イギリス映画談
~ミステリーの女王の原作による新作映画『ナイル殺人事件』~

愛と欲望が絡みあう~極上のミステリークルーズへ『ナイル殺人事件』

2月25日封切り

映画「ナイル殺人事件」ポスター

アガサ・クリスティ:ミステリーの女王とその作品

夕陽を背にナイル川を進むカルナック号
ナイル殺人事件の舞台となる、ナイル川を進むカルナック号
©2022 20th Century Studios. All rights reserved

アガサ・クリスティはミステリーの女王と呼ばれている。1890年9月15~1976年1月12日の85歳で亡くなってから既に46年が経っているが、いまだ女王の座は揺るがない。1920年に「スタイルズ荘の怪事件」を発表して以来、66編の長編ミステリー小説を書き続け、全世界での今までの発行部数が20億冊以上という。
この発行部数は、聖書、シェイクスピアの次に読まれているとも言われるらしい。これほど多くの人に読まれる彼女の作品の魅力は、興味を引く、時に壮大な謎、解決に至るまでの筋道の面白さ、大団円では関係者が集まっての意外な犯人発表と、読む人を引き込みファンにしてしまうその語り口の力だろう。特にその読みやすさから小・中学生が引き込まれることが多いのでは?かく言う私も、クリスティばかり読んでいたのは中学生になったばかりの頃だった。

アガサ・クリスティーの記念碑
ロンドンはコヴェントガーデン近くのアガサ・クリスティーの記念碑
© Some rights reserved by duncan

アガサはアメリカ人の資産家で育った父と、その従妹であった母との間に生まれた3人姉兄の末っ子だった。イギリス、デヴォン州のトーキーに生まれ、育っている。少し変わっていた母親の意向で、姉兄とは違い彼女は学校ではなく母親の直接教育で育てられたらしい。「7歳になるまでは字が書けない方が良い」という母の考えで、字を教えられず、子供時代にはスペルミスが多かったという。同年代の友達がいず、使用人やメイドと遊んだり、一人遊びで内気な少女に育った。ただ、父の書斎で多くの書籍を読みふけり、知識と教養を深めることができた。1909年にはミステリーではない普通の小説「砂漠の雪」を執筆し、小説家を目指すようになる。
生涯にミステリー長編小説66作、中短編156作の他に戯曲15作(有名なのは映画「情婦」の原作となった「検察側の証人」や1952年にロンドンのウエストエンドで初演され世界最長の連続上演がされた「ねずみとり」)、更にメアリ・ウエストマコット名義で小説6作を創作している。
彼女のミステリーでは探偵役によるシリーズものが多い。長編ミステリー66作の内、53作でそうした探偵が謎解きをしている。探偵名と作品数は次のようになる。
エルキュール・ポアロ:33作  ミス・マープル:12作  トミーとタペンス:4作
バトル警視:4作
シリーズ作品の半分でエルキュール・ポアロが活躍している。

探偵、エルキュール・ポアロが船内で銃をかまえるシーン
今回ご紹介のナイル殺人事件に登場する探偵、エルキュール・ポアロ
©2022 20th Century Studios. All rights reserved

エルキュール・ポアロ:灰色の脳細胞で推理する名探偵

エルキュール・ポアロはベルギー人、162.5㎝の小男で、それをカバーするかのようにカイザー髭を蓄えている。ベルギーのフランス語圏(ワロン地方)出身で、フランス語なまりの英語を話す。名前のエルキュールはフランス語でのヘラクレス。それにしては時に滑稽とも思える言動をするのだが、それが容疑者を油断させ事件解決に至ることもある。ベルギー・ブリュッセル警察で活躍し所長にまでなった後、退職。第一次世界大戦でドイツが侵攻してきたためイギリスに亡命したというのが、クリスティが小説で書いたポアロ像だ。
有名な「灰色の脳細胞」を駆使する世界最高の探偵だと自認するする自信家だ。容疑者などの何気ない会話を敏感に聞き取り、人物の様々な欲望を考え、心理分析をしながら推理を進めていく。

アガサ・クリスティ/エルキュール・ポアロの映画

映画ナイル殺人事件のシーン、リネットとサイモンの結婚式
リネットとサイモンの結婚式
©2022 20th Century Studios. All rights reserved

アガサ・クリスティの小説の映画化は今回で19回目となる。「そして誰もいなくなった」が4回映画化、「オリエント急行殺人事件」と「ナイル殺人事件」が共に2回映画化されている。今回の「ナイル殺人事件」は2017年の「オリエント急行殺人事件」の続編として製作された。共にケネス・ブラナーがポアロを演じ、製作・監督もしている。脚本も同じマイケル・グリーンが担当している。前作のラストでポアロがナイルの事件を依頼されるシーンがあったことに加え、同じ俳優によって演じられる人物がポアロ以外に出てくる。続編とはいえ、勿論ミステリーの謎は全く別物だが。
この2作は1974年に「オリエント急行殺人事件」が、1978年に「ナイル殺人事件」が映画化されているが、ポアロを演じる俳優(アルバート・フィニーとピーター・ユスティノフ)が違い、監督(シドニー・ルメットとジョン・ギラーミン)も違うということで、特に続編という作りではなかった。

映画ナイル殺人事件のシーン、船内で開かれる結婚披露パーティ
豪華客船の船内で開かれる結婚披露パーティ
©2022 20th Century Studios. All rights reserved

クリスティの描いたポアロは162.5㎝という小男だったのだが、これほど小さい俳優はなかなかいない。ちなみにケネス・ブラナー、ピーター・ユスティノフは共に177㎝、しかもユスティノフはちょっと太っていた。アルバート・フィニーは175㎝だった。さらにテレビドラマ「名探偵ポアロ」を25年に渡り演じ、原作イメージに最も近いと言われたデヴィッド・スーシェは168㎝だった。

今回の「ナイル殺人事件」はどんな映画?

小説「ナイルに死す」と基本的に変更はない。ただし、乗船する人物には多少の変更がある。
物語の主人公は3人。アメリカ大富豪の娘リネット、彼女の親友ジャクリーン、ジャクリーンの失業中の婚約者サイモン。リネットがサイモンを奪って結婚し、新婚旅行でエジプトに出かけナイルクルーズを楽しむ。そのクルーズ船で事件は起こる。

事件に関係するだろう主な登場人物、左からリネット、ジャクリーンとサイモン
左からリネット、ジャクリーンとサイモン
©2022 20th Century Studios. All rights reserved

リネットに扮するのはガル・ガドット、2004年のミス・イスラエル、「ワイルドスピード」シリーズでデビュー後、「ワンダーウーマン」主演で大ヒット。
サイモンにはアーミー・ハマー、曾祖父が石油王という家柄の生まれ、「ソーシャル・ネットワーク」での双子役が印象深い、「君の名前で僕を呼んで」のオリヴァー役も有名。
ジャクリーンにはエマ・マッキー、フランス、ル・マンの出身。日本には今作で初登場。
今回は登場人物の一人サロメ・オッタボーンの職業が作家から歌手に変更され、彼女のご機嫌なジャズがたっぷり聞けるのもうれしい。

主な登場人物、6人のポスター
主な登場人物、6人を描いた映画ポスター
©2022 20th Century Studios. All rights reserved

第一次世界大戦のベルギー戦線から始まる今回の「ナイル殺人事件」では、ポアロのカイザー髭の謎が解説される。何故あんなに大きな、ぴんと跳ね上がっている口ひげを生やしているのかという謎解きがあるのだ。これは小説にも、他の映画化作品にも描かれていないので今作のオリジナルだろう。


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