イギリスの保存食好きから見た『チェルシー・フィジック・ガーデン』(Chelsea Physic Garden)
秘密の花園のような薬草園『チェルシー・フィジック・ガーデン』
1673年にロンドン薬剤師協会が薬草栽培のために設立した、イギリスでは二番目に古い植物園です。園内には、世界中の約5,000種類の薬用、食用含め、有用な植物が栽培されています。
場所はチェルシー地区にあり、スローンスクエアの駅から、キングスロードを歩き、途中からテムズ川へ向かって歩くこと15分、レンガ造りの瀟洒な住宅街の中に位置します。
薬草園とはいえ、ガーデンとしての美しさも兼ね備えており、入場料はかかりますが、それでもここに来る価値はあります。私にとって、ここを訪れる一番の目的は、イギリスに因んだフルーツや野菜、薬草を観察できるからです。
それでは、3月、5月、6月、7月、10月に訪れた時の写真を交えて、お気に入りの植物を紹介します。
柑橘類のコーナーへ
お茶の木やエキナセアなど薬用植物のガーデンには、柑橘類の木もあります。レモンやライム、スイートオレンジ、ベルガモット、それぞれどんな葉と実なのか、見るのはとても楽しいです。
ここでは、タヒチアンライム、メキシカンライムを育てています。
独特の香りが魅力的で、イギリスでもライムのマーマレードはとても好まれていますが、ライムは皮が硬く、おいしいマーマレードを作るのは苦労します。
マーマレードに最適の品種、セヴィルオレンジの木を発見
イギリスのマーマレード作りには欠かせない、セヴィルオレンジ。
イギリスでは気候が寒いため、オレンジを栽培するのは難しく、セヴィルオレンジもスペインから輸入されています。ここでは、鉢植えで栽培。セヴィルオレンジが実際に実っているのを見るのは初めてでした。
セヴィルオレンジは、日本の橙と同じサワーオレンジの仲間です。しかし橙と比べると、セヴィルオレンジの方が、皮や果汁にオレンジの風味をより強く感じます。イギリス人にとって、セヴィルオレンジには思い入れがあり、この薬草園で育てているのではないかと思います。
イギリスの保存食作りには欠かせないフルーツのガーデン
何度通っても、この園内でワクワクするのは「食べられる植物」のガーデン。おなじみのブラックベリーや、クインス、リンゴ、洋ナシ、カラント、チェリー、ハーブ類、イギリスの庭にはどんな植物があるのか、植物と名前の札を1つずつチェックするのはとても楽しく、時間を忘れます。
ダムソンとは、西洋スモモの一種、品種名はメリーウエザー
ブラムリーアップルを全英に広めた、種苗家のヘンリー・メリーウエザー氏が作出した品種で、熟すと紫色になり少し渋みがありますが、ジャム、ジェリー、ダムソンチーズ(フルーツを煮てピューレ状にし、砂糖を入れて煮詰めて固めたものをイギリスでは○○チーズという)にします。
マーマレードの語源になったクインス(マルメロ)と古典的なフルーツのメドラー
この場所には、クインスの木があります。日本語名ではマルメロ。このマルメロをペーストにしたものをポルトガル語でmarmeladaといい、マーマレードの語源になったといわれています。
このクインス、日本ではカリンとよく混同されますが、似て非なるものです。洋ナシ形で表面に産毛があり、煮ると柔らかくなるのが、クインス。つるっとした表面で、煮ても硬いままで、少し渋みがあるのがカリンです。秋に実る果物で、クインスチーズ(クインスを柔らかく煮て砂糖を加え、煮詰めて固めたもの)、ジャム、ジェリーなどイギリスの保存食には欠かせない果物です。
日本名でセイヨウカリン この果実を採り、中身を煮て濾して、砂糖を入れ、煮詰めてジェリーにします。西洋カリンと言っても、カリンやクインスとは別のものです。イギリスでは、ローマ時代から16世紀頃までは食べていましたが、今では古典的な果物になりました。ここでは、こんな通好みの植物を見る事ができます。
リンゴの木とミスルトウ
イギリスはリンゴの国です。イギリスの保存食には、リンゴが欠かせません。そのリンゴの木に寄生している植物がミスルトウ(日本ではヤドリギ)、イギリスのクリスマスの飾りとして使われます。
木に寄生しつつ、自分でも光合成をする不思議な植物で、宿られた方はちょっと迷惑ではないかと思うのですが、ここでは、その寄生している状態を間近で見る事ができます。
黄色いものはミスルトウの花、実は食べる事はできませんが、白い真珠のようで美しい。写真でもわかるように、リンゴの木に寄生したミスルトウは、のこぎりを使わないと取り除く事はできないほど、しっかり木に食い込んでいます。ミスルトウの実の内部は粘々しており、鳥がその実を食べて、出された種が木にひっつき、発芽します。おそらくここでは、人工的にミスルトウを生育させたのではないかと思いますが、この植物園に行ったらぜひご覧ください。ちょっと怪しく、しかし美しい植物です。
『チェルシー・フィジック・ガーデン』 Chelsea Physic Garden
https://www.chelseaphysicgarden.co.uk/
いつ訪れてもその時々の良さがありますが、特に花が咲く5月から7月がベストシーズンだと思います。