シムネルケーキのお話しとレシピ
イギリスの母の日は3月に
3月、イギリスでは水仙に、クロッカス、プリムローズなどそこかしこに黄色の花が溢れ、いっきに春がやってきます。そして同じ頃やってくるのがマザリングサンデーと呼ばれるイギリスの母の日。今年は3月27日(日)です。
アメリカの母の日が毎年5月の第二日曜日と決められているのに対し、イギリスの母の日はレントの第4日曜日、イースターの3週前の日曜日と決められているため、毎年少しずつ日付が変わります。
母の日ではなかった”Mothering Sunday”
このMothering Sunday、もともとはmother(母)とは関係なく、「mother church(マザーチャーチ)」と呼ばれる自分の属する教区のメインの教会にこの日礼拝する習慣があったことからそう呼ばれていました。
この習慣は16世紀にはすでにあったと言われていますが、当時女の子達は10歳を過ぎるとお屋敷などに奉公に出されていた時代。そのため雇い主は、イースターを迎える前のこの大切な日に家族と共に礼拝に出席することが出来るよう、彼女たちに休暇を与えました。幼い少女たちにとっては、マザーチャーチで祈りをささげること以上に、きっと久しぶりのお母さんとの再会が嬉しかったに違いありません。そして、母の存在のありがたみをひしひしと感じたのでしょう。マザリングサンデーにはいつしか、産み育ててくれた母親に感謝する日という意味合いも加わっていました。
シムネルケーキのはじまりは?
ところで、このマザリングサンデーの帰省の際、少女たちはお屋敷でケーキを焼いて持ち帰ることが許されていました。「シムネルケーキ」と呼ばれるそのケーキは、地方によってさまざまなバリエーションがありましたが、現在も残っているのはドライフルーツたっぷりのどっしりケーキに、春を連想させる黄色のマジパンでデコレーションを施したもの。上にのった11個のマジパンのボールがとても特徴的です。現在はイースターのケーキとして扱われているのでマザリングサンデーを過ぎても、イースターが終わるまではケーキ屋さんやスーパーなどで見つけることが出来ます。
マジパンが美味しさのカギ
土台のケーキは他のイギリスの伝統的なお祝い用ケーキ(クリスマスやウエディング)と同じくドライフルーツとスパイスたっぷりのいわゆるフルーツケーキ。ですが、シムネルケーキはちょっと珍しいことに、間にも薄く伸ばしたマジパンが焼き込んであります。これはドイツのマジパン入りのシュトーレンのように、ちょっと嬉しいサプライズ。さらに表面をマジパンで覆い、11個のマジパンのボールをのせて、焼き目をつけて仕上げるのですが、これはユダを除く11人のイエスの弟子たちを表していると言います。
アーモンドの粉に卵やお砂糖を加えて作るマジパンはイギリスでは定番の製菓材料。スーパーにも出来合いのものが沢山売られていますが、家庭で作っても意外と簡単に、しかも市販品よりずっと美味しいものが出来上がるので、手作り派も健在。日本でマジパンというと、アーモンドの割合が少ない細工用のものが昔から主流だったので、あまりいい印象をお持ちでない方が多いようですが、手作りのマジパンは本当に美味。一度お味見すれば、イギリス人のマジパン好きの理由が分かっていただけるはず。
“シムネル”の名前の由来は・・
さて、マジパンとシムネルケーキの作り方は後ほどご説明するとして、この「シムネル」という不思議な名前はどこから来ているのでしょう?
これは一般に、ラテン語で上質の小麦を意味するSimilia conspersa に由来していると言われています。面白いところでは他にも、SimonとNellyという夫婦がすったもんだ作り方でもめた上に作り出したケーキだったので、Simon+NellyでSimnelになった、なんていう楽しい説もあります。
おすすめはベティーズのシムネルケーキ
地方によって形も作り方もさまざまなスタイルがあったというシムネルケ―キ。前述のマジパンボールののったもの以外ほぼ姿を消してしまいましたが、その流れを汲んだものが、今もヨークシャーの老舗ティールームBettysで見つけることが出来ます。
それは19世紀までBury(マンチェスターの北12㎞程のところにある町)で作られていたベリーシムネル。普通サイズで5kg近くあったという巨大なシムネルケーキです。これをイースターシーズン限定のファットラスカルのバリエーションとして、可愛らしいサイズに仕立て、Bettys Bury Simnelと名付け毎年販売しています。通常のファットラスカル(ヨークシャー名物のロックケーキの一種)にドライフルーツとスパイスが程よく加えられ、なかなかのお味。いつか春にヨークシャーを訪れることがあれば(イギリス国内なら通販もあり)、是非お試し頂きたい一品です。べティーズではちょっとおしゃれな色白のマジパンののったシムネルケーキも各種揃っているので、目移りしてしまうこと間違いなしです。
Simnel Sunday(シムネルサンデー)と呼ばれることもあったほどマザリングサンデーと結びついていたシムネルケーキ。少々手間はかかりますが美味しさは折り紙付き。今年は手作りシムネルケーキに挑戦してみてはいかがでしょうか?
Simnel Cake シムネルケーキ<レシピ>
Simnel Cake
~シムネルケーキ~
15cm 丸型 1台分
<材料>
無塩バター ______100g
ブラウンシュガー _80g
卵 ________2個
【A】
┏ 薄力粉 ____________160g
┃ ベーキングパウダー __小さじ1/2
┗ ミックススパイス※ __小さじ2/3
【B】
┏ サルタナ・レーズン・カランツを合わせて _200g
┃ レモンピール・オレンジピール合わせて __35g
┗ ブランデー ___________大さじ2
マジパン※ _________370g(一度半分に分け、うち片方をさらに半分に分けておく)
アプリコットジャム __大さじ1
<下準備>
*型には紙を敷く
*バターと卵は室温にもどす
*オーブン予熱160℃
<作り方>
- Bのフルーツとブランデーを混ぜ合わせておきます。
- バターにブラウンシュガーを数回に分けて加えながら白っぽくふんわりするまでホイッパーでよく混ぜます。卵を少しずつ加えながらさらによく混ぜます。
- ②にAを合わせてふるい入れ、ゴムべらで軽く混ぜたら、①のフルーツも加え、軽く艶が出るまで混ぜあわせます。
- 準備した型に生地の半量を入れて平らにし、小さいほうのマジパンを型よりほんの少し小さい円形に伸ばしてのせます。残りの生地をその上にのせて平らにし、160℃のオーブンで1時間~1時間15分程焼きます。(途中表面の焼き色が濃くなりすぎるようならアルミホイルをかぶせてカバーします。)
しっかり冷めてからラップに包み、できれば翌日までおいておきます。 - 上面が膨らみ過ぎているときは少しカットして平らに整えます。
アプリコットジャムをレンジで軽く温めて柔らかくし、ケーキの上面にぬります。
大きいほうのマジパンを型のサイズに伸ばし、周囲を指でフリル状に整えるか、同じサイズのタルト型などで抜いて上にのせます。残りのマジパンを11等分して丸め、ケーキの上に並べます。バーナーで表面に軽く焼き色をつけます(バーナーがなければ高温のオーブンに入れても)。
※ミックススパイスはイギリスの焼き菓子によく使われるスパイス。手作りする場合はコリアンダー50%・オールスパイス30%・シナモン10%・ジンジャー5%・ナツメグ5%の割合で混ぜて小瓶に入れて保存
~マジパンの作り方~
出来上がり量 約420g
<材料>
粉砂糖 ______100g
【A】
┏ アーモンドパウダー __200g
┗ 粉砂糖 _________50g
全卵 ・卵黄 ______各1つずつ
【B】
┏ アーモンドエクストラクト _数滴
┃ 水あめ ________小さじ2
┗ レモン果汁 _____小さじ2
<作り方>
- ボールに粉砂糖100gをふるい入れ、卵を加えて馴染むまでホイッパーで混ぜ合わせます。
- ボールを湯煎にかけ、7~8分ほど絶えず混ぜながら、持ち上げるとリボン状に落ちるようになるまで加熱します。
- 火から下し、Bを加えて軽く混ぜたら、Aをふるいながら加え、ゴムベラで全体が良くなじむまで混ぜあわせます。ラップに包み冷蔵庫で数時間冷やします。
- 完全に冷えたら粉砂糖(分量外)をふった台の上で軽くこねて使用します。
(柔らかすぎるときは粉砂糖を加えて堅さを調整しましょう)
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