イギリス映画談
~お見合いか、恋愛かって…『きっと、それは愛じゃない』~

2023年12月15日公開

映画『きっと、それは愛じゃない』ポスター
©2022 STUDIOCANAL SAS. ALL RIGHTS RESERVED

半世紀近く前の結婚観?

お見合いですか、恋愛ですか?って、まるでかなり前の”新婚さんいらっしゃい”の最初の質問のような問いかけ。この問いかけ自体が日本特有のものとなんとなく思ってきたのだが…。

かつてお見合い結婚が多かった時代もあった日本。男女交際の機会が少なく、それを補うようにお見合という形が多く利用されていた。子供たちが結婚適齢期になると、親は子供たちの相手を見つけるために、周りの人に”誰か良い人はいない?”と声をかけると、お見合が始動するのだった。親がそれほど熱心でなくても、その周りの世間には人を結びつけるのに熱心なおばさんなんかがいて、結婚適齢者がいる家には何となくお見合写真が持ち込まれるというシステムが出来上がっていたのである。そこには、ふたりを結びつける第三者がいた。考えてみれば、なかなかに便利なシステムともいえる。
最近ではマッチングアプリなども利用が進んでいる中、むしろ人間的接触からなるお見合システムの方が良いという場合もあるようだ。

今回の映画では、イギリスが舞台なのに初めからお見合い結婚の話が出てくるのでちょっと驚く。

イギリスのパキスタン人

映画『きっと、それは愛じゃない』のシーン、結婚相談所に出かけたカズとその両親
ロンドンのパキスタン人の結婚相談所に出かけたカズと両親
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かつて大英帝国として世界に君臨していた英国には、その植民地などから今もって多くの人たちがやってくるようだ。かつてイギリスには美味しいものがないと言われていた頃も、中華料理とともにインド料理は食べられると言われていた。正に植民地だったインドから正しいインド料理が持ち込まれたことの現れだったのだ。
主に宗教的な理由からイスラム教徒がインドから1947年に独立した国がパキスタンである。現在の人口は2億2200万人で世界第6位となっている。第二次世界大戦終了後、イギリスは1948年に旧植民地である英連邦諸国に住む人に、英国の市民権を与える国籍法を制定した。これによってパキスタンからの移民も増大した。今では移民人口でインド、ポーランドに次ぐ第3位になっている。だから、パキスタン人がイギリス映画に出てきても何の不思議もないと言える。

2020年7月に日本公開された「カセットテープ・ダイアリーズ」は、1980年代後半の英国に暮らすパキスタン移民の男子高校生が主人公。ブルース・スプリングスティーンに夢中になるも、そんな音楽を認めない父親。主人公の論文がコンクールで入賞、アメリカの大学のセミナーに招待されるが、許さない父は息子を勘当してしまう…。厳格なイスラム教徒の父親と、イギリス人として生きる息子の関係が描かれていた。

今回の映画でお見合い結婚を選ぶのはパキスタン人男性の主人公、カズである。

それって愛と関係あるの?

映画『きっと、それは愛じゃない』のシーン、主人公のゾーイとカズ
ゾーイとカズは隣同士の幼馴染
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映画の女性主人公はドキュメンタリー映画作家のゾーイ、今までに2本ほど作品を作っていて結構高評価を得ていたようだ。カズとは隣同士の家で子供の頃から仲良く過ごしてきた幼馴染だ。ドキュメンタリーの題材を探していたゾーイが、久しぶりに会ったカズと話していると、彼がお見合い結婚をするというので、それは変じゃない?とその過程を撮影して作品を作ることにするところから始まる映画だ。

ドキュメンタリーを撮り始めたゾーイとカズ
ドキュメンタリーを撮り始めたゾーイとカズ
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カズの家は結構裕福で、両親はパキスタンの良家の娘との結婚を勧めてくる。お見合い結婚は相手の情報も初めからある程度分かり、自分と合うかどうか判断しやすい。恋愛は結婚してから時間をかけてすればいいと言うカズ。親の勧めに従ってオンラインでお見合して結婚を決めたカズは、親と一緒に結婚式のためパキスタンのラホールに出かけていく。それを撮影するために、勿論ゾーイもパキスタンへ。この結婚は愛と関係あるの?と思いながら。

ラホールの結婚式でカメラを構えるゾーイ
ラホールの結婚式でカップルを撮るゾーイ
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『きっと、それは愛じゃない』という映画

なんだか初めから結論が出ているような気もしますが…。
この映画を作ったのは、脚本が女性のジェマイマ・カーン、監督が男性のシェカール・カプール。

コートに身を包み、テムズ川の橋を歩くゾーイ
夜、物思いにふけりながらテムズ川に架かる橋を歩くゾーイ
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ジェマイマはロンドン生まれのイギリス人で、21歳の時パキスタン人のイムラン・カーン(当時有名なクリケット選手、後に政治家となった前パキスタン首相)と結婚、後に離婚しているが、10年ほどラホールとイスラマバードに住んだ経験を活かし、今回の脚本を書いたという。彼女の脚本家としてのデビューとなる。
シェカール・カプールは1945年当時まだインドだったラホールに生まれ、国際的に活躍している監督・俳優である。監督作品には「エリザベス」「サハラに舞う羽根」などがあり、カンヌ、ヴェネチア、東京の国際映画祭で審査員を務めたことがある。
ゾーイを演じているのはリリー・ジェームズ、「シンデレラ」「マンマ・ミーア ヒア・ウィー・ゴー」等に出演している。

結婚式で笑顔のゾーイとキャス親子
隣の家の次男の結婚式に出かけたゾーイと母親キャス
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カズを演じるのはシャザド・ラティフ、ロンドン生まれの35歳、パキスタンとイングランド、スコットランドの血を引くイギリス人。主にテレビシリーズで活躍してきた。
ゾーイの母親、キャスを演じるのはエマ・トンプソン、「ハワーズ・エンド」で米アカデミー賞主演女優賞を、「いつか晴れた日に」では同脚色賞を受賞している多彩な女優・脚本家。2018年には大英帝国勲章第2位DBEを叙勲し、Dame(デイム)の称号を冠されているが、この映画では最も跳びはねた役を演じている。

結婚式を挙げ、笑顔のカズとマイムーナ
パキスタンのラホールでカズとマイムーナの結婚式
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パキスタンではお見合が主流なんだろうか?同じアジア圏に住む者として、ちょっと懐かしさを感じながら、楽しみました。

『きっと、それは愛じゃない』公式サイトhttps://wl-movie.jp/

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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