イギリス映画談 ~父と息子の物語『いつかの君にもわかること』

2023年2月17日公開

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じっくり味わう、こんな映画

父と息子を描く映画は、シンプルに二人の物語に迫っていく。
33歳の父と4歳の息子が二人で生活、暮らしている。イギリスのどこかの町、都市名さえはっきりしない。撮影は北アイルランドで行われたようだ。監督はそうしたことは殆ど気にしない。

戸外の長椅子に腰掛ける父ジョンと息子マイケル
父ジョンと息子マイケル
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父親のジョンは窓拭きを職業としている。高層ビルの窓ではなく、普通の民家や商店の窓を拭くのである。民家でも高いところにある窓や、拭きにくい窓を拭く。こうした窓拭きは日本にある職業だろうか?1軒1軒訪ねて拭いていく。どういう形で依頼が入るとか、彼がどこかの組織に属して働いているのかは分からない。監督にはこうしたことも描く気がないようだ。

戸外の椅子に座りマイケルを眺めるジョン
ジョンの見つめる先にはマイケルが遊ぶ
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母親はマイケルを出産した6か月後、ロシアに帰ってしまい戻ってこない。頼れる身内もいず、ジョンは正に男手一つでマイケルを育ててきた。息子が4歳になった今、大きな問題が父親の側に発生する。病から余命わずかになってしまったのだ。どんな病なのか、これも詳しくは描かれていない。

赤い風船を持つマイケル
赤い風船を持つマイケル
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4歳の子が一人で生きていける訳がない。彼を信頼できる人に託さなければならない。養子として彼を受け入れてくれる家族を探すのである。そのことだけを描いている映画だ。

ゆっくり描く、監督はこんな人

監督はウベルト・パゾリーニ。イタリア生まれの65歳。調べても、例えばイタリアのどこで生まれたとか、映画界に入るまでにどんなことをしていたのか、何処にも書かれていない。ただ、イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティの大甥だという情報がある。1983年に映画業界に入りとあり、ヴィスコンティのコネかと思ったが、彼は既に1976年に亡くなっていた。製作助手を務めた「キリングフィールド」(84)が英国アカデミー賞の作品賞を受賞とある。90年代以降は主にプロデューサーとして活躍、手掛けた作品の中では「フル・モンティ」(97)が全世界で大ヒットしている。
2008年には「Machan」(日本未公開)という映画で監督デビューをしている。2013年に監督2作目「おみおくりの作法」発表し、監督3作目が「いつかの君にもわかること」で2020年に発表されている。
更に2022年には日本映画「アイ・アムまきもと」に原作者・エグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされている。この作品は「おみおくりの作法」の日本でのリメイク、阿部サダヲが主演している。違和感のないこの日本映画にもプロデューサーの一人として関わっていたとは驚く。オリジナル(エディ・サーマン主演)と同じく、主人公の純粋さが際立っていた作品だ。

父と息子を演じたのは、こんな俳優

父と息子の物語は、父ジョンがジェームズ・ノートン、息子マイケルがダニエル・ラモントによって演じられた。

テーブルの上のバースデーケーキを挟み向かい合うジョンとマイケル
34本のロウソクのケーキとマイケル
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ノートンは1985年イギリス生まれの俳優、テレビ、映画で活躍している。最近の映画には「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」がある。
ラモントは2014年9月24日北アイルランド生まれ、勿論これがデビュー作。100人以上の候補者の中から選ばれている。出演当時4歳だったことを考えると、確かに実にしっかり演技している。ノートンは北アイルランド・ベルファストの彼の家を何度も訪ね、おもちゃなどで彼と遊んだという。そのため、撮影の時セットではノートンの横で演技するのを喜んでいたという。

物語の続きは、こんな風

ジョンはマイケルを連れて養子縁組を希望する家を何軒も訪ねる。マイケルが安心して楽しめる家族なのかどうかを確かめたいためだ。

顧客の女性の庭で話すジョンと顧客の女性
顧客の女性と話すジョン
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裕福で教育に熱心な家庭、既に女の子を養子にしている家庭は夫が郵便局員、今までにも複数人の養子を受け入れ自分の子供たちと一緒に育てている家庭、16歳で出産した子供を養子に出されてしまい、その後結婚、離婚した後も子育てをしたいと願う女性・・・。
“ようしってなに?”突然マイケルに訊ねられながら、ジョンは最期が近いことを感じ、働くことを辞め、仕事道具を売ったりして準備を進めていく。

生と死について伝える

ソファで眠るジョンとマイケル
ソファで眠るジョンとマイケル
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公園で遊んでいたマイケルが木の根元に動かない虫を見つける、ジョンは身体だけが残っているんだよと教える。パパもいつか体だけが残るんだよ、話しかけても答えないけど、いつでも話しかけていいんだよ。
こんな風に、この映画にはところどころに生と死が顔を出す。ジョンやマイケルのちょっとした言葉や行動にそうしたものが感じられる。死に向かって進んでいる父と、息子がきちんと生きることができるように新しい家を探す父。
前作「おみおくりの作法」に続き、ウベルト・パゾリーニ監督は、シンプルに、優しく死と生について伝えてくれる。

公式サイト:https://kinofilms.jp/movies/nowhere-special/


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