アフタヌーンティーの歴史を紐解く
 発祥の館ウォーバンアビーを訪ねて

アフタヌーンティーの誕生ストーリー

日本でも一大ブームになっているアフタヌーンティー。
正統な英国式スタイルといえば、ホテルのラウンジへ行き、三段スタンドを前に行うのが正式と考えているかたもいらっしゃるのではないでしょうか?

実は、私たちが思い描くようなスタイルが確立されたのは20世紀に入ってから、ホテルやティールームではじめられた形式です。
元々は、自宅にゲストを招いておもてなしをするという、日本の茶道のようなスタイルから発祥しました。

アフタヌーンティーをより深く楽しむために、
このイギリスからはじまった午後のお茶の習慣アフタヌーンティーが、
いつ、どこで、どのようにして誕生したのか、ストーリーを探ってみましょう。

一人の貴婦人の空腹からはじまったアフタヌーンティー

イギリスでアフタヌーンティーの習慣がはじまったのは、19世紀ヴィクトリア時代。
七つの海を支配し、まさに大英帝国を築いたイギリスが最も華やかだった頃、イングランドのベッドフォードシャーに佇むウォーバンアビーの館に暮らす一人の貴婦人が考案した午後のお茶会から発祥しました。

女性の名は、ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリア・ラッセル。
(Anna Maria Russell, Duchess of Bedford 1783-1857年)
英国王室の女官(a lady-in-waiting)を務めるほどの名門貴族夫人です。

ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリア・ラッセル

時は1840年頃、当時の貴族階級の生活は、朝はゆっくりと起きて遅めの朝食兼昼食をいただき、夜の8時過ぎからはじまるディナーやパーティーまでお食事をとらない1日2食のライフスタイルでした。
そのうえ、当時女性は<ウエストが細ければ細いほど魅力的>であるとされ、コルセットは必須アイテム。キツくコルセットで締めつけくびれを作り、その上に重いドレスを身に纏って暮らしていました。

女性たちは、コルセットの息苦しさで頭痛や息切れに悩まされ、午後4時頃になると空腹も重なって失神する貴婦人も絶えませんでした。

アンナもこの<魔の時間帯>になると、「憂鬱で気が滅入る」と口走り、メイドに紅茶とクランペットをのせたトレイを自分のベッドルームに運ばせ秘密のお茶時間を過ごすことが日課となっていきました。

はじめは一人でその優雅な時間を愉しんでいたのですが、非常に社交的だった彼女は、この時間をシェアしたいと考え、親しい女友達を招くようになります。
まずは一人、気軽にお部屋へ招き入れ一緒にお喋りしながらのティータイム。
次に2人3人とゲストが増えていくと、天蓋付きのベッドのそばに小さなティーテーブルを出し、クロスを敷き、お気に入りのティーカップや銀器をしつらえるようになります。

また、アンナの夫である第7代ベッドフォード公爵フランシス・ラッセルは政治家でもあったため、館には訪問客が絶えませんでした。
公爵が男性ゲストを引きつれ、ハンティングやシューティングに興ずる間、アンナは夫人がたをドローイングルーム(女性ゲストがお茶を愉しむための部屋)へ招き入れ、ディナーまでの時間をお茶会でもてなすようになります。
紅茶の種類やティーフーズの品数も増えるにつれ時間も長くなっていき、
おもてなしを受けた貴婦人は、次に返礼として館に招き返すようになり、
それは、だんだんと社交の時間へと発展していきました。
1870年頃になると、この習慣は~アフタヌーンティー・午後のお茶会~と呼ばれるようになったのです。

ウォーバンアビーの外観

アフタヌーンティー発祥の館ウォーバンアビーへ

ヴィクトリア時代、貴族の邸宅で誕生したアフタヌーンティー。
発祥の館であるウォーバンアビーは一般に公開されていて、訪ねることができます。
今もなお、第15代ベッドフォード公爵が所有するカントリーハウスはロンドンから車で1時間ほど。
敷地面積は約3,000エーカー、坪数でいえばざっと360万坪。
エントランスをくぐり抜けると、湖や馬場、ゴルフコースやサファリパークまであり、お屋敷までドライブしている間に鹿の群れに遭遇することもあり、領主の敷地がいかに広大なのかを実感します。

ウォーバンアビーを記述した書籍

館内にもホールを中心としていくつもの部屋があり、アフタヌーンティーが開かれた
<ブルー・ドローウィング・ルーム>The Blue Drawing Room を探すことも一苦労。
その名の通り、鮮やかなブルーの壁に囲まれた部屋の中央には豪華絢爛なマントルピースが存在感を放ち、そのまえにはティーテーブルがしつらえられています。                                                               ヴィクトリア女王から贈られたというティーポットをはじめ、ティーセット、ティーベルまで飾られていて紅茶好きには必見です。

ダッチェスティールーム

イングリッシュガーデンを眺めながらお茶ができるダッチェスティールームでは、気軽にアフタヌーンティーを愉しむこともでき、ショップにはオリジナル紅茶やアンナマリアをモチーフとしたグッズなども並んでいます。
おすすめはアンティークショップ。ロンドンのマーケットや郊外のフェアなどとはまた一味違う品に出会うことができます。

ヴィクトリア時代に思いを馳せながら、アフタヌーンティー誕生の地で味わう紅茶は忘れられない一杯に…。
アフタヌーンティーをテーマとした素敵なイギリスの旅…、いかがでしょうか。

Woburn Abbey
Woburn, Bedfordshire, MK17 9WA
https://www.woburn.co.uk/


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RICO FUJIEDA アフタヌーンティー研究家 東京都世田谷区にて紅茶教室「エルミタージュ」を主宰。 紅茶好きが嵩じてイギリスに紅茶留学。帰国後に東京初...

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