『ツバメ号とアマゾン号』の子供達はマーマレードが大好き

マーマレードといえば『くまのパディントン』が有名ですが、イギリスの児童文学『ツバメ号とアマゾン号』シリーズに登場する子供達も、マーマレードが大好きなんです。
1930年にイギリスで出版されたアーサー・ランサム著『ツバメ号とアマゾン号』では、子供達がキャンプをして、パンやフルーツケーキにマーマレードをつけて食べるシーンが何度もでてきます。またシリーズの中の『女海賊の島』の本では「オックスフォードマーマレードがおいしい」と語る場面もあり、それらを考えるとアーサー・ランサムもさぞかしマーマレードが大好きだったに違いありません。

『ツバメ号とアマゾン号』シリーズとは

アーサー・ランサム作の書籍『ツバメ号とアマゾン号』『女海賊の島』『長い冬休み』『ツバメ号の伝書バト』
岩波少年文庫『ツバメ号とアマゾン号』『女海賊の島』『長い冬休み』『ツバメ号の伝書バト』
アーサー・ランサム作 神宮輝夫訳 岩波書店

アーサー・ランサムは1884年イギリス生まれ、作家であり、ジャーナリストです。特にイギリスの湖水地方を舞台に『ツバメ号とアマゾン号』からはじまるこのシリーズは、ランサム・サーガと呼ばれ、岩波少年文庫で全12巻、合計24冊が出版されています。
第1巻の『ツバメ号とアマゾン号』は、ウォーカー家のジョン、スーザン、ティティ、ロジャの4兄弟とアマゾン海賊を名乗るナンシーとペギーの2人の姉妹、計6人の子供達が、湖の小島にテントを張り、2艘のヨットを操りながら、湖を縦横に走らせる、そんな夢のような夏の冒険がたくさん詰まった物語です。
他のシリーズでは、湖水地方の山に登り、冬の硬く凍った湖上をソリで走り、あるいはノーフォークの湖沼地帯でのディックとドロシア姉弟の探偵物語、濃霧の夜に子供達が乗った船が流され、イギリスのピン・ミルからオランダへ行った話、南洋や中国での冒険物語など多岐にわたります。
その物語は一貫して、休暇中の子供達の喜びと楽しさに満ち溢れています。
大人になって読み始めても、間違いなく湖水地方へ行きたい、湖で船に乗りたい、野原を駆け回りたいと思ってしまう事でしょう。私もその本の魅力に取りつかれた1人です。

原作の舞台の1つ、湖水地方のウィンダミアとコニストン

物語の舞台となった場所をはっきりと断定する事ができませんが、湖水地方にあるウィンダミア湖とその奥に位置するコニストンウォーター(湖)が舞台だといわれています。

ヨットが浮かぶウィンダミア湖
ヨットが浮かぶウィンダミア湖
「ウィンダミア蒸気船博物館」に展示された映画の小道具「ツバメ号」と「アマゾン号」
「ツバメ号(左)」と「アマゾン号(右)」

現在ウィンダミア湖畔にある「ウィンダミア蒸気船博物館 」(Windermere Jetty Museum of Boats, Steam and Stories)には、2016年の「ツバメ号とアマゾン号」の映画の撮影で使われたヨットが展示されています。それを見ると、ますます本当にあった物語のような気持ちになります。 

コニストンウォーター(湖)
コニストンウォーター(湖)
船から眺めたコニストーンウォーター
コニストンウォーターを周遊する船(ゴンドラ)に乗って

コニストンウォーター(湖)の周辺はウィンダミアと違い、とても静かな雰囲気です。ランサムも少年時代、夏休みはコニストンウォーターの近くで過ごしています。この湖には、物語の中で子供達がキャンプをした「ヤマネコ島」のモデルの1つといわれるピール島があります。
以前、湖水地方を訪れた際、コニストンウォーターを周遊する「ゴンドラ」という蒸気船に乗り、ピール島の近くを通りました。ランサムのファンならば、物語とはわかっていても、赤いニット帽をかぶったアマゾン号の子供達がそのあたりを駆け回っていないか、ついつい目を凝らして見てしまいます。

パンやフルーツケーキにマーマレード

テーブルにセットされたフルーツケーキとマーマレード
フルーツケーキにマーマレード

子供達は、無人島で焚火をして、紅茶を飲んで、マーマレードを塗ったパンを食べて、やはりイギリスの子供達は、パンにはマーマレード。時には、フルーツケーキにマーマレードを塗って食べている子供達。フルーツケーキにマーマレードは甘すぎるかも?でも実際に食べてみると、マーマレードがオレンジピールのように感じられて、おいしいのです。この時のマーマレードは、やはりセヴィルオレンジで作った甘さと苦みが効いた、トラディショナルな味わいのマーマレードが一番合いそうです。キャンプに持っていくマーマレードは、ツバメ号の子供達のお母さんが作った手作りだったかもしれませんね。

『女海賊の島』の本に出てくる、オックスフォードマーマレード

このランサム・サーガのシリーズの中で、異色の物語が『女海賊の島』。
舞台は中国、子供達とその叔父さんの乗った船が沈没して、中国人の女海賊であるミス・リーに捕まる話です。
このミス・リーは、若い頃ケンブリッジに留学します。海賊だった父の後を継ぐため中国に戻り、海賊稼業をしていますが、本当はケンブリッジで学問を続けたいと願っている彼女。ある時、彼女は子供達を英国風の朝食に招きます。そして「私たちはいつも、ケンブリッジでオックスフォードのマーマレードを食べていました。学者も教授も、ケンブリッジのほうがすぐれています。でも、マーマレードはオックスフォードがおいしい。」(『女海賊の島 下』アーサー・ランサム作 神宮輝夫訳 岩波書店 2014年 16項)と言うのです。子供達も「茶色で汁気の多いやつ」とオックスフォードマーマレードが大好きです。

フランク・クーパーのオックスフォードマーマレード

テーブルにセットされたフルーツケーキとオックスフォードマーマレード
オックスフォードマーマレードはオレンジピールも大きめ、見た目も茶色で、とろっとしている

フランク・クーパー(Frank Cooper’s)のオックスフォードマーマレードとは、1874年にオックスフォードで食料品店を営んでいたフランク・クーパーの妻、サラ・ジェーンが作ったマーマレード、販売すると大人気商品となりました。特にオックスフォードの教師や学生に人気があったといわれています。
色は黒いのですが、そう甘すぎる事もなく、セヴィルオレンジの大きなピールが入っていますので、食べた時にオレンジピールの噛み応えがあります。あぁ、マーマレードはオレンジの皮を楽しむものだなと思うのが、このマーマレード。
1912年に南極大陸を探検途中に遭難したロバート・ファルコン・スコットの隊が持っていったマーマレードであり、そのビンが氷の中から発見されたとしても知られています。物語の中でもこのマーマレードが登場する事から、ランサムもこのオックスフォードマーマレードが大好きだったのでしょう。

オックスフォード・タイプのマーマレードは黒いマーマレード

一般的にオックスフォード・タイプといわれるマーマレードは、デメララシュガー、マスコバドシュガーなどのブラウンシュガー、あるいはグラニュー糖とあわせて少量のブラックトリークルを入れるなど、いくつかのレシピがあります。ブラウンシュガーやブラックトリークルを入れる事により、あの茶色のコクのあるマーマレードになります。
そして必ずではありませんが、茶色のコクがある味わいに負けないよう、セヴィルオレンジのピールも、食べ応えのある、大きめのサイズにカットされています。そこで「ダーク&チャンキーマーマレード」といわれたりします。

マーマレードを食べながら心は湖水地方へ

コニストンウォーター
ランサムファンなら、コニストンウォーターは憧れの地

『ツバメ号とアマゾン号』は夏休みの冒険がテーマですが、『長い冬休み』のように大寒波で湖が凍り、大吹雪の中をソリで冒険する話もワクワクします。マーマレードをつけたパンやフルーツケーキと熱いミルクティを用意して、物語の子供達と一緒に湖水地方を楽しむ、そんな冬休みの日も楽しいものです。

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林敦子

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EnglishKitchen®代表。イギリステイストのマーマレード、ジャム。チャツネを製造販売。 日本紅茶協会認定ティーインストラクター。 イギリスでマーマ...

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