イギリス映画談
~『ビルド・ア・ガール』田舎の冴えない少女が、ロック誌の批評家に~

―女の子になる方法―

「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」には女性の00(ダブルオー)エージェントが登場しているが、イギリスは基本的には男性主体の国といえるだろう。そんなイギリスで女の子が成功していくのは?というのが今回のテーマだ。

「ビルド・ア・ガール」のポスター
失敗だなんて思わない 過去のジブンが未来を作る!
音楽ライター・ドリーのクソったれで愛しい日々に共感必至
青春エンパワーメントムービー誕生!!

『ビルド・ア・ガール』 10月22日封切り

今回は私の知らないことばかりの映画だ。
なぜなら、私は女の子ではない、正確には女性でもない(これはトランスジェンダーの映画ではない)。映画で多用されている1990年代のイギリス音楽、主にロックに関してはほぼ知らない。さらに、この映画の監督、製作者など製作サイドに知っている名前がない。出演者にも知っている俳優は多くはない。
ただ、幸運なことに主演女優のビーニー・フェルドスタインと、最後に現れる女性編集ボス役のエマ・トンプソンは知っている。これから手探りで映画に触りながら、きちんとお伝えできるようトライしよう。

「ビルド・ア・ガール」のシーン 取材したロック歌手と 
主人公ジョアンナが取材したロック歌手と

映画の原題は「How to Build a Girl」、キャトリン・モランの同名原作からの映画化だ。
半自伝的小説から、モラン自身が映画用に脚本を書いている。キャトリン・モランはイギリスでは有名な人らしい。
日本のWikipediaにも彼女の記載があり、イングランドのジャーナリスト、作家、テレビ司会者とある。
1975年4月5日生まれの46歳、8人の子供の長女として生まれ、4人の妹、3人の弟がいる。彼女は11歳から学校に行かず家で教育を受けていたというが、これは両親が町で唯一のヒッピーだったため、地元の議会が許していたらしい(他の子供達も同じ状況)。十代の頃から作家になると決めていた彼女は、13歳で若者読者エッセイコンテストで優勝したり、15歳で若者レポーター賞を受賞していた。16歳からは伝統ある音楽雑誌「メロディ・メイカー」で記事を書き始める。17歳でテレビの音楽番組の司会者を共同で務める。いずれにしろ早熟な才能のある人だったようだ。
彼女は15歳で「The Cronicles of Narmo」(出版は1992年)という小説を書いた後、2011年「How to Be a Woman」、2014年「How to Build a Girl」(映画原作)、2018年「How to be Famous」とHow toシリーズを出版している。最初の「How to Be a Woman」のみ「女になる方法-ロックンロールな13歳のフェミニスト成長記-」として2018年に日本語版が出版されている。

監督はコーキー・ギェドロイツという女性で、初の長編映画作品となる。今まではテレビや配信のドラマを多く手がけ、エミー賞などを受賞している。香港生まれのイギリス人で、3人の子供がいる50代。
その他、製作、プロダクションデザイナー、メイク、衣装も女性が担当、女性によって作られた映画といえるかもしれない。

「ビルド・ア・ガール」のシーン 家族と一緒に(父、兄、弟)
家族と一緒に(父、兄、弟)

16歳の主人公ジョアンナを演じたのはビーニー・フェルドスタイン、彼女の存在感がこの映画の大きな部分を決めている。小太りで、”決して定番のヒロインとは言えない”と主人公自らコメントしている。それでもめげずに自分のしたい事に突き進む主人公を、ビーニーは元気いっぱい演じている。
彼女は2本の映画での助演クラスの役で日本にも登場している。2018年に日本公開された「レディ・バード」が1本目、主演シアーシャ・ローナンの高校時代の友達を演じた。2本目は2020年日本公開の「ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー」で女子高生二人のパーティめぐりを描いていた。共に女子高生役だったのだ。

「ビルド・ア・ガール」のシーン 図書室で
図書室で

3本目となる「ビルド・ア・ガール」も高校生(教育制度が違い、正確には中学の最終年で16歳)の役だ。多分、前の2本の実績からキャスティングされたのだろう。しかし、前2作とは大きな違いがある。2本は共にアメリカが舞台、今回はイギリスだ。実は彼女はロサンゼルス生まれのユダヤ系アメリカ人。それでも彼女をこの作品に持ってきたのは、製作チームが彼女の元気さにひかれたのだろう。

彼女の兄は「マネー・ボール」等に出ていた俳優のジョナ・ヒル、1983年生まれの兄より10歳近く年下というものの、16歳という役を考えるとちょっと驚き。

既にデイムの称号を頂くエマ・トンプソンはいまやジュディ・デンチに次ぐイギリス人女優といえるだろう。アカデミー賞も2度、一度は「ハワーズ・エンド」で主演女優賞を、もう一つは「いつか晴れた日に」で脚色賞を受賞している。今回も出てくるだけでシャープな、しかも知的で貫禄のある役を楽々と演じている。

「ビルド・ア・ガール」のシーン ミキシングルームで取材中の主人公
ミキシングルームで取材中の主人公

映画の主人公ジョアンナ・モリガンは、キャトリン・モランと同じように16歳で大手音楽雑誌「D&ME」(架空の名前か?)にライターとして採用される、1993年のことだ。彼女の若さ溢れる、ポップ(と思われる)な文章が評価される。映画には常にロックが流れている。ジョアンナが取材に行くシーンでも複数のロックバンドが登場する。ハッピー・マンデーズ、マニック・ストリート・プリーチャーズなどだ。これに関しては残念ながら私の守備範囲にない。90年代のビッグバンド、オアシスはこの物語の後、1995年に現れることになる。

いずれにしろ、90年代のブリティッシュロックが好きな人には必見の作品だ。知識のない私のような人にも、イギリスロックシーンがどんなものだったかを教えてくれる。
ジョアンナは、思ったより簡単に音楽雑誌社に採用されたのだが、案外早く挫折、そこで自分の在り方を見直し超過激な毒舌記事で人気を獲得していく。その先は、えっ、16歳でそこまで行っちゃうのとちょっとオーバーヒート気味。

「ビルド・ア・ガール」のシーン 音楽雑誌の編集の人たちと
音楽雑誌の編集の人たちと

ジョアンナが住んでいたのはバーミンガムから北東に25㎞程にあるウォルヴァ―ハンプトンの郊外、労働者階級が住む地域。映画は、そこからの脱出を試みる女の子の奮闘ぶりを描いている。
自分のしたいことに一直線、その小気味よさにジョアンナを応援したくなる映画だ。


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『ビルド・ア・ガール』
2021年10月22日(金)公開
映画前売券(一般券)(ムビチケEメール送付タイプ)
¥1,500

ROKU

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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