茶の湯への憧れとアフタヌーンティー

エキゾチックな東洋文化への憧憬「茶」

華麗な英国文化の象徴アフタヌーンティー。
歴史を辿ると、そこには東洋の茶、そして日本の茶の湯という存在への憧れがありました。

お茶の歴史5000年のなかで、ヨーロッパに初めてお茶がもたらされたのは17世紀に入ってからのこと。
大航海時代、アジアへの航路を開いたヨーロッパの人々にとって、インドの東側にある東洋の世界は、エキゾチックで謎に満ち溢れた魅惑の土地でした。

黄金の国と呼ばれたジパング(日本)にやってくると、あまりに高い文化に強い関心を抱くようになります。なかでも、彼らが魅了されたのは、お茶の存在でした。
1610年、オランダ東インド会社によって、長崎県平戸からヨーロッパに初めてお茶が輸出されました。
このとき渡ったのは緑茶、当時まだ完全発酵茶である紅茶は誕生していなかったのです。

最先端の飲み物であるお茶は、日本の茶道をイメージしながら、ハンドルのないティーボウルから受け皿に移し、音を立てながら緑茶をすすり飲む…という何とも不思議な「オランダ式喫茶法」で嗜むことが教養あるエチケットとされました。

やがて、お茶は東洋趣味=シノワズリーブームの象徴として、ヨーロッパ中に大旋風を巻き起こします。
当時、王侯貴族たちは、贅沢病ともいわれる痛風に悩まされていたのですが、「痛風に効果を発揮する治療薬」とされたのがお茶でした。
東洋人はスリムで痛風知らず、しかも長生き。その秘密は日常的に飲んでいる万病の薬、お茶にある。そんな噂が信じられていたのです。
飲めば飲むほど体によい秘薬とされたお茶を、中国産のティーボウルと呼ばれる小さな茶碗を使い、1日に何十杯と飲んでいたといいます。

1600年代当時、お茶を飲む貴族家族の絵
ハンドルのないティーボウルでお茶を飲む家族 Richard Collins

18世紀 英国式ティーセレモニー

18世紀に入ると、お茶は薬としてだけではなく、社交としても用いられるようになります。
なかでもイギリス人は、お茶の物質的な効果にととまらず、背景にある精神的な価値にまで目を向けるようになったのです。

貴族の館を訪問すると、歓迎を込めてゲストにお茶がもてなされるようになりました。
シノワズリールームと呼ばれる、東洋風に設えられた部屋に茶箪笥を並べ、お茶とともに海を渡って運ばれてきた茶道具一式をうやうやしく取り出し、鍵付きのティーキャディーを前に、トップモードのキャラコを身に纏った女主人自らが、お茶を振る舞いました。

お茶は不発酵茶の緑茶だけではなく、少しずつ発酵茶も作られるようになりました。
ちなみに、紅茶誕生秘話としてまことしやかに語られることがある「船底で偶然発酵して紅茶が生まれた」というのは誤説。英国人の好みにあわせて、中国の茶師がだんだんと発酵の高いお茶を作るようになっていったのです。
ティーキャディーを開けると左右ふたつにボックスが分かれていて、ゲストの好みにあわせて、不発酵茶と発酵茶を中央のミキシングボウルでブレンドするのがトレンドでした。

左右にボックスがあるティーキャディととっての無いティーボウル
18世紀のお茶会に使用されていたティーキャディーとティーボウル

ゲストは扇子を片手に、日本の有田や中国の景徳鎮のティーボウルに入ったお茶の香りをテイスティングしたあと、受け皿に移し替えてから、音を立ててすすり飲む、オランダ式の”Dish of Tea”の所作も流行しました。

当時、ティーセレモニーを開くこと自体がファッショナブルなステイタスシンボルでしたが、
貴重なお茶と美味しいお菓子を味わうことももちろん、会話を楽しむ社交こそが、お茶会の醍醐味でもありました。
ティーセレモニーは上流階級を中心に広まっていき、19世紀のアフタヌーンティーへと花開いていきます。

ジャポニズムスタイルのアフタヌーンティー

19世紀、アフタヌーンティーという独自の紅茶文化を開花させたイギリス。
ヴィクトリア時代後期になると流行は階級を越えて広がり、その最盛期に重なるようにジャポニズム(日本趣味)の大旋風が沸き起こります。
きっかけとなったのが、1862年に開催されたロンドン万国博覧会。日本館が設けられ、日本美術や工芸品に関心が集まるようになると、鎖国によって長く閉ざされた日本へのエキゾティズムも追い風となり、日本に関するものすべてが流行するようになりました。

1885年には、ナイツブリッジのナイツブリッジハンプリーズ・ホールに日本文化を展示する「ジャパニーズビレッジ(日本村)」が誕生。日本人100名余りが渡英し、着物を身につけて茶室でお茶を振る舞ったり、漆塗りや浮世絵などの職人技を紹介し、人気を博しました。

日本趣味は生活様式にも影響をもたらし、アフタヌーンティーのおもてなしにもジャポニズムが登場するようになります。
着物風ティーガウンを身につけ、漆の箸や和紙のティーナプキン、桜椿や菊文様のティーセット、花鳥風月の細工が施されたティーナイフをコーディネートに取り入れた「ジャポニズムの茶会」は最先端のスタイルとなりました。

和洋折衷、ZENスタイルのアフタヌーンティー

日本でも人気の和洋折衷スタイルのアフタヌーンティー。
火付け役となったのはパレスホテルの「ザ パレス ラウンジ」です。
着物を身につけた女性の手には漆塗りの重箱。お重のなかから出てくるのは、美しく盛り付けられた繊細なティーフーズたち…。ティーボウルで緑茶を愉しむことも、茶筅で点てた抹茶をペアリングすることもできます。
そこには、茶の湯とアフタヌーンティーが見事な形で融合し、結晶化した姿があります。

ZENスタイルのお茶会は、日本風にアレンジした斬新なスタイルでもあり、イギリス人が心酔したジャポニズムを彷彿させるものでもあるのです。
新緑の季節、いにしえの歴史を感じながら、アフタヌーンティーを味わってみていただけたらと思います。

和洋折衷スタイル、重箱に詰められたティーフーズと紅茶のZENアフタヌーンティー
都心のオアシスで味わうZENスタイルのアフタヌーンティー 

「ザ パレス ラウンジ」Afternoon Tea DATA

パレスホテル東京(ザ パレス ラウンジ)
アフタヌーンティー
住所:東京都千代田区丸の内1-1-1
TEL:03-3211-5211

メニュー内容、システム、価格、時間など詳細は公式HPで確認ください。
https://www.palacehoteltokyo.com/


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RICO FUJIEDA アフタヌーンティー研究家 東京都世田谷区にて紅茶教室「エルミタージュ」を主宰。 紅茶好きが嵩じてイギリスに紅茶留学。帰国後に東京初...

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