イギリス映画談 ~スーパーノヴァ~

スーパーノヴァポスター
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

人間として、いや総ての生まれたものの宿命として死というものが存在する。

スーパーノヴァは超新星のこと。これは、従来新星と言われていた星より何倍も明るい輝きを発する星が1885年にアンドロメダ銀河の中に現れ、新星(ラテン語でNova)を超えるという意味でSupernova(超新星)と呼ばれるようになったという。しかし、この輝きは爆発によって発光されたもので、その後は星自体の存在がなくなるという。正に最後の輝きとして現れたものだ。
最後に輝きを際立たせるスーパーノヴァという題名のこの映画、最後に輝かせるものは何だろうか?

主演のサムとタスカ―
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

主人公はピアニストのサムと、作家のタスカー。共に人を感動させることを職業としている二人が、キャンピングカーで出かけるところからはじまる。運転しているのはサム、隣に座るタスカーが何かを探していると、頭の上にメガネがあることを教える。少し長めの車の旅、ナビを使おうとするサムに、無機質な音声で指図されるなんて御免だね、まるでサッチャーみたいだとタスカー、車内での会話とともに車は順調に進んでいく。

キャンピングカーでの旅
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

食料品店SPARでサムが買い物をして車に戻ると、タスカーの姿が見えない。スマホで呼んでも返事がない。探して進むと、道の先に犬と一緒の姿が。その夜、もう薬は飲まない、効果がないからと伝えるタスカー。病名は分からないが、徐々に病状が進み、最終的には自分では動けなくなり、記憶もなくなっていくらしい。二人は50代半ばというところだろうか、それぞれ自分の地位を確立し、これからはどんどん熟成していくという年代だ。そんな彼らの前に、タスカーの病気が立ちふさがる。完全な回復が望めず、やがて死に至る病のようだ。

暖炉の前のサム
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

やがて車は湖のほとりにやって来る。20年ぶりにやってきた湖と周りの風景はかわっていなかった。イングランドの北西部、広大な地域にいくつもの湖が点在する湖水地方だ。出会った直後にやってきたこの地で、タスカーが愛を告白した思い出の地。それ以来二人は一緒に暮らしてきた。タスカーは天文学が好きで、旅にも望遠鏡を持ってきている。自然が広がる地で、夜空を仰ぎ、星を眺める。

天体観測するサムとタスカ―
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

この旅は、久しぶりにサムの演奏会が行われる地(多分スコットランドのどこか?)を目指して、湖水地方に寄ったり、サムの実家で今は姉夫婦が住む家を訪れた後、演奏会場の近くで1軒家を借り演奏準備をしてから、会場に行こうという計画だ。
出発してから5日間、2人は互いに思いやりながら、様々に会話を続ける。

サムを演じるのはコリン・ファース。1960年9月10日、イギリス・ハンプシャーに生まれる。大学で演技を学び舞台の「アナザー・カントリー」に出演、同作の映画版にも出演して映画デビュー。彼が人気を確立したのは1995年にBBCで放映されたドラマ「高慢と偏見」のダーシー役という。残念ながら私は見ていないが、知人の女性が見ていてこのダーシーが素敵だったと話しているのを聞いたことがある。実際このダーシーを基に「ブリジット・ジョーンズの日記」のマーク・ダーシーを作り上げたと、作者のヘレン・フィールディングが言っているほどの人気だったらしい。後に「ブリジット・ジョーンズ」が映画化された時、マーク・ダーシーを演じたのは当然コリン・ファースだった。他にも、「マンマ・ミーア」「シングル・マン」「レイルウェイ 運命の旅路」「キングスマン」等に出演。2010年の「英国王のスピーチ」で米アカデミー賞主演男優賞を受賞している。少し陰のある、いかにもイギリス人らしい佇まいが彼の持ち味。

サム
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

タスカーを演じるのはスタンリー・トゥッチ。1960年11月11日、アメリカ・ニューヨークでイタリア系アメリカ人の家庭に生まれている。舞台でデビューした後、1985年以降多くの映画にも出演、脇役ながら強い印象を残す俳優だ。その印象はそり上げたスキンヘッドと大きな目からできている。「プラダを着た悪魔」で主人公アン・ハサウェイにファッション指南するゲイのナイジェルの印象が一番強いだろうか。「ラブリーボーン」ではかつらをかぶって悪い奴ジョージ・ハーヴィを演じているが、優しげな大きな目は変わらない。イタリアン・アメリカンのニューヨーカーは、ロンドンに住んでいたこともある。「プラダを着た悪魔」は彼にとっても重要な作品だったらしい。共演したエミリー・ブラントの姉と結婚し(エミリーがコモ湖で結婚式を挙げた時に紹介されたらしい)、同じく怖い編集長役だったメリル・ストリープは今も大親友だという。

タスカ―
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

二人は1960年生まれの同い年。今回の共演以前から友人だったらしい。

映画の脚本を書き、監督したのはハリー・マックィーンという1984年生まれのイギリス人。俳優から監督になって2作目が「スーパーノヴァ」だ。

コリン・ファース自身が弾いている、サムの演奏会での「愛の挨拶」(エドワード・エルガーが婚約者キャロライン・アリス・ロバーツに捧げた曲)を聞きながら、作品の最後に何が輝くのか、作品をご覧になって見つけてください。

7月1日(木)TOHO シネマズ シャンテ 他 全国順次ロードショー


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『スーパーノヴァ』
2021年7月1日(木)公開

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ROKU

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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