イギリス映画談 ~老人強盗団と国民的作家~

外国映画の公開延期が相次ぎ、毎週のヒット映画ベスト10には日本映画ばかりがランクインする状態が続いている。イギリス映画もなかなか公開されない。007やピーター・ラビットも先送りされてしまった。
今年になって公開されたイギリス映画は老人強盗団と国民的作家?

キング・オブ・シーヴズ

キング・オブ・シーヴズ
©2018 / STUDIOCANAL S.A.S. – All Rights reserved

人は年を取ると肉体的にも精神的にも視野が狭くなったり、聴覚の衰えで聞こえなくなったりする。ニュースで時に話題になるキレる老人、暴走老人はこうした認知機能の衰えから来ているのではなかろうか?と、のんきなことを言っている場合ではなく、そうならないように自戒の念を強くしなければ。
さて、65歳以上の高齢化比率が28%と高く世界1位なのはご存知の通り日本ですね。2位に大差をつけダントツの1位とか。イギリスはというと、18%台で決して低いとは言えないが、ヨーロッパ諸国の中ではちょうど真ん中あたりらしい。いずれにしても高齢化比率は多くの国で高くなっているようです。
それを反映するような老人強盗団事件がイギリスで2015年に発生、しかも1400万ポンド(約25億円)相当の宝石や現金が盗まれたとあって大きな話題になりました。このハットンガーデン事件と呼ばれた強盗事件を映画化したのが「キング・オブ・シーヴズ」、日本では1月に公開されました。製作期間を考えると、事件発生から早い段階で映画化が計画されたのでしょう。映画のポスターには”英国史上、[最高額][最高齢]の金庫破り”のキャッチコピーが見られます。

東京にはジュエリータウン御徒町が、ニューヨークにはマンハッタンにダイヤモンド街と呼ばれるチェルシー通りがあるように、ロンドンにはハットンガーデンがあり宝飾店が集まった地区として有名で、300店ほどが集まっているようです。その地区にあるビルに貸金庫が作られていて、宝石店の宝石やら、金銭やらが預けられている。貸金庫は分厚いコンクリートの壁に囲まれ、勿論厳重な警備がなされているようだ。
映画で見る限り、彼等は結構泥臭く厚いコンクリートの壁に穴をあけるという地道な力技で金庫内に入っている。それにしても映画で見るハットンガーデンの街並みは結構地味、まあ夜景というより深夜の場面が多かったせいもありますが。

キング・オブ・シーヴズ
©2018 / STUDIOCANAL S.A.S. – All Rights reserved

この大事件を起こした実際のメンバーの当時の年齢と、役を演じた俳優名と現在の年齢をまとめると次のようになる。(イギリスでの公開は2018年9月ですから製作時は3歳くらい引いた方が良いでしょうが。)

ブライアン 77歳:盗みのベテラン、リーダーを演じたのはマイケル・ケイン 88歳
テリー 67歳:結構キレやすそうなテリーを演じたのはジム・ブロードベント 71歳
ケニー 75歳:耳が遠く老人力の強いケニーを演じたのはトム・コートネイ 84歳
ダニー 61歳:がっちり体格で元気なダニーを演じたのはレイ・ウィンストン 65歳
カール 59歳:途中で抜けるカールを演じたのはポール・ホワイトハウス 63歳
ビリー 60歳:強奪後加わるビリーを演じるのはマイケル・ガンボン 80歳
バジル ?:この盗みを持ち掛けた若者を演じたのはチャーリー・コックス 39歳

こうしてみると、演じた俳優たちは実際のメンバーより全員がお年寄り、映画界も高齢化が問題かも。

大きな話題になったためか、グループ内の人間関係も含め細かいところまで分かっていて、それに基づいての映画化はさすがの出来。 事件は彼等の老人力(?)が発揮され・・・は、見てのお楽しみ。う~む、注意しようっと。

どん底作家の人生に幸あれ!

どん底作家の人生に幸あれ!
©c)2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television

国民的作家と言えば、日本では夏目漱石、アメリカだったらマーク・トウェインなどがあげられるだろうが、イギリスではチャールズ・ディケンズがその一人だろう。何しろ有名作品が多い。「オリヴァー・ツイスト」「クリスマス・キャロル」「二都物語」「大いなる遺産」等だ。映画にもなり、ミュージカルにもなりという作品も多い。その1冊の「デイヴィッド・コパフィールド」を映画化(これが7度目!)したのが「どん底作家の人生に幸あれ!」だ。映画の日本語題名からも想像されるとおり、この小説はディケンズの自伝的要素が強いと言われている。
個人的には中学生の時の英語の教科書にこの小説が使われていたことを思い出した。

この日本題名を付けた方も凄いが、この映画を作った人も凄いというか、驚かせる技は充分。脚本を書き、監督をし、さらに製作までかかわったのがアーマンド・イアヌッチという人。日本で今までに見ることができた作品は「スターリンの葬送狂騒曲」(17)で、これも風刺にとんだ辛口喜劇だった。
デイヴィッド・コパフィールドは悲惨な少年~青年時代を過ごした。生まれた時すでに父は死亡していて母と乳母との3人暮らし、母が再婚すると義父とその姉が家に居座り酷い虐待にあい、工場に売り飛ばされる。たくましく成長した彼は、母の死を機に工場を脱走、金持ちの伯母を訪ね裕福な生活を。その後、この叔母も破産し・・・まるでジェットコースターのように上下が激しい物語だ。運命の波にもまれながらも、作家としての成功の道へというディケンズ自身が最も愛した小説で、代表作でもある。

どん底作家の人生に幸あれ!
©2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television

この映画が凄いのは配役を見てもよく分かる。主人公デイヴィッドを演じるのはデヴ・パテル。この人が有名になったのは2008年の「スラムドッグ$ミリオネア」、インドを舞台にした映画で主演してから。ロンドン生まれとはいえ、彼はインド系移民の両親のもとに生まれたインド人だ。それが英国の国民的作家を演じることになるとは。こんな発想ができる人はイアヌッチ監督以外にはいない。
この映画を楽しむためには、心を自由にして監督が見せてくれる映画を丸のまま受け入れること。新鮮で、不思議な愉しみを得られること間違いなし。

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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