イギリス映画談 ~ガイ・リッチー監督『ジェントルメン』とアンソニー・ホプキンスの『ファーザー』~

2020年のイギリス映画は女性が活躍したと前々回でお伝えした。ところが、年が明けて2021年になってからは男性が主人公の映画ばかりになってしまった。前号でお伝えした2作品「キング・オブ・シーヴズ」「どん底作家の人生に幸あれ!」に続き、今回は「ジェントルメン」と「ファーザー」で題名通り男性が主人公だ。5月に日本公開される2作品に関わった二人の男性を中心に紹介しよう。

ジェントルメン

5月7日封切り

映画ジェントルメンのシーン
© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

ガイ・リッチーといえば監督デビュー作が忘れがたい。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」という、日本人には非常に覚えにくい題名の作品だ(ロック、ストック、バレルは総て銃の部分の名前)。1998年の作品とあるから、既に23年も前のことになる。彼が20代ぎりぎりだった頃の作品で、その若々しさとリズム感、時に飛びすぎたりする映画だったが妙に肌にあった。若いくせに渋めのストーリー。派手さだけを狙う人ではないなと思った。かなり複雑な割には分かりやすい話の脚本も書いていた。このデビュー作がその年のイギリスでの興行収入でトップとなった。

2作目の「スナッチ」(2000年)も脚本・監督をしていて、同じ路線の拡大版みたいな映画だったが、同じ頃、突然マドンナと結婚というニュースが飛び込んできた。確かに映画を見ていても、この人の音楽好きはよく分かる。マドンナも結構渋い人を選んだものだと感心もした。

2002年にはマドンナを主演に3作目の「スウェプト・アウェイ」を作っている。1974年のイタリア映画「流されて・・・」のリメイクだったが、これは全くの失敗作。その後暫くスランプが続き、2008年にはマドンナと別れ、2009年の「シャーロック・ホームズ」(ロバート・ダウニー・Jr、ジュード・ロウ共演)で復活、その後はハリウッドの大作を任せられるようになった。「コードネームU.N.C.L.E.」「キング・アーサー」「アラジン(実写版)」等だ。

映画ジェントルメンのシーン
© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

ガイ・リッチーが久しぶりにロンドンを舞台に得意の群像劇に戻ってきたのが「ジェントルメン」だ。ハリウッド帰り(?)とあって、主人公は何とアメリカ人の設定。オックスフォード大学で学んだ主人公がイギリスの貴族と組んで起こした企業とは?

話は単純ではない。話の進め方を含め何重にも謎があるのだが、これほど見やすい映画はないとも言える。物語がほぼ時間通りに進むからだ、変な時間の飛び方が殆どない。画面に艶があり、見ていて面白いのである。ガイ・リッチーも上手くなったなあと感心した。

映画ジェントルメンのシーン
© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

マシュー・マコノヒ―がアメリカ人を演じる。そのビジネスパートナーを演じるチャーリー・ハナム、彼等のビジネスを探る探偵にヒュー・グラント、チャイニーズ・マフィアの若頭にヘンリー・ゴールディング、スラムの不良たちの更生にあたるジムのコーチにコリン・ファレルと結構なスターたちが出ている。

この群像劇のはじまりに、ガイ・リッチーは次の言葉を置いている。 ”ジャングルの王は、うわべではなく本当の王にならねばならない。”


ファーザー

5月14日封切り

映画ファーザーのシーン
© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

アンソニー・ホプキンスはウェールズ出身で1937年12月31日の生まれ、現在83歳になる俳優だ。映画デビューともいえる1968年の「冬のライオン」で、ピーター・オトゥール、キャサリン・ヘップバーンが演じる12世紀のイングランド王ヘンリー2世とその妻の長男リチャードを演じ、2人の名優に負けない強い印象を残した。高くはない身長ながら、役柄にあった力強い人物像を感じたものだ。その後暫くアクションものが続いたが、1991年には「羊たちの沈黙」に出演、アカデミー賞主演男優賞を獲得した。賞以上に演じたレクター博士の印象が圧倒的で、10年後に続編たる「ハンニバル」さらに2年後の「レッド・ドラゴン」に続いていく。ひとえにレクター博士を演じたホプキンスの演技が強力だったがためである。他にもカズオ・イシグロ原作の映画化「日の名残り」(1993年)や2年前の「2人のローマ教皇」の演技も印象深い。

映画ファーザー主演のアンソニー・ホプキンス
© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

その彼が主演した新作が「ファーザー」だ。

この映画は元々舞台劇で2012年にパリで初演、日本では2019年に橋爪功、若村麻由美によって演じられた「Le Pere 父」だ。この日本題名からも分かるが、フランスで作られた舞台劇で、世界30か国以上で上演されたという。

この舞台劇の作者(脚本)はフロリアン・ゼレールというフランス人、今回の映画化にあたっては彼が初めての映画監督に挑んでいる。ゼレール監督は都市をロンドンに、主人公の名前をアンドレからアンソニーと変え、製作当時のホプキンスの年齢81歳に合わせて書き換えたという。

ロンドンの街を歩く、娘アン
© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

「ファーザー」は主人公の父の家に向かう娘アンが、ロンドンの街を歩いていく姿から映画ははじまる。父の家での時間が多い室内劇のためもあり、かなり広い彼の家の内部が何度も映される。しかも、微妙に違っていたりするのだった。この映画の見所の一つが色々出てくる室内の変化ともいえる。しかも、この室内が美しいのだ。

娘アンを演じるのは2年前のアカデミー主演賞(「女王陛下のお気に入り」)を受賞したオリヴィア・コールマン、娘の刻々と変わる姿を演じながら素晴らしい演技を見せる。

娘アンを演じるオリヴィア・コールマン
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現地時間4月25日に開催されるアカデミー賞授賞式、「ファーザー」は作品、主演男優、助演女優、脚色、編集、美術の6部門にノミネートされている。

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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