クリスマスプディングのお話しとレシピ
クリスマスの準備、皆さんはいつ頃から始めますか? イギリスでは夏が終わるや否や、もう気の早いスーパーがミンスパイをはじめクリスマスフードを並べはじめますが、各家庭の本格的な準備が始まるのはスターアップサンデーと呼ばれる日曜日から。さて今日は、イギリスのクリスマスには欠かせないクリスマスプディングのお話です。
スターアップサンデーって何?
Stir-Up Sunday(スターアップサンデー)とは、アドヴェント(クリスマスまでの4週間)が始まるひとつ前の日曜日で、イギリスではクリスマスプディングを作る日とされています。クリスマスの約5週間前にあたるその日にプディングを作って熟成させると、クリスマスにはちょうど美味しくなっているという寸法です。
でも毎年日にちもずれるし、忘れちゃいそう、、。大丈夫!ついうっかりしがちな忙しい家庭の主婦のために(?)、その日曜の教会の礼拝説教は
Stir up, we beseech thee, O Lord, the wills of thy faithful people; that they, plenteously bringing forth the fruit of good works, may of thee be plenteously rewarded…と Stir upから始まるため、万が一忘れていても、昔はきちんと礼拝に出てさえいればちゃんと思い出せるようになっていたそうです。
クリスマスプディングの材料
クリスマスプディング作りはまずは材料を集め、計量するところからスタート。イエス・キリスト+12使徒で最低13種類入れると言われているそれは、レーズン、サルタナ、カランツといったドライフルーツ、ミックスピール(オレンジとレモンの砂糖漬け)、パン粉にお砂糖、小麦粉にナッツ、りんごにスパイスと卵、ビールやブランデーといったお酒類、そしてスエット。スエットとは牛の腎臓周りについているケンネ脂と呼ばれるもの。バターよりも安価で臭いが少なく、融点も高くて扱いやすいその脂は、昔からプディングやペストリーの材料として重宝されてきました。昔はそのスエットの処理から手作業でしたが、今はきれいに精製され、常温保存できるドライタイプの箱入りスエットが主流です。イギリスですらも大分オールドファッションになったスエット、日本で作るなら、バターをシュレッド状に削ったものなどで代用するのがおすすめです。
スターアップの風習あれこれ
材料を全部ボールに入れたらいよいよStir-up(かき混ぜ)のスタートです。ここからは家族揃って、がお約束。一人ずつ心の中で願い事をしながら順繰りにかき混ぜます。かき混ぜる方向は東から西、または時計回りと決められています。キリストに謁見するために、東から西へと向かった三博士や、生命の源である太陽の動きに合わせて、というのが理由のよう。
さて、みんながかき混ぜ終えたら、プディングベイスンと呼ばれる器に詰めていよいよ蒸し始めます。でもその前に、プディングの中にラッキーチャームを埋め込むことがあります。チャームを隠しておくと、銘々のお皿に取り分けた時、何が当たったかで翌年の運勢を占えるので、クリスマスのテーブルは大盛り上がり。クリスマスならではの楽しい風習です。
例えば、6ペンス硬貨があたった人は来年の幸運を、指輪なら来年の結婚を約束されます。そしてバッチェラーボタンと呼ばれるボタンが当たった男性、または自分のプディングに指抜きが入っていた女性は、来年も独身…なんてものまで。そんなチャームを入れてしまうあたりがまた、シニカルなジョーク好きのイギリスらしいところでもあります(笑)
プディングの蒸し方
陶器のプディングベイスンに詰めたプディング、昔は布で蓋をして蒸していましたが、今はオーブンペーパーとアルミホイルを重ねたもので蓋をします。蒸気で膨らんでもいいように、山折りを一つ作って余裕を持たせたら、あとはタコ糸でしっかり縛ります。熱いお鍋から取り出しやすいように、取っ手を付けておくのも忘れずに。
イメージ的には、蒸すというより茹でると言ったほうが伝わりやすいかもしれません。お鍋の底に小さなソーサーなどのお皿を一枚置いてお湯を沸かし、そのお皿の上にベイスンをそっとのせます。お湯はベイスンの真ん中くらいの高さまでくるようにし、お鍋にはしっかり蓋をして、茹で蒸しにすること、4時間以上。これはサイズによりけりで、長いものになると8~10時間!なんてものまで。
あまりに長いので、イギリスの友人は一回に2個作り、一つは来年用と言っていました。それくらい、日持ちのするプディング、蒸しあがる頃には真っ黒の黒光りする姿になっています。(火力が弱すぎると色が薄くなってしまうのでちゃんと蒸気が元気に上がっている状態をキープするのが大事。お湯が減っていたら追加するのも忘れずに)
プディングの食べ方
1ヶ月熟成されたプディングが登場するのはクリスマスディナーのクライマックス。当日数時間蒸し直して、しっかり温まったプディングをお皿にひっくり返したら、温めたブランデーを注ぎ、火を灯します。プディングを覆うゆらゆらと揺れる青い炎。思わず見入ってしまう幻想的な姿は、まさにプディングの王様。どんなにお腹がいっぱいでも、これはひと口食べないわけにはいきません。温かくやわらかなプディングに添えるのはブランデークリームやブランデーバター。先ほど注いだブランデーと相まって、なんとも大人な味。ご想像よりずっと食べやすい、きっとまた来年も恋しくなる味です。
今年のベストプディングは?
毎年9月には店頭に並び始めるクリスマスプディング。どこのスーパーやデパートも、シンプルなものから趣向を凝らしたものまで何種類ものプディングをラインナップ。どれもこれも美味しそう!その中から一つだけ選ぶのは至難の業ですが、そこはランキング好きのイギリス人、毎年様々な媒体が「今年のベストミンスパイ」やら「ベストクリスマスプディング」やらを発表してくれるので、それらを参考に選ぶのも手。
例えば、BBCが選んだ今年のベストクリスマスプディングはマークス&スペンサーの「Perfectly Matured Cherry & Orange Wreath」£12。リースという名前がつくように、リング型をしたそれはドレンチェリーやナッツオレンジなどがゴロゴロと表面に見える変わり種。次席はモリソンズ(スーパー)の「Morrisons the Best Christmas Pudding」£8。よりクラシックで、ソフトなテクスチャーの中にホールで入ったナッツの歯ごたえがよく、お酒が効きすぎていないそう。
Good House Keeping調べによると、今年の一番はウェイトローズ(スーパー)の「12 Month Matured Christomas Pudding」£12。1年熟成されたそれはコニャックを贅沢に使ったリッチでまろやかな風味。シトラスとシナモン、ジンジャーの織り成す甘いマーマレードのようなフレーバーが最高だそう。2位はデイルスフォード(オーガニックショップ)の「Traditional ChristmasPudding」£25。ドライフルーツにアーモンド、ラムにスタウト、クローブにシナモン、ナツメグそしてジンジャーのバランスが素晴らしいのだとか。
ランキングの中にはリドル(ドイツ系スーパー)の24か月熟成クリスマスプディングも入っています。2年熟成でお値段はなんと£4.99。さすが庶民の味方リドル。ちなみに今挙げたものはどれも8人程度でいただける800~900gサイズのものです。正直、材料と手間と蒸し時間を考えたら、イギリス在住なら買ってくる方が随分お得な気もしますね。お一人様用など小さなサイズも揃っているので、色々食べ比べしてみるのも楽しいもの。
でも、やっぱりクリスマスプディングは手作りには敵いません。わたしからのささやかなクリスマスプレゼントは、我が家で、またレッスンで、毎年繰り返し作っているとっておきのクリスマスプディングのレシピ。来年のクリスマス用に作ってもよし、イギリスでは新年に食べる家庭もありますから、今から作って新年に食べるもよし、いつかチャレンジしていただけたらと思います☆
Happy Christmas!
クリスマスプディングのレシピ
Christmas Pudding
~クリスマスプディング~
1.2リットル(直径17cm)プディングベイスン1台分 or 直径14㎝2台分
【A】
┏サルタナ・レーズン・カランツ __合わせて430g
┃オレンジピール・レモンピール __合わせて 70g
┃りんご _________125g(シュレッド状におろす)
┃ダイスアーモンド __35g(または刻んだ好みのナッツ)
┃ブラウンシュガー __125g
┃生パン粉 _____125g
┃薄力粉 _______40g
┃無塩バター※ __50g(固く冷してからチーズおろしでおろす)
┃ナツメグ・シナモン・ミックススパイス※ __各小さじ1/2
┗レモンの皮(すりおろし) ___1個分
【B】
┏卵 _______2個
┃スタウト(黒ビール) __150ml
┃ブランデー ____50ml
┗レモンの果汁 __1個分
*下準備*
型にはバターを薄く塗り、底にオーブンペーパーをしいておきます
- 【A】の材料全てを大きなボールに入れてよく混ぜ合わせます。
- 【B】の材料を混ぜ合わせて、①のボールに注ぎいれ、全体に水分がいきわたるようムラなく混ぜましょう(お願い事をするのを忘れずに☆)。
- 準備した型に詰めます(型の8分目くらいまで)。オーブンペーパーとアルミホイルを重ねてひだを作るように山折を作りプディングの上にかぶせ、ぴっちりとふたをします。たこ糸でプディング型のふちをしっかり縛りましょう。(この時両サイドにたこ糸を通して持ち手を作っておくと便利です)
- 深い鍋に小さなお皿をおき、その上に型をのせ、お湯が型の高さの半分くらいまでつかるような状態で、5~7時間(直径14㎝の型に分けるのなら4時間ほど)蒸し茹でにします。(空焚きすることのないよう随時お湯を足すこと)
冷めたらオーブンシートとホイルを取り替えてまたぴっちりとふたをし、冷暗所に保存してください。 - 食べる当日に再度2時間ほど(小さいものなら1時間)同様に蒸しなおし、皿にひっくり返して取り出します。ブランデー(分量外)を小鍋で軽く温め、柄の長いライターなどで火をつけ、プディングに注ぎます。
炎が消えたら取り分け、ブランデークリームやブランデーバターなどを添えて。
<ブランデークリーム>
100mlの生クリーム(乳脂肪分40%以上)にグラニュー糖大さじ1を加えて泡立てます。軽く角がおじぎする程度に泡立ったらブランデー大さじ2を加えてさらに軽く混ぜます。
<ブランデーバター>
100gの無塩バターを柔らかくし、100gの粉砂糖を加えて白っぽくなるまでよく攪拌します。そこに大さじ3のブランデーを少しずつ加えてさらに混ぜて完成。
※ 無塩バターに代えてスエット100gを加えるとよりトラディショナルな味になります
※ ミックススパイスはイギリスの焼き菓子によく使われるスパイス
手作りする場合は下の割合で混ぜて小瓶に入れて保存を。
コリアンダー50%・オールスパイス30%・シナモン10%・ジンジャー5%・ナツメグ5%