イギリス映画談~年末に向かって公開される2本の映画 猫とクリスマス~

愛したのは妻とネコ『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』(12月1日公開)

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』ポスター
『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』ポスター
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

猫は無頓着

古代エジプト時代の人々にも愛されていた猫。その昔から人の間にありながらも、常に神秘的な力を感じさせクールな面も見せる猫。人になついて、家来(?)として人間に仕える犬と違って、どんなに長い間一緒に過ごしても完全に従うなどということはない猫。人間の命令に従う犬と、人間を従わせる猫。この可愛げのなさからか、絵画で描かれる猫は神秘的、或いはちょっと怖い感じのものが多かった。様々な画家が描いた猫を見ても、人間と同等か時に人間以上のようで、独立しているものが多い。

ルイスと猫たち
ルイスと猫たち
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

新海誠監督の新作アニメ「すずめの戸締り」(11月11日公開)では、予告編で見る限り悪い猫が登場している。

猫の画家ルイス・ウェイン

猫の絵に愛らしいという要素を持ち込んだ人は、どうやらルイス・ウェインらしいとこの映画に教えられた。19世紀末から20世紀にかけて活躍したウェインは、多くの猫の絵を描き人々に愛された。

ルイスと猫の絵
ルイスと猫の絵
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

彼の絵の特徴は、人間のように二本足で直立した姿勢で、人間のような行動をして、愛らしさを見せている猫である。人気絶頂期の1900年から15年にわたって毎年ルイス・ウェイン年鑑が発売されていたという。同じころロンドンに留学していた夏目漱石がルイス・ウェインの猫に出会って、後の「吾輩は猫である」にその影響が見られると言われている。

ウェインが創出した愛らしい猫の絵

チラシに使われている主人公と猫たちのイメージ
チラシに使われている主人公と猫たちのイメージ
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

ウェインによって作り出された可愛い猫のイラストという分野では、その後の100年程の間に多くの人気キャラクターが生み出された。トムとジェリーのトム、フィリックス、ガーフィールドなどのアメリカ勢や、ハローキティ(本名はキティ・ホワイトというロンドン郊外に住む女の子という設定)やドラえもんの日本勢など、多くの人に愛されている。1960年代に青春を迎えた私にとって、有名な猫の絵と言えばフリッツ・ザ・キャットになる。アメリカのロバート・クラムが創造した不良猫、60年代のアンダーグラウンド世界から飛び出して、多くの若者の共感を得て、最終的にはアニメーション映画も作られた。こうした猫の元をたどれば、ルイス・ウェイン猫に辿り着く。

映画が描くルイス・ウェインの人生

これほどの人気を誇ったウェインだが、彼の人生には色々あったようだ。ロンドンの上流階級に生まれたルイスだったが、彼が20歳の頃父親が亡くなってしまう。残された母と5人の妹という家族の生活が彼の肩にかかってくることになったのだ。絵を描くのが好きだったルイスはイラストレイテッド・ロンドンニュース社と専属契約を結び、社会のトピックスを絵に描いて生計を立てていた。当時は写真がまだ一般的ではなかった。
妹たち5人は学校に行くことなく、家庭教師を雇って教育してもらっていた。父が亡くなった頃、長女のキャロラインが4人の妹のために雇った家庭教師エミリーが家にやってくる。エミリーに会った時、ルイスは一目で恋に落ちてしまう。

ルイスと妻のエミリーと猫のピーター
ルイスと妻のエミリーと猫のピーター
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

ほとんど子供のように、素直に彼女が好きになるのだ。彼女と一緒に居たい、結婚したいとなるのだが、キャロラインを含め周りからは、階級が違うということで反対される。ルイスは家を出てエミリーと結婚する。そんな時エミリーが末期がんと診断される。ある雨の日、庭から聞こえる子猫の鳴き声にエミリーが気付き、黒白の子猫をピーターと名付け飼うことになる。

庭にいた子猫を見つけたエミリーとルイス
庭にいた子猫を見つけたエミリーとルイス
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

こうして、ルイスは子猫と出会い、その可愛らしさに惹かれ猫の絵を描くようになる。病床のエミリーに見せるため猫の絵を描き続けたルイス。エミリーの勧めでロンドンニュース社の社主に見せ、それがクリスマス特集の2ページとなって大人気を博すのだ。結婚から3年後エミリーは亡くなってしまう。寂しさを埋めるかのようにルイスはピーターをモデルに猫の絵を描き続け、猫の画家と記憶されるまでになったのだ。
経済的観念が薄く、猫の絵の版権などに無頓着だったルイス・ウェインは人生の後半困窮したりするのだった…。

自然の中のルイスとエミリー
自然の中のルイスとエミリー
©2021 STUDIOCANAL SAS - CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

ベネディクト・カンバーバッチという俳優

ルイス・ウェインを演じるのはベネディクト・カンバーバッチ、1976年7月19日ロンドン生まれ、今年46歳のイギリス人俳優だ。今回調べて初めて知ったのだが、15世紀のイングランド王・リチャード3世の血縁であることが2015年にレスター大学の研究により判明したという。驚きです。

イギリスの俳優らしく、英国立劇場などの古典舞台で演技を磨き2012年度のローレンス・オリヴィエ賞主演男優賞を「Frankenstein」で受賞している。映画にも2000年代では脇役で、初主演した2010年以降は主演での活躍が増えている。印象に残っているのは2014年の「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」だ。さらにテレビドラマの出演も増え、2010年から始まったミニシリーズ「シャーロック」は2017年にかけて全13話が製作され、日本でも放映されている。第10話「シャーロック 忌まわしき花嫁」は日本では映画館で映画として公開されてもいる。
最近は活躍が目立っていて、アメコミのドクター・ストレンジ役で活躍する一方、「1917命をかけた伝令」(2019年)、「クーリエ:最高機密の運び屋」(2020年)、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(2021)などの名作にも出演している。今回の「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」では彼が持つ純粋さが上手く生かされ、主人公の純真さがよりリアルになった。

公式サイトhttps://louis-wain.jp/

『サイレント・ナイト』(11/18公開)

『サイレント・ナイト』ポスター
『サイレント・ナイト』ポスター
©2020 SN Movie Holdings Ltd

クリスマス・キャロルのサイレント・ナイト

サイレント・ナイトはクリスマス・キャロルの一曲。日本語では「きよしこの夜」の題名で知られている。イエス・キリストの誕生と関係した内容の歌であるクリスマス・キャロルの中でも最も有名な曲だ。
オーストリア・ザルツブルク近郊のオーベルンドルフの聖ニコラウス教会で初めて演奏されたのは1818年12月25日(24日という説もあり)、作詞をしたヨゼフ・モール神父の依頼で初演前の数日間(1時間という説もあり)でフランツ・クサーヴァー・グルーバーが作曲したという。

クリスマス・パーティの主催者ネルと長男のアート
クリスマス・パーティの主催者ネルと長男のアート
©2020 SN Movie Holdings Ltd

クリスマスシーズンに最も聴こえてくる曲は、聖なる夜、救い主キリストが降誕することを歌っている。

サイレント・ナイトという映画

この映画のチラシに載せられた惹句は”人類最期のメリークリスマス”。更に裏面には”男女12人が聖なる夜に繰り広げるブラックな狂想曲。”とあるのです。
興味が湧きましたか?

クリスマスに集まった面々
クリスマスに集まった面々
©2020 SN Movie Holdings Ltd

映画を作ったカミラ・グリフィン

この映画の脚本を書き、監督をしたのは女性のカミラ・グリフィン。イギリスとオランダの映画学校で学んだ後、短編映画を何本か監督したのち、今回の作品が初の長編映画という。
彼女が語る自身の性格とこの映画についての言葉を拾ってみよう。
“フランスのシチリア人である母と、イギリス人の継父と一緒に、イギリスの高級住宅街の郊外で育ちました。子供時代に権威主義的(財政や教育状況などで他人に対して権威を持っているとする考え方)な教育を受けました。そうした教育を受けたことで、権力者を批判的に見るようになりました。そして子供たちには、自分の価値観や私を含む周りの人たちの価値観に疑問を投げかけるように促しています。”
“クリスマス・コメディというのは、風変わりなキャラクターとクリスマスによって高揚感や期待を感じさせ、それによって観客の先入観を巧みに操ることを狙うジャンルです。”
これらの言葉から彼女の性格と映画の方向性を考えてみてください。

クリスマスプレゼントの周りに集まった12人の男女
クリスマスプレゼントの周りに集まった12人の男女
©2020 SN Movie Holdings Ltd

ネルとサイモン夫婦の家で開かれるクリスマス・パーティに3組の知り合いがやってくる。家の子供たち3人を加えた12人の最後のクリスマス。
ネルを演じるのはキーラ・ナイトレイ、サイモンはマシュー・グードが演じている。彼らの3人の息子(長男と双子の弟)は、監督カミラ・グリフィンの実の息子たち(ローマン、ハーディ、ギルビー)が演じている。客の一人をジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘、リリー=ローズ・デップが演じている。

来客のソフィ(リリー=ローズ・デップ)
来客のソフィ(リリー=ローズ・デップ)
©2020 SN Movie Holdings Ltd

最後のクリスマス・パーティの様子と結末をお楽しみください。

https://www.youtube.com/watch?v=qa5KEOFnzgo&t=15s

公式サイトhttps://silent-night.jp


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ROKU

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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