イギリス映画談『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』
~貴族の館で時代は続く~
9月30日封切り
おもしろいテレビドラマがある
以前ロンドン支店で働いていた会社の同僚から、面白いイギリス製のテレビドラマが日本で放映されていると聞いたのは10年ほど前だったろうか。貴族の一家を描いたそのドラマは『ダウントン・アビー』と言い、人間関係が赤裸々に描かれ、貴族階級の生活を見せてくれるというのだ。いかにもイギリス人らしい性格や物言いが描かれているという。
この放送をご覧になった方も多いのではないだろうか。
イギリスで放送が開始されたのは2010年9月26日、その後毎週1時間枠のドラマが7話放送され、第1シーズンは同年11月7日に終了している。冒頭でタイタニック号沈没事件を取り入れた第1シーズンが評判を呼び、その後毎年同時期に第2~第6シーズンのドラマが放送されている。この5シーズンでは各8話が放送、更に第2シーズン以降は毎年12月25日にスペシャル番組が放映され、合わせて1年に9話が放送されている。テレビドラマは6年間に全52作品が作られたことになる。
『ダウントン・アビー』の基本情報
ヨークシャーにあるカントリーハウス「ダウントン・アビー」の城主である第7代グランサム伯爵・ロバート・クローリーの家族を中心に貴族階級とその使用人たちの世界が描かれる。
フィクションとしてオリジナルで書かれたドラマなので、カントリーハウスの名前も伯爵名も架空である。原案、脚本(脚本は他の人と共同)を担当したのはジュリアン・フェロウズ、2001年の映画「ゴスフォード・パーク」でアカデミー脚本賞を受賞している。この映画は1932年マナーハウス・ゴスフォードパークを舞台に貴族とその使用人たちを描いたもの。
製作会社カーニヴァル・フィルムはエドワード朝時代(1901~10年エドワード7世在位時代)のカントリーハウスでのドラマシリーズを考えていて、フェロウズにアプローチしたようだ。それを受け、「ダウントン・アビー」の基本線をフェロウズが書いたことになる。
ドラマの中でダウントン・アビーとして使われたのは、1842年に完成したハイクレア・カースル、ロンドンの国会議事堂と同じチャールズ・バリーによって設計されている。ロンドンから西に100㎞程にあるマナーハウスだ。夏の期間のみ一般に開放され見学が可能。このマナーハウスの主であるカーナーヴォン伯爵はフェロウズの友人でもあるらしい。
※コラム「世界中で大ヒット!映画・テレビドラマ『ダウントン・アビー』のロケ地をめぐる」で、ロケ地をご紹介しています。併せてご覧ください。
時代とともに語られた各シーズンのドラマ
第1シーズンの時代は1912年。当時は最近縁の男系(父啓)男子一人のみに爵位と財産の総てを相続させるという限嗣相続制であった。タイタニックの沈没により、娘3人の父親である主人公ロバート・クローリーの相続人であった2人の男性が亡くなってしまう。一人は従兄弟のジェームズであり、もう一人はその息子パトリックだった。パトリックは長女メアリーの婚約者だったのである。タイタニック沈没という歴史的事実に上手く結び付けて描かれる人間関係のドラマ。このシリーズドラマの特徴が見る者の気持ちを取り込んでいく。
第2~第6シーズンのドラマも、それぞれの時代の事件を取り入れながら進められた。その年代と事件は次の通りだ。
第2シーズン:前シリーズが終わる時始まった第一次世界大戦が続いている1916年から始まり、多くの男性が出征する。1918年の終戦直後からスペイン風邪が世界的に流行する。
第3シーズン:1920年から始まるシーズンはアイルランド独立戦争があり影響を受ける人も。
第4シーズン:1922年からのシーズン中には、アメリカで政治がらみの汚職事件ティーポット・ドーム事件、ダウントンでは人間関係の動きが激しい。
第5シーズン:1924年1月に英国史上初となる労働党政権が誕生している。
第6シーズン:1925年社会情勢の変化から貴族の財政が逼迫、クローリー家でも使用人の削減を検討する。
続きは映画でご覧ください
2015年にテレビのシリーズが終了した後、2019年9月に映画「ダウントン・アビー」がイギリスで公開された(日本では2020年1月の公開)。物語の時代は1927年となり、テレビシリーズの続きとなる。脚本はジュリアン・フェロウズ、俳優陣も同じメンバーが起用されている。
1927年、国王ジョージ5世とメアリー王妃が行幸途中にダウントン・アビーを訪れるという物語。ダウントン・アビーの住人たち(伯爵家+使用人)に王室関係の人々のドラマも加わり、さらに王室の使用人とダウントン・アビーの使用人の対立も描かれ、面白い映画になっている。
新しい映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』は1928年から始まる
今年完成した映画の第二弾「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」は、映画第一作の続編と言える。登場する主要人物はほぼ同じ、今回のエピソードに沿って新たに登場するのは映画撮影隊のメンバーと、フランス人侯爵の親子。
この作品のメインエピソードはダウントン・アビーの館を使って映画を撮影しようとするもの。前年1927年に初めてのトーキー映画「ジャズ・シンガー」がアメリカで公開され大ヒットとなっていた。映画はサイレントからトーキーになろうとしている時代だったのだ。この時代のことはミュージカル映画「雨に唄えば」で軽快に面白く描かれているが、今回の「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」でもそんな状況が描かれる。ちなみに撮影されていた映画の題名は「ギャンブラー」。
そしてもう一つのエピソードはロバートの母・先代グランサム伯爵夫人のバイオレットにフランスの公爵から贈られた南フランスの別荘を巡る物語。
別荘が贈られた理由は?それを調べに、最近はベッドに寝たきりのバイオレットに代わって、ロバート夫妻をはじめ総勢8人で出かける。そこで見つかったものは?
多くの俳優の中で一人挙げるとしたらバイオレットを演じたマギー・スミス、1969年のアカデミー賞主演女優賞を受賞した「ミス・ブロディの青春」からずっと見続けてきた。今回はずっと寝たきりの演技だったけれど流石の貫禄でした。でも軽い、そこが彼女の良いところ。
ダウントン・アビーの伯爵一族と使用人併せて22名、映画関係者で3名、フランスの2名と合計27名の大ドラマ。細かいところまで丁寧に作られたドラマには、きっとどなたもが魅せられてしまうでしょう。
公式サイト:https://downton-abbey-movie.jp/