イギリス映画談
~多くの人に愛されたダイアナの2本の映画~

この秋、ダイアナ元皇太子妃にまつわる映画2本が日本で公開されるタイミングで、UK Walkerでもこの映画を「イギリス映画談」シリーズでご紹介させていただこうと準備していた矢先、エリザベス女王の訃報が飛び込んできました。
先日、プラチナジュビリーのお祝いが英国中で行われ、エリザベス女王のお元気な姿をメディアでも拝見していましたことを思い出し、とても残念でなりません。

まずは、謹んで女王陛下のご冥福をお祈り申し上げます。

アスコット競馬場で多くの人たちの中で競馬観戦するダイアナ
アスコット競馬場のダイアナ
© Kent Gavin

ダイアナ元皇太子妃のイメージは?

悲劇的な最期のイメージが強いダイアナ。
1961年7月1日~1997年8月31日の36歳2カ月で逝ってしまったダイアナ、早すぎる死だった。この短かった人生の中で、彼女はどんな風に生きて来たのか?よく知られている部分もある彼女についての映画が2本やってくる。
新しく教えられる部分もあり、今までとは違う彼女に出会えるかもしれない。ドキュメンタリーと実写映画という違いはあるが、いずれも彼女の人生に迫ったものだ。彼女が去ってから25年が過ぎようとしていて、もう四半世紀も経つのかと驚いてしまう。

『プリンセス・ダイアナ』(原題:The Princes)

9月30日封切り

映画『プリンセス・ダイアナ』のポスター
映画『プリンセス・ダイアナ』ポスター

多くの映像から作られたドキュメンタリー

ダイアナは一時期イギリスで最も有名な女性だった。マスコミが追いかけた分だけ、残された映像は膨大な量になっている。その中から選ばれた映像には見慣れたものや初めて見るものもあるが、いずれにしてもナレーションや文字での説明を加えることなく、綴られていく。この映像の洪水に囲まれると、まるであの頃のダイアナに出会ったような気持ちになる。説明もなく画像が進んで行っても、我々は知っていた彼女に出会えるので理解していくことができる。そこには、彼女が初めてチャールズのお相手になるかもしれないという時点でのインタビューや、ふたりの婚姻が決まってからの揃ってのインタビューもある。いかにも初々しいダイアナの表情や受け答えが見られる。テレビ中継され世界中で7億5千万の人が見たというロンドンのセントポール大聖堂での結婚式、その前後の馬車での移動の映像を久しぶりに見た。あの熱狂を思い出す。その後ダイアナ妃としての活躍、ふたりの息子の出産から家族としての幸せな日々、その後の夫婦間の複雑な関係もイギリスのニュースで報道された映像を使ってすべて描かれる。

ダイアナの死を伝えるNewsweekやTime誌など多くの雑誌の表紙
ダイアナの死を伝える雑誌の表紙
© Michael Dwyer / Alamy Stock Photo

この映画が、その映像量の多さにもかかわらず、見る者の頭にすんなり入ってくるのは、事柄が起こった順番に描かれているからだ。

愛されたダイアナ

別居から離婚、その後のダイアナの行動も当然ながら目にする。そして、突然パリでの自動車事故死がやってくる。このニュースが流れるとバッキンガム宮殿の前には献花が置かれ始める。その数はどんどん増え、想像を絶する数になっていく。献花に訪れる層も子供からお年寄りまで、若い女性からおじさんまでと幅広い。そして、ウエストミンスター寺院での告別式。多くの人が見送り、車の沿道には多くの人が花を投げていた。

献花で埋め尽くされたバッキンガム宮殿前
ケンジントンパレス前の献花
© Jeremy Sutton-Hibbert / Alamy Stock Photo

分かっていたはずなのに、彼女がこんなに多くの人々から愛されていたということに驚く。それを教えてくれるドキュメンタリーだ。
監督はドキュメンタリー昨品で数々の国際的な映画賞を受賞しているエド・パーキンス。

『プリンセス・ダイアナ』公式サイト: https://diana-movie.com/

映画『プリンセス・ダイアナ』×ZARD「Forever you」スペシャルコラボMV

『スペンサー ダイアナの決意』(原題:Spencer)

10月14日封切り

映画『スペンサー ダイアナの決意』のポスター
映画『スペンサー ダイアナの決意』ポスター

サンドリンガム・ハウスでのクリスマス

ロンドンからほぼ北に180km程のところにノーフォーク州のサンドリンガムがある。ここにあるサンドリンガム・ハウスは英王室が私的に保有する別邸。毎年のクリスマスには英王室一族が、クリスマスイブからクリスマス翌日のボクシングデイまでの3日間を一緒に過ごすのが恒例になっている。
ダイアナが車を運転しながらサンドリンガム・ハウスへ向かう時、自分が生まれ、子供の頃を過ごしたサンドリンガムの地なのにもかかわらず、道で迷ってしまうところから映画は始まる。彼女はサンドリンガムの屋敷パークハウスで生まれ、育っていたのだ。なかなかたどり着けないでいる時、子供のころ遊びでかかしに着せた父の外套が今もそこにあるのを見つけ、外套を車に積んでやっとたどり着く。エリザベス女王より遅い到着となってしまう。玄関ホールには彼女が知らない新しく任命されたグレゴリー少佐が待っていて、天秤で体重を計るようにと、しきたりだからと伝える。彼はクリスマスの集まりの総てを管理するために任命されたようだ。

1991年のクリスマス

ベッドルームでくつろぐダイアナと二人の王子ウィリアムとヘンリー
ダイアナと二人の王子ウィリアムとヘンリー
© Pablo Larrain

数年前からチャールズ皇太子は一家が住んでいたケンジントン宮殿を離れ、ダイアナは二人の王子ウィリアムとヘンリーと住むようになっていた。夫婦の関係は冷え切っていて、1年後の12月には別居生活に入ることが正式に発表されることになる。1991年のクリスマスはダイアナとチャールズにとってそんな状況にあったのである。この映画はサドリンガム・ハウスでの3日間のみを描いている。

ダイアナとチャールズを演じる二人
2日目朝食時のダイアナとチャールズ
© Frederic Batier

初日、ダイアナは館への到着に遅れ、ディナーの席を中座して戻らず、クリスマスイブにプレゼントを開けるという王室の慣習に反対し、中座して食べなかったために夜遅く厨房の冷蔵室をあさって食べているとグレゴリー少佐がやってくる。1日目はこんな風に終了する。その間に彼女の部屋には何故かアン・ブーリン王妃の書物が置かれていた。ヘンリー8世の寵愛を受けながらも、新しい妻を娶りたい王に邪魔者として処刑されたアンについての本が。

ダイアナの悲劇を描く寓話

赤いコートと黒の帽子を身に付けたダイアナ
指定に反して赤いコートと黒の帽子を身に付けた2日目のダイアナ
© Pablo Larrain

2日目、3日目と進むが、彼女の心は休まることがない。3日間の多くの行事、場所に合わせて衣装も決められていて、それでも時に彼女は別の服を着たりする。更に2日目には馴染みの衣装係・マギーが他の女官に変えられていて、気楽に話すこともできない。

衣装係がダイアナに後ろからネックレスをつけるシーン
マギーではない衣装係とダイアナ
© Claire Mathon

3日間、続けられているしきたりやチャールズの態度に平たく言えばいじめられていると感じているダイアナの姿が続く。これは、見ていて結構つらい。
ダイアナの一番つらかった時期を3日間の中に凝縮して伝えよう、作り手のそんな気持ちが伝わってくる。それ以前の幸せだった過去と、これ以降の自分の意思で生きていく未来の中間点で苦しんでいるダイアナ。見ている我々も、作っている人たちも彼女のその後、つまり未来を知っている。
「実際の悲劇に基づく寓話」という言葉が映画の初めに現れる。「事実に基づいた物語」とは少し違う。そこに作り手の思いが込められている。

カーテンの隙間から外を見るダイアナ
カーテンの隙間から外を見るダイアナ
© Pablo Larrain

監督はチリのパブロ・ラライン、今までには「ジャッキー/ファーストレディー 最後の使命」で世界的に評価された。ヘア・メイクデザイナーは吉原若菜さんが担当している。最近では「ナイル殺人事件」など多くの海外作品で活躍している。

連続して公開される2本の映画で、この秋ダイアナに出会ってみてはいかがだろうか。

『スペンサー ダイアナの決意』公式サイト: https://spencer-movie.com/

映画『スペンサー ダイアナの決意』予告編

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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