バノフィーパイのお話しとレシピ

イギリスの大定番プディング「バノフィーパイ」

タルト型に焼いたバノフィーパイと、取り分けたパイ
バノフィーパイ

イギリスの伝統的なプディング(デザート)というと、クリスマスプディングのようなドライフルーツたっぷりのどっしり重いものが有名ですが、1970年代以降に生まれたプディングたちは、子供たちも喜ぶ、甘くて軽いものが主流。中でも人気なのが以前ご紹介した「スティッキートフィープディング」と今日の主役「バノフィーパイ」。
一度食べると誰もが虜になるそのパイは名前からもご想像がつくように、バナナとトフィーのパイ。イギリスではスーパーでも、ティールームでもパブでもよく見かけるので、旅行で訪れても遭遇できる確率大のプディングです。

バノフィーパイの発祥の店「ハングリーモンク」

かれこれ十数年前、初めて口にしたバノフィーパイがすっかり気に入ってしまった私は、その元祖のお店があるということを知り、早速予約の電話をしてみました。

ハングリーモンクのお店の看板
ハングリーモンク

到着してみるとそこは、イーストサセックスのJevingtonという静かな村。17世紀からそこに建つというなかなか趣ある建物がバノフィーパイの生家「The Hungry Monk」です。腹ペコ修道僧というその店名は、以前そこに修道僧が住んでいた時代があったからだとか。壁には誇らしげに「1972年バノフィーパイ発祥の地 世界でも最も愛されているプディングのひとつ」のブループラークが掲げられています。

店の壁にかけられた1972年バノフィーパイ発祥の場所と書かれたブルーのブラーク
店の外壁に掲げられたブループラーク

低い天井に大きな暖炉、暗めの落ち着いた照明の店内はお客さんの姿もまばら。パブではなく、レストランを謳うだけあり、前菜からメインまでお料理の品数も豊富です。でも私の心はドアをくぐる前からすでにデザートのバノフィーパイ。前菜もメインのお魚の記憶もかなりおぼろげですが、その分バノフィーパイの美味しさはしっかり覚えています。

とても薄く伸ばされたサクサクのショートクラストペストリーに甘いトフィーの層。フレッシュなバナナがのり、その上にコーヒー風味の生クリームがこれでもかとたっぷり。仕上げには挽いたコーヒー豆がぱらり、そして軽く粉糖。トフィー部分はしっかり甘いのですが、ほぼ甘みを感じないクリームとペストリー、そしてなんと言ってもコーヒーの風味が全体を引き締める最高のバランスで、食後のはずなのに大きな一切れもペロリ。思ったよりも大人味だったのが印象的でした。

バノフィーパイの登場と飛躍

1971年のある日、オーナーのNigel Mackenzie さんとシェフのIan Dowdingさんが新しいデザートのメニューを考えていました。そこでシェフのイアンさんが提案したのが、アメリカのコーヒートフィーパイと呼ばれるもの。これにりんごやオレンジなどいくつかのフルーツの組み合わせを試した後、オーナーのマッケンジーさんがバナナをプラスしてはどうだろうと、生まれたのがハングリーモンクオリジナルのバノフィーパイ(当初の名はSignor Banoffi’s pie)でした。

バナナやクリームの作りがわかるバノフィーパイの断面
ハングリーモンクのバノフィーパイ

そしてこのバノフィーパイがなんと大当たり!レストランにはバノフィーパイを求めて連日大勢のお客さんが押し寄せることに。またその美味しさが評判になったことで、イギリス中にバノフィーパイもどきが溢れることになります。
手間のかかるショートクラストペストリーの代わりにはダイジェスティブビスケットを砕いたものに溶かしバターを加えた、よくあるチーズケーキの土台のようなものが使われ、軽く泡立てられたコーヒー風味のダブルクリームの代わりには、質の低いホイップクリーム、そして、トッピングには挽き立てのコーヒーの代わりに削ったチョコレート。そんなものがバノフィーパイと呼ばれることを憂えたハングリーモンクは、1974年門外不出だったオリジナルのレシピを出版公開します。

バノフィーパイの美味しさのカギは

面白いのはそのトフィー部分の作り方。「缶入りのコンデンスミルクをお鍋の中で缶ごと5時間茹でること」とそのレシピ本には書かれています。そして、完全に冷めた缶のふたを開けてみると~、あら不思議、白いコンデンスミルクがいかにも美味しそうなキャラメル色のトフィーに変身しているのです。このトフィーのなんとも言えないミルキーさと、生クリームにちょっぴり加えるインスタントコーヒーが美味しさのカギ。

3時間茹でたコンデンスミルクの缶を開けると、キャラメル色のトフィーに
缶ごと3時間茹でたコンデンスミルク

これで誰もが、わざわざ Javington村まで赴かなくともオリジナルの味を楽しむことが出来るようになったわけです。
またバノフィーパイブームのおかげでコンデンスミルクの売り上げが急上昇したネスレはバノフィーパイ用にすでにトフィー状になったコンデンスミルクの缶も発売。これがあれば、あっという間にバノフィーパイが作れるというわけです。

キャラメル状になったネスレのコンデンスミルク缶
キャラメル状にすでになっているコンデンスミルク

オリジナルバノフィーとホームメイドバノフィー

ハングリーモンクのオーナーとシェフはダイジェスティブビスケットベースのバノフィーパイを嘆いていたそうですが、結局家庭でより簡単に作れるのはお手軽なビスケットベースのほう。今ではこちらのほうが主流になっています。また生クリームからはコーヒー風味が消え、トッピングもチョコレートのことがほとんどで、より子供たちが好む味に軍配が。
私の中では生クリームに加えるコーヒーの風味とショートクラストペストリーは外せないところですが、シチュエーション(子供たちがいるかなど)によって使い分けています。
そして、元祖ハングリーモンクではバノフィーパイはBanoffi pieという綴りを使っていたので、きちんとコーヒーフレイバーの効いたショートクラストペストリーのものは「Banoffi pie」、ダイジェスティブビスケットベースにコーヒー抜きのチョコレートバージョンの時は一般的な「Banoffee pie」と密かに心の中で区別しているのでした。

日本でバノフィーパイを作るなら

今から10年ほど前、2012年のこと、ハングリーモンクは惜しまれながらも看板を下ろします。
でも大丈夫、懐の広いオーナーのおかげで日本でも同じレシピで同じ味を楽しむことが出来ますから。
~出来ていた、のですが、ここ数年で日本のコンデンスミルクは缶入りからチューブタイプが主流に。缶のコンデンスミルクを手に入れるのが難しくなってしまいました。そこで今日は缶をコトコト数時間煮るのではなく、お鍋でトフィーを作るスタイルをご紹介します。こちらはこちらで多少、バターと砂糖を追加しなくてはなりませんが、トフィー自体はものの数分で出来るので、時間的には相当な短縮、お味も美味しく出来ますので是非お試しを。

バノフィーパイ<レシピ>

~バノフィーパイ~

直径21㎝タルト型 1台分

<材料>

【ショートクラストペストリー】

薄力粉 ___200g
塩 ______ひとつまみ
無塩バター _100g
冷水 _____60ml

【フィリング】

無塩バター _______75g
ブラウンシュガー __75g
コンデンスミルク __400g
バニラエクストラクト(好みで)__少々
バナナ _____3~4本

[A]
┏生クリーム _________200ml(乳脂肪40%台)
┃グラニュー糖 ________小さじ2
┗インスタントコーヒー __ひとつまみ

コーヒー豆を細かく挽いたもの 少々(仕上げ用)

<下準備>

*ペストリー用のバターは冷やしておく
*型の内側にバターを塗る
*オーブン予熱180℃

  1. ショートクラストペストリーを作る
    薄力粉と塩をボールにふるい入れ、バターを加えて指先をこすり合わせるようにしながら、全体をさらさらのパン粉状にします。水を加えて、カードでひとかたまりになるようまとめます。ラップに包んで平らにし、冷蔵庫で1時間ほど休ませます。
  2. ①のペストリーを3mm厚さで、型よりひとまわり大きくなるようめん棒でのばし、型に敷き込みます。焼き縮みを防ぐために、冷蔵庫で30分程冷やしましょう。
  3. フォークでタルトの底に空気穴を数箇所あけたら、アルミホイルで覆って重石をのせ、180℃のオーブンで約20分空焼きします。重石とアルミホイルをはずしてさらに10分、底に軽く焼き色がつくまで焼き、冷ましておきます。
  4. トフィーを作る
    鍋にバターとブラウンシュガーを入れ弱火にかけて、砂糖が溶けるまで混ぜ混ぜながら加熱します。コンデンスミルクとバニラエクストラクト(好みで)を加えて中火にし、絶えずゴムベラで鍋底をこすりながら、濃度が少し濃くなるまで3分程沸騰させて火から下ろします(焦げ付かせないよう注意)。
  5. ③のペストリーにトフィーを入れて平らにならし、トフィーがしっかり固まるまで冷蔵庫で数時間冷やします。
  6. Aを全てボールに入れてホイッパーの跡が消えない程度になるまで泡立てます。バナナは皮をむいて縦半分にスライスし、断面を下にしてトフィーの上に並べ、泡立てた生クリームをこんもりと山型にのせます。コーヒー豆を挽いたものをパラリとちらして完成。

※ 缶入りコンデンスミルク(397g入り)が手に入った場合は、お鍋に缶と缶がしっかりかぶるくらいのお水を加えて蓋をし、3時間ほどふつふつ沸騰させてください。その際は缶がお湯から出ないよう常にお湯を追加するのを忘れずに。そして、缶のふたを開けるのは完全に冷めてから。



安田真理子

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仙台市出身 宇都宮にてイギリス菓子教室「Galettes and Biscuits(ガレットアンドビスケット)」を主宰。イギリスの暮らしに息づくお菓子の味・...

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