
  • 馬上で:馬に乗ることも多いし、競馬も大好き。
  • 海上で:43年間海の住み家だったロイヤル・ヨット・ブリタニア号は1997年に終了。
  • みんなの夢:「ローマの休日」のオードリー・ヘプバーンのように憧れの的だった。
  • ラブ・ストーリー:1947年、フィリップ殿下と結婚。
  • 王冠の重み:物理的にも思い王冠、”下を向くと首が折れてしまいそう”。
  • マミー:チャールズ皇太子は女王陛下をマミーと紹介。国民は彼女を母親、家族と答える。
  • ひざまずいて:様々な国を歴訪する女王に謁見する人々。
  • ドイツ人をいじめないで:ドレスデンでの空襲追悼式典で、女王陛下はヤジを浴びた。
  • ひどい出来事:即位40周年の式典で、1992年を「ひどい年」と表現した女王陛下。アン王女が離婚、アンドルー王子が離婚調停、ウィンザー城が炎上、チャールズ/ダイアナが別居。
  • 時は過ぎゆく:アンドルー王子、エドワード王子が約50年前に植樹した木々の中を散歩。
  • 始まり:父ジョージ6世の逝去に伴い、25歳の若さでエリザベス2世として即位。
  • グッドナイト:小さい頃から多くの人々と会ってきた女王。膨大なクレジットで幕となる。
王冠を冠る女王
王冠を冠る女王
© Elizabeth Productions Limited 2021

オープンで明るい王室

今年で在位70年となる女王だから、映像材料も膨大にあり、そこからちょっと面白いものという感覚で選んだのが監督ロジャー・ミッシェルだろう。その映像を支える多彩な音楽は『ゴヤの名画と優しい泥棒』でもミッシェルに協力したジョージ・フェントンが担当し、音楽スーパーバイザーのイアン・ニールと共にビートルズやナット・キング・コール、フレッド・アステアなどの耳慣れた、楽しい曲を付けている。

フィリップ殿下とエリザベス女王
フィリップ殿下とエリザベス女王
© Elizabeth Productions Limited 2021

画面には、フィリップ殿下、チャールズ王子などの王室メンバーは勿論のこと、チャーチル、キャメロンの政治家、ビートルズ、グレンダ・ジャクソン、ノエル・カワード、オードリー・ヘプバーンなどの芸能人まで多くの有名人が登場する。勿論最も有名なのは女王陛下エリザベス。
画面に登場する女王は笑っている姿が多い。彼女のほがらかな性格やユーモアを好む国民があいまって、王室の印象が明るいように感じられる。
この映画を楽しみながら、プラチナジュビリーをお祝いしてあげよう。

勲章を授与する女王
勲章を授与する女王
© Elizabeth Productions Limited 2021

イギリスでロングロードを歩いてきた二人の人物の映画、お楽しみください!

『エリザベス 女王陛下の微笑み』公式サイト https://elizabethmovie70.com/


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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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