イギリス映画談
~日本と似ていないイギリスの部分『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声』~
歌って笑って、強くなる—-!
5月20日(金)封切り
イギリスと日本
イギリスは日本に似ている部分があるとよく言われる。島国、しかも比較的小さい島国であること。車が左側通行。立憲君主制、経済力は共に世界のベスト10入り(日本3位、イギリス7位)。お茶を飲む習慣がある。そして激しい感情表現を嫌うとも言われる。確かに、他のヨーロッパ諸国と比べると、性格的にも日本人に似ている部分があるなあと感じられる。
しかし、この映画を観ていると印象が変わった。映画は実話から作られている。軍人の妻たちが作った合唱団の話だ。
舞台はイギリス軍の基地、キャタリック駐屯地
舞台はキャタリック駐屯地、イギリス陸軍最大の基地だ。キャタリックはノース・ヨークシャー州の村、ロンドンから北に約380km、ヨークからは北北西に70km弱のところにある。時代は2009年、長く紛争が続いているアフガニスタンに出兵する軍人たちが家族と別れる場面が描かれる。二人で暮らす大佐夫婦の別れから、最近軍曹に昇格した黒人兵と白人の妻の夫婦とその娘、結婚したばかりの若い夫婦の別れまで、心配しながら送り出す家族の姿を見せている。ウクライナでの厳しい戦いが連日報道されているためか、家族たちの不安が一層強く感じられる。
二人の軍人の妻
大佐の妻ケイトは、「銃後の守り」をどうするかと考えた訳ではないだろうが、夫が戦っている間妻たちをきちんとまとめておきたいという気持ちが強く、軍曹の妻リサをリーダーにして、何かを始めるよう皆で相談しようと持ち掛ける。
総てのことをきちんと考え計画通りに進めようとするケイトと、何事にも柔軟に、言ってみればその場しのぎで適当にやろうとするリサ、相性が良いとはとても言えない。合唱をやろうと決まった後でも、それをどんな風に進めるかがこれまた違う。ケイトはまず担当するパート分けを行い、そのパート毎に発声練習をしようとするのだが、リサは皆が知っている歌を一緒に歌えばいいといった風だ。ここまで合わない二人がトップにいるというのは、グループ運営をする上で大変だ。しかも、2人とも簡単に引き下がろうとはしない。日本であれば、ここまで対立する前にどちらかが引き下がるだろう。夫の位から言えば大佐の妻に軍曹の妻が従うというところだろう。この関係が結構最後近くまで続き、あわや最後までうまくいかないかもと思わせるほどだ。それくらい2人は自分の思いをぶつけあう。言いたいことをきちんと言っている。黙ってしまうということをしない。日本では見られない風景だ。
軍人の妻合唱団
合唱団はなんとかかんとかといった調子で徐々にまとまっていく。監督は次のように言っている。
”総ての歌唱シーンはアマチュアの合唱団(この軍人の妻合唱団の事ですね)の不完全な状態で、撮影現場でライブ録音をしています。最後に歌われる曲だけは撮影前に練習をしましたが、初期の歌については粗削りな自然さを大切にするため、リハーサルを行っていないのです。”
道理で、練習シーンが徐々にうまく歌われるように聞こえる。そんな時、毎年行われる戦没者追悼イベントで歌ってほしいという依頼が来る。会場はロイヤル・アルバート・ホールだ。
ロンドンのサウス・ケンジントン近くにあるドーム型の円形劇場で、8,000人のキャパシティがある。オペラからロックまで、そして日本からの大相撲公演まで、様々な演目が上演される大劇場だ。
実話に基づく映画
これは絶対成功するよねというところだが、それほど単純ではない。
リチャードとケイトの大佐夫妻にはジェイミーという息子がいたのだが、物語が始まる前に戦死しているという設定だ。ケイトにとっては夫と息子が軍人だったが、軍人の妻であるが故の悲劇に見舞われていたのだ。更にアフガニスタンで負傷したり、戦死する兵士もでてくるのである。それでも、それらを乗り越えて大舞台を目指そうというのがこの映画だ。
実話から作られた映画で、この合唱団が契機となってか、現在イギリスと海外にこうした?軍人の妻?合唱団が75か所に存在し、団員の数は2300人以上だという。
合唱団の練習には結構聞きなれたポップ・ソングが使われている。圧倒的に使われたのはシンディー・ローパーの「タイム・アフター・タイム」だが、その他にもティアーズ・フォー・フィアーズの「シャウト」、シスター・スレッジの「ウィー・アー・ファミリー」、スパイス・ガールズの「ワナビー」、エルトン・ジョン&キキ・ディーの「恋のデュエット」等が聞こえてくる。
監督は1997年の「フル・モンティ」でアカデミー賞監督賞にノミネートされたこともあるピーター・カッタネオ。ケイトを演じたのはクリスティン・スコット・トーマス、「イングリッシュ・ペイシェント」等で記憶される演技派女優。
歌えば、幸福になること必至。歌って、笑って、強くなってください!