スティッキートフィープディングのお話しとレシピ

スティッキートフィープディングとの出会い

お皿にのったスティッキートフィープディング とバニラアイス
スティッキートフィープディング

「スティッキートフィープディング」~何の予備知識も持たず生まれて初めてイギリスで食べたそれは、まずは温かいことに驚き、そして「ひゃ~甘い!」。
でも、添えられた冷たいバニラアイスと食べ進めるうちに、「なんだろう、甘いけれどやめられない、これ美味しいかも~」。地味な茶色の四角いスポンジに、溢れんばかりのトフィーソース。決して美しい見た目ではないけれど、一度その美味しさを知ってしまった後は、メニューに見つけたら頼まずにはいられない、中毒性のあるプディング。

イギリス人のお気に入りデザートランキングに!

ランキング好きのイギリス人、毎年、好きなビスケットや、好きなケーキなど様々なランキングが発表されます。2020年のお気に入りプディング(デザート)ナンバー1はこのスティッキートフィープディング(Jack&Beyond調べ)。ちなみに同率一位はプロフィットロールとレッドヴェルベット、ティラミス。ワーストはフルーツケーキ(どっしりとしたドライフルーツたっぷりのケーキ)、ミンスパイ、クリスマスプディング。

スティッキートフィープディング色々
スティッキートフィープディング色々

昔から食べてきた重い伝統的なものは古臭いとそっぽを向かれ、口当たりの軽い、海外風のものにあこがれるのは日本もイギリスも一緒のよう。

古くから製菓材料として馴染みのドライフルーツ、デーツ

そんなイギリスで大人気のスティッキートフィープディングとはいかなるものか。このサイトをご覧になられているイギリスファンの皆さまにとっては既知の事実も多いかもしれませんが、、。まずはその材料。見た目からは分かりませんが、小麦粉、砂糖、卵、バター、そのどれよりも多く入れられているのがデーツ。あの、暑い国で採れるイメージのなつめやしの実です。意外ですがデーツはイギリスでは古くから製菓材料として馴染みのドライフルーツ。スーパーでもホールのものから、刻んだもの、果ては一度刻んだものをブロック状に固めたものまで売られています。また、贈答用やちょっとしたプチフール代わりとしてファンシーな箱に一粒ずつチョコレートのように詰められているものも。

イギリスで売られているいろいろな種類のデーツ
デーツ色々

このデーツを刻んで重曹とお水(または紅茶など)と共に加熱すると、あっという間にどろりとしたまるであんこのようなペースト状になります。これをたっぷりとケーキ生地に加えることで、あの特有の驚くほどしっとりとした食感が生まれるのです。生地に溶け込んで姿が見えないので言われるまで気づきませんが、どこか懐かしいようなコクのある甘さの正体もこれ。干し柿にも似たデーツの味わいは日本人にとってとても親しみやすい味です。

温かなプディングに温かいトフィーソースが美味しさのカギ

さて、ここまでは大抵どの作り手も大差ないのですが、違いが出るのが加熱の仕方。プディングベイスンに入れてじっくり蒸す派(出来上がりはこれが一番しっとり)。オーブンで焼く派、オーブンで湯せん焼きにする派などなど。サイズも、大きく作って切り分けても、小さく一人用に作ってもOKなので、見た目も大分バリエーションがあります。
トフィーソースの材料は、バターにブラウンシュガー、生クリーム、そしてコクをプラスしたい時はブラックトリークル(モラセス)。これらをフツフツと煮たてて作ります。べたべた(スティッキー)とした、この甘く危険なソースが名前の由来。

トフィーソースをたっぷりかけたスティッキートフィープディング
スティッキートフィープディング

温かなプディングに、これまた温かいトフィーをたっぷりと、ダイエットという言葉は忘れてかけるのが美味しさのカギ。そこに冷たいバニラアイス、または泡立てていない冷たい生クリームをタラリ、もう思い残すことはない、甘党ならそんな気になれるプディング。

スティッキートフィープディングのオリジナル論争

そして、人気のあるプディングにつきものなのが「うちこそがオリジナル」論争。長い歴史を持つお菓子が多いイギリスの中では、バノフィーパイと並んで、ここ数十年で現れたニューフェイスの部類なので、はっきりしているのかと思いきや否。
一番有名なのは、イングランド北部、湖水地方にある「Sharrow Bay」ホテルのシェフが1970年代に作り始めた、というもの。こちらは今もホテルの看板メニューです。

四角いスティッキートフィープディングとたっぷりのソースにバニラアイス
シャロウベイホテルのスティッキートフィープディング

もうひとつはランカシャーのClaughtonでホテルを営んでいたMrs. Martinという女性が、そこに宿泊していたカナダ人からレシピを教えてもらったという説。そのレシピは1971年出版の料理本 「The Good Food Guide Dinner Party Book」 にも掲載され~こちらは長方形の型に生地を入れてオーブンで焼き、焼き上がったその上にトフィーをかけてグリルの下でもう一度ふつふつっとする程度に加熱したら出来上がり~というもの。これはこれでトフィーがしっかり生地に染み込んで美味しそうです。こちらがスタートだとすると、スティッキートフィープディングの生まれ故郷はカナダ生まれということ。確かに他のイギリス菓子とは異なる食感ですから、ありえなくはありません。

いずれにせよ、ランカシャーや湖水地方は海外との貿易が盛んだったため、昔からデーツやラム、黒砂糖、スパイスといった異国の食物が地方菓子に見受けられる地域。デーツやブラウンシュガーをたっぷり使うスティッキートフィープディングはここで育まれるべくして育まれ、イギリス中に広がっていったお菓子なのでしょう。

木になっているデーツ
デーツ(チュニジアにて)

近頃は美容と健康に良いと日本でも大分手に入れやすくなったデーツ。寒い今の季節にこそ食べたいイギリスナンバーワン人気のあったかデザート、是非一度お試しを♪

スティッキートフィープディング<レシピ>

Sticky toffee pudding

~スティッキートフィープディング~

18cm 角型1台分

<材料>

デーツ(種抜き)_ 200g
濃く淹れた紅茶 __200ml
重曹 _________小さじ1
無塩バター ____75g
ブラウンシュガー __150g
卵 ___2個

【A】
┏ 薄力粉 ____________175g
┗ ベーキングパウダー __小さじ2

<トフィーソース>
生クリーム ______200ml
ブラウンシュガー _100g
無塩バター _____40g
バニラエクストラクト __少々
ブラックトリークルまたはモラセス(あれば) __小さじ2

バニラアイスクリーム(トッピング用)

<下準備>

*型にオーブンペーパーを敷いておきます
*バターと卵は室温に戻しておきます

<作り方>

  1. デーツを小さく刻み、紅茶、重曹と共に鍋に入れて中火にかけます。2~3分煮立たせたら火をとめ、デーツが水分を吸うまでそのまま冷ましておきます。
  2. バターにブラウンシュガーを数回に分けて加えながら、ホイッパーで軽くふんわりするまで攪拌します。卵を割りほぐし、少しずつ加えながらさらによく混ぜます。
  3. ②のボールに【A】の粉類を合わせてふるいながら加え、ゴムベラで軽く混ぜたら、すぐに①のデーツも加えて、なめらかになるまで混ぜあわせます。
  4. 準備した型に生地を流し入れ、170℃のオーブンで45分程焼きます。
    (火が通ったか、竹串などを刺してみて確かめましょう)
  5. トフィーソースを作る
    鍋にトフィーソースの材料全てを入れて弱火にかけます。時々混ぜながら砂糖が溶けて沸騰してきたらさらに3~4分ほど混ぜ続けて火からおろします。

焼きあがったケーキを好みのサイズにカットし、温かいトフィーソースとバニラアイスクリームを添えていただきましょう。(ケーキが冷めているときはオーブンあるいはレンジで軽く温めて)

※ 一人用のプディング型など小さな型で焼くときは器にバターを塗って生地を入れ、焼き時間は20~25分位でOKです。


安田真理子

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仙台市出身 宇都宮にてイギリス菓子教室「Galettes and Biscuits(ガレットアンドビスケット)」を主宰。イギリスの暮らしに息づくお菓子の味・...

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