原産地にこだわる由緒正しいコーニッシュパスティ
コーニッシュパスティとは
イギリス南西部にあるコーンウォール地方の「コーニッシュパスティ」を語らせたら、ここに書ききれないほど書きたいことがある私の大好物だ。私が思うに、日本人の口に合うトップ3に入るイギリス料理だと思う。中の具は、玉ねぎ、じゃがいも、牛肉、スィードと言う野菜。ルタバガとも呼ばれる。
あれ?これはどこかで食べたことのある具材に似ている。正解は「肉じゃが」だ。
強力粉、バター、ラード、水で生地を作る。そして具材を小さく切って生地の上に並べて、塩コショウで味付けをして包んだものがコーニッシュパスティ。
「原産地名称保護制度(PGI)」に認定されているため、定められた材料を使い、その土地で決められた作り方で作ったものだけが「コーニッシュパスティ」と言う名前を使うことが出来る。「コーニッシュパスティ」と呼ぶにはかなりいろいろなハードルをクリアせねばならない。
コーンウォールはすず鉱山で栄えていた土地であり、労働者のランチとして食べられたのが始まりと言われている。そのため中の具を包む皮もかなり厚く、作業で汚れた炭坑の中で万が一落としても割れずに中身を食べられるのが、良いパスティの条件であった。手でもパイのねじられた端の部分を持てば最後まで食べられる。手で持った汚れた端の部分は坑内に捨てられ、炭坑内に住む精霊、ノッカーの空腹を満たしたというストーリーまである。
歩きながら気軽に食べられるコーニッシュパスティ
最近はコーニッシュパスティの専門店を、駅の構内や街のハイストリートと呼ばれる目抜き通りなど、あちらこちらで見かける。ハンバーガーやチキンのファーストフードに並ぶ簡単なランチとして人気がある。
パスティのサイズは店によっても違うが、一般的にちょうど手の平サイズが多い。一回り大きな袋にパスティを入れてくれるのだが、食べながら歩くにはちょうど良い。
食べながら歩くなんていうのは私の子供時代には許されなかったのだが、ここイギリスでは、大人も自由に堂々と食べ歩きが許される空気である。
住んでいるからには文化は大いに受け入れる私は、今では食べ歩くことに抵抗は全くない。むしろ喜んで食べ歩きをしている今日この頃だ。ただし私の中では、食べ歩きがOKなのはパスティだけである。バーガーはなぜかイギリスの風景には合わないと勝手に思い込んでいるのだ。
最近のパスティはオリジナル味に加えて、創意工夫した中の具が魅力である。カレー味、ラム&ミント、ポーク&アップル、牛肉の地ビール煮込み、チーズ&オニオン、野菜、チキン&マッシュルームなどびっくりするほどである。その日の気分でいろいろな味を楽しめる。
飽きることなくしばらく全種類制覇に明け暮れた時期もあった。ただし、前にも述べたとおり、この種類豊富な具材のものはあくまでも進化したもので「コーニッシュパスティ」とは呼ばず、「パスティ」となる。
私は熱々のパスティを寒いときに外でほお張る幸せを伝えたくて、一時日本でコーニッシュパスティのお店を出すことも真剣に考えたほどだ。だが、日本の夏は暑い。暑すぎる。
いくら美味しいコーニッシュパスティでも真夏に外で食べるのは正直お勧めできない。
冷たくても美味しいパスティを作れないかと思案中なのである。
私はパイをよく作るのでパイ生地はフードプロセッサーでまとめて作って小分けにして冷凍保存をしている。パスティの中に入れる具の量はその時によって多少の差が出るので、レシピ量を目安に作っていただきたい。
ショートクラストペーストリーとパスティ・レシピ
《ショートクラストペーストリー・レシピ》
材料 パスティ6個分
- 薄力粉(イギリスではPlain Flour)450g
- 無塩バター 150g
- ラード 130g
- 冷水 150ml
- 塩 小さじ1
作り方
- 薄力粉と塩をフードプロセッサーに入れて軽く混ぜ、冷やしておいたバターとラードを約1㎝の角切りにして加えて全体がほろほろとクラムのようになるように撹拌する。
- 1の中に冷たい水を少しずつ加えて撹拌し、取り出して手でひとまとめにする。
- 丸くひとまとめにしたらラップをして冷蔵庫で40分ほど冷やす。
- 3を取り出したら打ち粉(分量外)をした作業台またはまな板の上で長さ約30㎝の筒状に手で転がしながら伸ばし、6等分(約5cm)に切り分けてからラップで個別に包み、当日使う分は冷蔵庫に20分ほど入 れて休ませる。残りはラップをしたままチャック付きビニール袋に入れて冷凍庫で保管する。
ポイント
- パイのサクサク感が薄れるので工程2では混ぜすぎない。
- 冷凍庫で約3ヶ月保存可能
《定番パスティ・レシピ》
材料 1個分
- ショートクラストペーストリー
(上記で紹介した小分けにした1個分) - じゃがいも 小さな乱切り 35g前後
- スウィード 小さな乱切り 35g前後
- 玉ねぎ 粗みじん切り 35g前後
- 牛ステーキ肉赤身部分 親指の第一関節弱ほどのサイズに切る 55g前後
- 薄力粉 小さじ2
- 無塩バター 20g 3~4等分にする
- 塩 粗挽き黒胡椒 各小さじ1/2
(好みで調整する) - 艶出し用溶き卵 少々
作り方
※オーブンを180℃に予熱する
- 野菜と牛肉を切る。
- 調理台またはまな板の上と麺棒に軽く打ち粉(分量外)をし、丸くしたパイ生地を、少しずつ角度を変えながら直径約22㎝ほどの円形にする。
- 縁から2~3㎝の幅を開けて中心部に直線状にじゃがいも→塩、粗挽き黒胡椒→スウィード→塩、粗挽き黒胡椒→牛肉→塩、粗挽き黒胡椒→玉ねぎ→バター→薄力粉の順に重ねる。
- パイ生地の半円の縁に溶き卵を塗り、均等に持ち上げて合わせ半円にする。
- 4のパイ生地の端を手前に倒して指で曲線に沿って斜めに折込んで沿って具材が出ないようにして成形する。
- オーブンシートを敷いた耐熱トレイに5を乗せて溶き卵を薄く塗りナイフの先で切れ目を入れて
- オーブンで約45分調理して完成。
ポイント
- オーブンによって焼き上がりに違いがでるので様子を見ながら調理する。
焦げそうであればアルミ箔をかぶせたり、焼き色が足りない場合はオーブンの上段に移したりするなど工夫して調理する。 - 柔らかいと形成しづらいので、パイ生地は常に冷たい状態で扱う。少し柔らかくなったら再び冷蔵庫で冷やしながら完成することをお勧めする。
- 野菜はあまり大きいとパイ生地の下から形が浮きでてしまうので小さ目に切り、野菜の角がパイ生地に当たらないように気をつけて包む。