イギリス映画談 ~ロンドンからやってきたミュージカル映画『トゥモロー・モーニング』~

12月16日封切り

ミュージカルって?

ミュージカルは突然歌いだしたりして不自然で嫌いと言うタモリのような人もいるが、歌と踊りがあることによってより楽しめる、より共感できるという人も多い。

映画「フットルース 夢に向かって」のダンスシーン
映画「フットルース 夢に向かって」のダンスシーン
© Some rights reserved by The Lowry, Salford

元来人間は意思の疎通を計ろうとする時、勿論言葉が一番重要にはなるのだろうが、それを補うものとして歌や踊りを使うことが、古い時代からあったと思われる。まだ言葉が分からない赤ちゃんが、手をたたいたり、足をバタバタさせるのも体の動きで何かを訴えようとしているのだ。言葉で伝わらないものを伝えよう、或いは言葉以上の感情を表そうとして歌や踊りが使われるのがミュージカルと言える。ミュージカルは物語が言葉と音楽と踊りで語られる。それはすべて見る人の感情を高めるために使われる。

ミュージカルの本場は?

ミュージカルの本場と言えば、ニューヨークのブロードウェイと思っている人が多いだろうが、実はロンドンはもう一つの中心、劇場が多く集まっているウエストエンドが、いわばロンドンのブロードウェイだ。さらに、世界初のミュージカルとして位置づけられている音楽劇「ベガーズ・オペラ」は1728年にロンドンで上演されている。

「ベガーズ・オペラ」のシーンで女優が手を拡げ歌うシーン
「ベガーズ・オペラ」のシーン(2014年)
© All rights reserved by Department of Theatre, York University

ミュージカルがジャンルとして確立した20世紀になっても、ロンドンで初演されたミュージカルも数多く生まれている。ブロードウェイとウエストエンド、この2つのミュージカルの中心地は、互いに切磋琢磨しながら幾多の名作を送り出してきた。ヒット作品であれば、ブロードウェイで生まれたものがロンドンでも上演されるし、その反対もある。

1970年代以降のロンドンミュージカル

1970年代以降は暫くの間ロンドン製ミュージカルが世界を圧倒していた。製作者としてはキャメロン・マッキントシュ、作曲家としてはアンドリュー・ロイド=ウェバーが数多くのヒット作を生み出していた。
マッキントシュ製作、ロイド=ウェバー作曲として二人が協力した作品には「キャッツ」「オペラ座の怪人」があり、別の作曲家によるマッキントッシュ製作作品には「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」「メリー・ポピンズ」があり、他の製作者によるロイド=ウェバー作曲作品には「ジーザス・クライスト・スーパー・スター」「エビータ」「スターライト・エクスプレス」「サンセット大通り」がある。今なお上演が続けられている作品も多い。ちなみに、ロンドンでのミュージカルのロングラン記録は1985年10月8日の初演以来、現在もまだ上演されている「レ・ミゼラブル」が第1位、1986年10月9日に初演で同じく続演中の「オペラ座の怪人」が第2位となっている。

「HOME OF THE WORLD'S LONGEST-RUNNING MUSICAL」と書かれた壁の前を走るロンドンタクシー
レ・ミゼラブルをPRした壁には「HOME OF THE WORLD’S LONGEST-RUNNING MUSICAL」と書かれている
© All rights reserved by Zefrog

ミュージカルと映画

ミュージカルが演劇の一つのジャンルとして成立した20世紀は、また、映画が1895年に出現し、20世紀に発展した歴史と重なる。勿論サイレント映画時代は劇場で演奏される伴奏が唯一の音楽だったのだが、1927年に映画「ジャズ・シンガー」でトーキー時代に突入する。

寒い冬の夜のウエストエンド地区の劇場「The Vaudville Theatre」
ロンドン、ウエストエンド地区の劇場”The Vaudville Theatre”
© All rights reserved by lsullivanart

ジャズ歌手アル・ジョルソンを描いたこの映画は、有名な台詞”待ってくれ、お楽しみはこれからだ”(Wait a minute, wait a minute. You ain’t heard nothin’ yet!)と共に「マイ・マミー」が歌われるのだった。トーキーは音楽とともに始まったのだ。

「トゥモロー・モーニング」というミュージカル

結婚式の装飾がされた会場で手を組む幸せそうな二人
映画「トゥモロー・モーニング」での結婚式の二人
©Tomorrow Morning UK Ltd. And visualize Films Ltd.
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このミュージカルは2006年ロンドンのニュー・エンド劇場で初めて上演された。その後シカゴ、メルボルンで手直ししながら上演され、2011年にはニューヨークのオフ・ブロードウェーのヨーク劇場でも上演されている。日本でも2013年に東京のシアタークリエで、石井一孝、島田歌穂、田代万里生、新妻聖子という実力派キャストで上演されている。脚本を書き、作詞・作曲をしたのはローレンス・マーク・ワイス。
“あしたの朝になれば、すべてが変わる”と主人公たちは歌う。ミュージカルが最も多く描いてきたのは恋愛と言えるだろう。ロマンスは様々な感情を最も多く含んでいる。感情を最も効果的に表すためには歌や踊りが含まれるミュージカルが最適なのだ。そんな感情の高まりを見せてくれるミュージカルがロンドンで作られた。結婚前夜と離婚前夜が描かれる「トゥモロー・モーニング」だ。

ベッドに腰を掛けるビルと息子のザック
映画「トゥモロー・モーニング」でのビルと息子のザック
©Tomorrow Morning UK Ltd. And visualize Films Ltd.
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映画としてやってきた「トゥモロー・モーニング」

映画の最大の話題は二人の主演者だ。共にロンドンを中心とした舞台で活躍してきた。
今年44歳になったラミン・カリムルーはイラン・テヘラン出身で現在の国籍はカナダ、活躍はロンドンに限らず、ブロードウェイの舞台にも出演している。

主人公のラミン・カリムルー
ラミン・カリムルー演じるビル
©Tomorrow Morning UK Ltd. And visualize Films Ltd.
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「レ・ミゼラブル」のアンジョルラス役やジャン・バルジャン役、「オペラ座の怪人」のファントム役などで有名だ。こうした役で世界の様々な都市で舞台に立っている。日本でもすでに「プリンス・オブ・ブロードウェイ」を手始めに「エビータ」「チェス」など5回の公演に参加している。

女性の主演者はサマンサ・バークス、マン島生まれの32歳。「レ・ミゼラブル」の25周年記念コンサートでエポニーヌ役を演じ、同作の映画化作品でもエポニーヌ役で出演している。更にブロードウェイにも進出、「プリティ・ウーマン」のミュージカル作品でヴィヴィアン役を演じている。

主人公のサマンサ・パークス
サマンサ・パークスが演じるキャサリン
©Tomorrow Morning UK Ltd. And visualize Films Ltd.
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主演二人はどちらも歌唱力が素晴らしい。踊りも少しはあるが、それぞれの心情を表現するナンバーの多いこのミュージカルには最適だ。素晴らしい歌声で作品を支えている。

舞台と映画では大きく変更されたことがある。主演級の配役が4人から2人になっている。舞台では結婚前夜と歌うカップルと、離婚前夜と歌うカップルは別の俳優によって演じられていた。結婚して10年がたち離婚しようとしている夫婦は別の名前の登場人物だったのだ。最後に同じ人であることが明かされるのだが。

言い合いをする主人公のキャサリンとビル
言い合いをするキャサリンとビル
©Tomorrow Morning UK Ltd. And visualize Films Ltd.
Exclusively licensed to TAMT Co.,Ltd. For Japan

映画は結婚しようとしていたカップルが、10年後に離婚しようとするようになる物語、それがミュージカルで描かれる。感情の動きも激しく、10年の時間を挟んで、物語が交錯する。ラミン・カリムルーにひげ無し、ひげ有りで時代の判断をしながら、メロディラインのくっきりした歌を楽しみ、ふたりの愛の変遷を楽しみましょう。

公式サイト:http://www.cetera.co.jp/tomorrowmorning/


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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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