写真で巡るイギリスの旅
~スコッチの故郷 ハイランドを旅する~
スコッチウイスキーの聖地「スペイサイド地方(Speyside)」
世界で最も愛された酒はスコッチウイスキーであろう。
スコットランドの風と土と水、大麦からモルトウイスキーは造り出された。
この「命の水」ウイスキーを手作業で生み出している地、スコットランドへ旅をした。
イギリス、グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国(United Kingdom)を構成する4つの国のひとつ、コットランド。
イングランドの北側に位置するスコットランドの中で、またその北部をしめるハイランドの中に、スペイサイド地方がある。
華やかな香りを誇るスペイサイド地方のスコッチ、穏やかなものからスモーキーなものまで揃ったハイランド産スコッチ。
約50もの蒸留所が密集するハイランドのスペイサイド地域は、おなじスコットランドのアイラ島とならんでスコッチの聖地といえるだろう。今回は、そのスペイサイド地域と、ハイランドにあるピットロホリーの街と、そこにある蒸留所をご紹介する。
スペイサイドの蒸留所をめぐる
ハイランドでもっとも古い蒸留所『ストアスアイラ』(Strathisla Distilleries)
1786年創業で、ハイランドでも最古の蒸留所。多くのモルトウイスキーが作られており、ここのウイスキー「シーバスリーガル」をご存知の方も多いのではないだろうか。「シーバスリーガル」はモルトウイスキーとグレーンウイスキーの芸術的なブレンドと言われ、そのブレンドの要のひとつにストアスアイラのシングルモルトウイスキーが使われている。
写真は、発芽した大麦を乾燥させるキルン。
ピートを炊き、煙で燻して乾燥させている。パゴダ屋根は煙の排気口となっている。
スペイ川近くの蒸留所『カーデュ』(Cardhu Distilleries)
グランピア山脈始に始まり、ピート(泥炭)を含み茶色く濁ったスペイ川の流れは北海に注いでいる。カーデュ蒸留所の”Cardhu”は、スコットランドのゲール語で”黒い岩”を意味している。この川の流れからきているのだろうか。
この蒸留で作られている「カーデュ12年」は、”黒い岩”とは対照的にとても滑らかでシルキーな味わいだ。「ジョニーウォーカー」のキーモルトとして使われている。
スペイ川はシングルモルトだけでなく、サーモン、トラウトの命も育んできた。大物を狙って腰まで浸かりながらフライを投げる釣り人の姿を、このスペイ川でよく見かけたものだ。
世界で最も売れるシングルモルトウイスキーの蒸留所『グレンフィディック』(Glenfiddich Distilleries)
1887年にグレンフィディックウイスキーは、シングルモルトとして世に出たが、当時は複数の蒸留所のモルトウイスキーを中心にブレンドしたものだった。これを、1963年に世界で初めて単一の蒸留所で造ったモルトウイスキーだけで発売し、世界に広まることとなった。
現在は世界180か国で発売され、そのシェアはモルトウイスキーの中で最も高く、世界で最も飲まれているシングルモルトウイスキーなのだ。
グレンフィディックのウイスキーは、華やかな香りで軽く爽やか、フルティーな口当たり、あとに残らないドライ感がある。
ゲール語で「グレン」とは谷、「フィディツク」とは蒸留所の近くを流れるフィディツク川の事で、鹿という意味。訳せば「鹿の川の谷」という意味だろうか。
創業者のウィリアム・グラントが1887年当時に集めた中古のポットスチルで蒸留を開始。現在は、小型のボール型、ランタン型、ストレート型を使っており、ヘビー なものからライトな酒質のものまで対応できるのが人気の秘密だろう。
見学ツアーも実施されていて、観光用の施設も充実しているので十分に楽しめる。
麦汁を発酵させるウォッシュバック(発酵槽)。
加える酵母は一種類から数種類まで、蒸留所によってさまざま。通常2日~4日間でウォッシュ(もろみ)になる。
シェリー樽の香りただよう蒸留所『ザ・マッカラン』(The Macallan Estate)
著名なウイスキー評論家も”究極のバランスを備えたスコッチだ”と絶賛したウイスキー「ザ・マッカラン」。スペイサイドで最小といわれるポットスチルで蒸留された原酒は、上質なものだけを採取。それをシェリーのドライ・オロロソの貯蔵用に使われた樽で熟成させる。此の樽の中で何年も熟成させられるうちに原酒はシェリーと相まって、甘やかな香り、複雑な味わいを積み重ねていく。
ザ・マッカラン蒸留所では、ウイスキーの熟成用に自前でシェリー樽を用意している。その樽は、そのまま使われず、いったん他の醸造所に貸し、返却された樽を使用してウイスキーを造っている。その手間のおかげで、果実の濃厚で複雑な香りと、チョコレートのような甘み、ピューティーな土の風味をかすかに含む、まさに風格のあるスコッチウイスキーができあがる。
ザ・マッカラン醸造所の小型で可愛いポットスチルが21台並んでいた。ザ・マッカランのクリーミーさはその短く膨らんだスチルのおかげである。ポットスチルで蒸留した酒はシェリー樽の中で何年も寝かされて琥珀色の液体に仕上がっていく。
ウオッシュバック(発酵槽)で発酵中は、30℃前後まで温度が上がり泡立ってくる。その泡を槽のプロペラで切る。
ザ・マッカランの象徴で、ボトルのラベルにも印刷されている「イースターエルキーハウス」。1700年に建てられ、現在はマッカラン蒸留所を訪れる人々のゲストハウスとして使われている。
ザ・マッカランの語源がいくつかあるが、その一つにゲール語で”聖コロンバの丘”の意味だといわれている。スペイペイサイドの穏やかな丘陵地帯にたたずむ蒸留所は工場というより邸宅のようだ。
スペイサイドの町
エジンバラから4時間ほど車を走らせ、ようやくスペイ川が見えてくるあたりになると、道路標識にも「ウイスキー蒸留所」の文字が目につくようになる。
スペイサイドでは毎年5月にウイスキー・フェスティバルが行われ世界中から訪れるファンのために宿泊施設が足りないほどになるそうだ。
スペイサイドの中心地に建つダフタウン時計塔は、フェスティバルのために壁にポットスチルの飾りつけがあった。
グレンフィディック蒸留所は、この小さなダフタウンの町にある。
その街を歩いていると、『ウイスキーミュージアム』を見かけた。ミュージアムといっても、ウイスキーを販売し試飲できる程度のお店だった。それでもウイスキーファンが集まり美味しそうに談笑していた。
スペイサイドにはウイスキーの樽に火入れをする専門工場がある。樽の内部に火入(チャー)する樽職人、熟成のための香味成分が生成される。見ていると次々に火入れを行っていた。
ハイランドの町『ピットロホリー』
スコットランド最少の蒸留所『エドラダワー』(edradouer)
エドラダワー蒸留所、1825年創業のスコットランドで1番小さな蒸留所と言われている。エドラダワー蒸留所は、ピットホリーの町のはずれにある。白い小さな建物が小川の横に立ち、こぢんまりとした蒸留所である。蒸留所の中は背丈より小さなポットスチルが2つあるだけで、いかにも手作りの蒸溜所という感じ。小規模、少量生産の蒸留所である。
漱石の足跡が残る『ダンダラックホテル』
ピットロッホリーにある小さなホテル『ダンダラックホテル』は漱石がロンドンの生活に疲れ帰国寸前の1902年の秋,静養のために訪れた館であった。
漱石はピットロッホリーの滞在がよほど気に入ったらしく、この時の印象を「ピットロッホリー谷は秋の真下にある」という書き出しで始まる美しい作品に書いている。
「永日小品」の一編「昔」という短い文章がそれだ。
スコッチウイスキーの6つの産地のひとつ、スペイサイドを今回ご紹介した。
もちろん、冒頭でお伝えしたように約50もの蒸留所があり、今回ご紹介の旅ではその中のほんの一部しかまわることができなかった。
スコッチウイスキー、シングルモルトウイスキー好きにはぜひとも訪れて、ゆっくりと蒸留所をめぐっていただきたい地方だ。
今回の旅で使用した機材: Canon EOS 5D MarkII