イギリス映画談『帰らない日曜日』
~失うものがなければ幸せかもしれない・・・?~

5月27日封切り

ジェーンとポール
©CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM
INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021

イギリスが大英帝国であったころ

17世紀以降、世界に植民地を増やし勢力を拡大していたイギリスが大英帝国と呼ばれ、世界に君臨するようになったのは19世紀の半ば以降だろうか。20世紀初頭には全世界の陸地と人口の4分の一を収め史上最大の面積を誇って、正に大英帝国としての最盛期を迎えている。第一次世界大戦終結から第二次世界大戦までの間は、アメリカと共に世界の超大国という地位にあった。
映画は唯一無二の大国からアメリカとの2強時代に至る時代を背景に始まる。

大英帝国の上流階級

ニヴン夫妻とメイドのジェーン
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映画では主人公ジェーンがメイドとして働くニヴン家、彼女がその家の息子ポールから家に誘われるシェリンガム家、更にポールの婚約者エマがいるホブデイ家という上級階級に属する3名家が登場する。

ポール・シェリンガム
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イギリスの上級階級についてWikipediaには次の記述がある。「(ジェントルマン階級は)支配階級としての正当性を示すために積極的に責務を務め、犠牲を払うという建前を維持できたことが(上流階級の)体制維持に寄与したと言われる。積極的に従軍したことが裏目に出て、第一次世界大戦を境に衰退」。

マザリング・サンデー

映画の3名家は親しく付き合い、機会があれば食事を一緒にすることもあった。1924年3月の日曜日、マザリング・サンデーの朝から映画は始まる。マザリング・サンデーは、イギリスおよびアイルランドで祝われている母の日だ。復活祭の3週間前の日曜日で、日本の藪入りと同じように奉公人が実家に帰省する習慣がある日。映画の原題はMothering Sunday(マザリング・サンデー)なのである。

マザリング・サンデーに自転車でシェリンガム家に向かうジェーン
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ニヴン家の二人のメイド、ジェーンとミリーもお休みをもらい、ミリーは実家に帰ろうとしているが、孤児院で育てられたジェーンは帰る実家がない。そんなとき彼女の元へシェリンガム家のポールからの誘いが舞い込む。
実はこの日は、ポールとエマの結婚式を間近に控え、3家で前祝をしようと昼食会をすることになっていたのだ。昼食会に遅れても構わないと、シェリンガム家のメイドが実家に帰り、更に両親が昼食会に出かけた後、誰もいない屋敷にジェーンを誘ったのである。弁護士を目指していたポールは法律の勉強があるので遅れると両親に伝えていた。

3名家の昼食会
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静かになった屋敷で愛を交わした二人。かなり遅れはしたが、身なりを整えてポールが昼食会に出かけた後、ジェーンは裸のまま屋敷内を見て回る。革張りの大きな本が沢山収められた書棚から本を抜き出して読んだりしながら、ゆっくり時間を過ごしニヴン家に帰っていく。

ジェーン・フェアチャイルド
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上流階級の第一次世界大戦

映画に登場するニヴン家には2人の、シェリンガム家には3人の息子がいたのだが、ポール以外の4人は第一次世界大戦に出征し戦死してしまっていたのだ。正に積極的に従軍していたのである。この日の昼食会が今一つ盛り上がらないのは、一つには主賓格たるポールが遅れていることがあるのだが、裏には4人の戦死が大きく影を落としている。エマは元々ニヴン家の長男ジェームズの恋人だったことも分かってくる。

ニヴン家のディナー席でポールとエマにワインを次ぐジェーン
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昼食会の場でも心ここにあらずのような、寂しげなニヴン家の母は2人の息子を共に戦争で失っていたのだ。その悲しみに彼女は囚われている。ある時、彼女はメイドであるジェーンに告げるのだった。”あなたは失うものを、失う人を持っていないからいいのよ。それをあなたの強みにしなさい”と。

クラリー・ニヴンとジェーン
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驚きの女優が出演:映画を作った人たち

メイドのジェーンを演じるのは、オーストラリアのTVで子役時代から活躍してきたオデッサ・ヤング、1998年1月シドニー生まれの女優。
ポールは1990年生まれのイギリス人俳優、ジョッシュ・オコナーが演じている。
ニヴン家の夫婦は、コリン・ファースとオリヴィア・コールマンが演じている。共にアカデミー賞主演賞(ファースは「英国王のスピーチ」で、コールマンは「女王陛下のお気に入り」で、共に英皇室を描いた映画)を獲得している名優だ。

ゴドフリー・ニヴン(コリン・ファース)とジェーン(オデッサ・ヤング)
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驚きの女優はグレンダ・ジャクソンだ。80歳代のジェーンを演じている。1936年5月生まれの彼女は、1969年の「恋する女たち」と、1973年の「ウィークエンド・ラブ」でアカデミー賞主演女優賞を2度受賞している。強い個性と圧倒的な演技で画面を圧倒した。しかし、1992年に女優を引退し政治家に転身、運輸政務次官になったこともある。2015年に政界から引退、翌年にはロンドンの舞台に「リア王」のリア王を演じて復帰していた。映画はこの「帰らない日曜日」が復帰作となった。
監督は1977年生まれのフランス人女性エヴァ・ユッソン。

その後のジェーンの運命は?

タイプを打つ後年のジェーン
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映画は40代半ばになったジェーンの生き方と、80歳代になった彼女の姿を見せる。
それまでに数々の失う経験もしてきたであろう彼女はどんな人間になったのだろうか?それとも、悲しみに出会わないように失うもの、人を持たないように生きてきたのだろうか?

》『帰らない日曜日』公式サイト https://movies.shochiku.co.jp/sunday/

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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