続 アンティーク手引書としての、『ダウントン・アビー』
~英国階級社会とアンティーク・ジュエリー ~

前回のコラムに引き続き、今回もドラマ 『ダウントン・アビー』を通して、アンティークをテーマに綴って参ります。

ドラマ 『ダウントン・アビー』でかいま見る英国社会

ドラマ 『ダウントン・アビー』では、登場人物達が織り成すヒューマンドラマを通し、英国やヨーロッパの歴史・社会的背景・文化などを楽しめます。
多くの登場人物は、大邸宅、”ダウントン・アビー” で暮らすグランサム伯爵一家と、それに関わる人々、そして、そのファミリーに仕える使用人達とで構成され、それぞれに貴族階級・中産階級・労働者階級と大別が出来、はっきりと異なる階級社会を見て取る事が出来ます。
このドラマの魅力と人気はヒューマンドラマとしてのストーリーの面白さは勿論の事、英国の階級社会や風習を知る事が出来る点も大きく関わっているといえるでしょう。

階級社会の伝統が色濃く残るイギリス

私達、日本人が日本で生活していると貧富の差や、階級の違いを感じる事は殆ど無いと思いますが、海外、特にヨーロッパ諸国に於いてはその違いがあるという事を知り、体感する事があるのではないでしょうか。
英国はヨーロッパの中でもいち早く産業革命を推進し、先進的な国家というイメージがありますが、日本人の想像以上に階級社会の伝統が現在も市民に色濃く残っているようであります。

前回のコラムで記しましたように、私は以前に英国のマナーハウスに一ヶ月程、ホームステイした経験があります。マナーハウスとは貴族(領主)が所有する邸宅でありますが、私が滞在したマナーハウスも例外では無く、ホストファミリーは上流階級に身を置く人々でした。ホームステイの目的は語学力のスキルアップは勿論の事、英国上流階級の風習や礼儀を学ぶものであり、気品ある英語の言い回しや、生活習慣などを色々と教えて頂いたものです。

フィッシュ・アンド・チップを食べたことが無い!?

少し話題が横道に逸れてしまいますが、そのうちのエピソードを一つ。
ホームステイ先のホストマザーは、フィッシュ・アンド・チップスを食べた事が無いとの事。ご存知の方も多いと思いますが、フィッシュ・アンド・チップスはイギリスの代表的な国民食の一つです。白身魚のフライにフライドポテトを添えたとてもシンプルなファーストフードなのですが、それだけを扱う専門店では白身魚も数種のタラやカレイ、更にはシュリンプやロブスターなど豊富な食材の中から選べ、私達、日本人がイメージするよりもかなり美味で、しっかりとしたメイン料理にもなりそうなものを提供して頂ける事もあります。

確かイングランド南東部の都市、ブライトンだったと思うのですが、そこの専門店でいただいた脂の乗ったジューシーなタラのフィッシュ・アンド・チップスは格別でした。そんな多くの国民に人気のある料理ですが、その歴史を遡ると産業革命期の労働者が安価ですぐに食べられ、更には腹持ちが良いという事で普及した事があります。

私がホームステイした際のホストファミリー、特にホストマザーはなかなかの保守的な考え方を持っており、〈 フィッシュ・アンド・チップス=労働者階級の食事 〉という認識を持っており、上流階級に身を置く者としてのプライドなのでしょうか、口にした事は無いとの事でした。(本当か、どうか・・・事実は定かではありませんが!)
ドラマ『ダウントン・アビー』の中では、グランサム伯爵 ロバートや、彼の母、バイオレット夫人(先代 グランサム伯爵夫人)がとても保守的な人物として描かれていますから、おそらく彼らもフィッシュ・アンド・チップスは口にする事は無かったかと想像します。

『ダウントン・アビー』で1912年~20年代のファッションやジュエリーを

さて、ホストファミリーとの体験談から、『ダウントン・アビー』に話を戻します。

ストーリーの殆どは館の中で展開されていくのですが、グランサム伯爵一家と使用人達との階級の差は一目瞭然です。使用人達は館内に用意されたそれぞれの一室を住まいとしていますが、代々受け継がれてきた豪華な調度品で整えられた館内とは比べものにならない程に簡素な空間です。
また、何よりも目に留まるのは貴族階級のレディー達の華やかな装いです。
『ダウントン・アビー』は長編ドラマであり、その描かれている時代も長期に渡り、物語は1912年に始まり、ほぼ1920年代全般までが舞台となっています。 約20年間弱が舞台となっている訳ですが、登場人物達、とりわけレディー達のファッションやジュエリーの変遷を見ても時代の流れを感じ取る事が出来ます。

レディー達の装い
1900年代初期頃の貴族のレディー達の装い
比較的、ゆったりとしたラインのシルエットのドレスに、豪華でエレガントなジュエリーが映えます
お洒落はレディーの品格の象徴とも言えます
(c)2019 Universal Studios. All Rights Reserved. Downton(TM) and Downton Abbey(r)
(c)2019 Carnival Film And Television Limited.

私たちが目にするアンティークは、主に近代のもの

一般的に西洋アンティークとは100年以上経過したものと定義付けられるのですが、私達が普段に目にする事が出来るアンティークの様々なモノは何百年も前のモノという事はありません。
古代(紀元前~)は勿論の事、中世(476年~1453年)や、近世(1453年~1789年)の品々は博物館や美術館で目にする事が出来るようなものでしょう。近代(1789年~1992年)に入り、かなり古いモノでも、せいぜい1800年代初期以降、特に1800年代中期・後期頃以降の、言うなれば『ダウントン・アビー』に登場してくる辺りの時代のモノが実際に目にするモノとして実は多いのです。

『ダウントン・アビー』で本格的なアンティーク・ジュエリーを目に

『ダウントン・アビー』に登場しているアンティークは、館を飾る家具や調度品などのインテリア、食器やカトラリーの数々・・・そして女性の視聴者であれば最も身近に感じやすいのはレディー達が身に付けているジュエリーや、小物類、そして衣装などのファッション アイテムかと思います。
私自身が『ダウントン・アビー』に魅了されたきっかけの一つは、本格的なアンティーク・ジュエリーの数々を映像を通じて楽しめる事でした。

『ダウントン・アビー』の主要人物達は、それぞれにとても個性豊かなのですが、その装いにも各人のキャラクター性などが巧みに表現されているように感じます。
例えば、グランサム伯爵 ロバートの母、バイオレット夫人。彼女はヴィクトリア王朝時代(1837~1901年)を生き抜いた人物です。彼女の装いは、典型的なヴィクトリアン スタイル。肌を露出する事は無く、デコルテはレースなどで覆い、色や生地でグラーデーションを付けながら重厚に重ね着をしています。ジュエリーも重厚感のあるヴィクトリアン時代のネックレス、ブローチ、ピアス、リングと重装備です。とてもクラシックな装いで、〈これぞ!アンティーク!!〉な世界観です。

エドワーディアン ジュエリー
ヴィクトリアン ジュエリー
古代エトルリア様式の金細工が施されたカメオとガーランドネックレス
Antiques EDENでお取り扱い中のジュエリーです!)

対して、グランサム伯爵夫人や、その娘達である三姉妹(メアリー、イーディス、シビル)の装いは、このドラマの中心となっている時代であるエドワード王朝時代(1901年~1910年)のスタイルです。コルセットで身体を締め付ける事は無く、あまりボディラインを強調しない緩やかなシルエットに、デコルテは大きく開いて肌の露出も見られます。ジュエリーもヴィクトリア王朝時代に比べると、繊細でエレガント。現代のジュエリーにも見受けられるようなモダンな印象のデザインも多くあります。

ヴィクトリアン ジュエリー
エドワーディアン ジュエリー
貴重な天然パールを用いたトワ・エ・モア リングと、ラヴァリエール ネックレス
Antiques EDENでお取り扱い中のジュエリーです!)

当時、先端の装いを身にまとったアレクサンドラ皇太后

いつの時代も貴族の人々のファッションは王室に倣う事が多いものですが、『ダウントン・アビー』の時代、エドワード王朝時代のファッションリーダーは、アレクサンドラ皇太后やメアリー王妃でした。特に絶世の美女と謳われたアレクサンドラ皇太后のファッションは注目の的で、ドラマに登場しているレディー達のドレスやジュエリーなどを見てみても、皇太后を手本とした当時の先端の装いである事が分かります。

アレクサンドラ皇太后
アレクサンドラ皇太后の身に付ける装身具類は
女性達の憧れの的
貴族のレディー達の間で流行

質素な使用人たちの装い

一方、使用人達の装いはグランサム伯爵一家や、その他の上流階級の人々とは全く異なり、とても質素です。殆どの使用人は勤務中には制服を着用しているので気に掛かりませんが、休暇の際のお出掛けの装いを見てみると、特にジュエリーといった装身具を殆ど身に付けていないという事に気が付きます。
但し、使用人達の間にも身分の違いや上下関係が存在しており、執事・従者・下僕・侍女・メイドといったようにそれぞれの役割によって給料や館内で出入り出来る場所が違うのですが、服装もまた違っています。使用人達の中でもトップに位置する者は制服を着用せず、ジュエリーを身に付けている者も見受けられます。家政婦長であるヒューズさんは、たびたび首元に小さなブローチを付けています。貴族階級の人々と直接に接する機会の多い立場としてのマナーとして、ジュエリーを身に付けているといえます。

ブローチは、ジュエリーの中でも品格を表現しやすいアイテム

様々なジュエリーの中でも、ブローチはとても品格を表現しやすいアイテムのように思えます。私はアンティーク ジュエリーを扱う仕事をしていますが、よくお客様からブローチについてのご相談を受ける機会があります。内容としては、ブローチに興味があるけれども、付け方がよく分からないというもの。時代と共にファッションがかなりカジュアル化してきた昨今では、あまりブローチを付けている人も多くないので、そのお手本になるような人を見掛ける事もないでしょうから、余計にイメージが湧かないのかも知れません。海外、特にイギリスに行きますと、女性に限らず男性でもさりげなくブローチを付けている姿をよく見かけます。上流階級の身だしなみが伝統的に受け継がれているのかもと想像が出来ますが、それがアンティークだったりしますと余計に目を引きます。

代々受け継いだアンティーク・ジュエリーはステータスに

ある人の話では、アンティーク・ジュエリーを身に付けるという事は、一種のステータスなのだそうです。代々、受け継いできた大切なものを身に付けている場合には、その家柄がそれなりの階級である事を表しているからだそうです。色々な国の中でもイギリス人は古いものを好み、大切にすると言われていますが、ジュエリーに限らず、家の中を飾る調度品や家具なども、先祖代々に受け継がれてきたものであれば、それは自尊心の表れでもあると言えるのでしょう。

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小俣晶子

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両親の仕事の関係で学生時代より渡英する機会が多く、現在は先代(母)を受け継ぎ、東京 銀座にてジュエリー&ウォッチを中心としたショップ《 Antiques E...

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