イギリス映画談
~イギリスゆかりの二人 9月封切り映画2作品~
イギリスゆかりの二人の著名人
2人の著名人が関係するイギリス舞台の映画2作品が9月に公開される。
一人は哲学者でもあり経済学者でもある『資本論』の執筆者、カール・マルクス。
マルクスはドイツの人では?
そう、確かに彼はプロセイン王国(現在のドイツ北部からポーランド西部)生まれだが、31~64歳の後半生はイギリスに住んでおり、64年の生涯の半分以上をロンドンで過ごした。「資本論」をはじめ多くの書籍を表したのもこの時期だった。
もう一人は1899年生まれのイギリスの著名人、ノエル・カワード。この人ほど才人と呼ぶにふさわしい人はいないのでは?何しろ彼は戯曲家・脚本家・俳優・作家・演出家・作曲家・歌手・映画監督と呼ばれ、しかもそれぞれの分野で一流の作品を残している。
第二次世界大戦時、彼が戦争反対の声をあげ批判された時、知り合いでもあったチャーチルは”あんなやつ、戦場に行っても役に立たない。一人ぐらい恋だ、愛だと歌っているヤツがいてもいい”と弁護したというのも有名な話。
今回は、このイギリスに関係した著名人二人が関係する映画、2作品を紹介する。
カール・マルクスの末娘、エリノアの半生を描いた映画『ミス・マルクス』
9月4日封切り
「資本論」のカール・マルクスはプロイセン王国出身だが、1849年8月にはイギリスに入国、人生の後半をロンドンで生活している。「資本論」の刊行は1866年ハンブルクの出版社からドイツ語で行われたが、その英語版を刊行したのが、彼の末娘エリノア・マルクスだった。彼女は1855年にロンドンで生まれている。
彼女を主人公にしたこの映画は、カール・マルクスの墓地での埋葬式から始まる。1883年のことだ。父と母の思い出を語った彼女は、葬式に出席していた劇作家エドワード・エイヴリングに彼女の方から声をかける。その後、終生続く彼との関係がこうして始まる。
この映画は理性的でフェミニストでもあった彼女の生き方を描く。彼女は父や周りの人々(エンゲルスなど)の影響も受け社会主義者であり、女性の地位向上にも尽くすが、一方では妻帯者でもあったエドワードの女性関係に悩みながらも許してしまうのだった。こうした矛盾ある生き方が、現代にも通じるという観点から映画は作られている。
この作品は実はイギリス映画ではなく、イタリア・ベルギーの合作で作られた。俳優陣はほぼイギリス人で、ほとんどイギリスで撮影された英語での映画ではある。
驚くのはその音楽で、舞台背景とは異質のパンクロックが使われていることである。イタリア人女性監督スザンナ・ニッキャレッリは、アメリカのダウンタウン・ボーイズを、素晴らしくエネルギーにあふれていて、この物語に最適だとして採用を決めている。映画のポスターに使われている主人公の髪を振り乱した姿は、正にパンクロックに反応する若い女性そのもの。19世紀後半の物語にパンクロックをぶつけ、主人公の前に進む姿を応援したかったようである。何度も聞こえてくるインターナショナルは、登場人物が歌うのに加えダウンタウン・ボーイズが再解釈した曲も使われている。
19世紀の町、人々の服装を含め時代考証はきちんとされ、当時のロンドンを見せてくれるが、そこに響くパンクの音は見ている人の意識を覚醒させるようだ。
『ミス・マルクス』予告編
『ミス・マルクス』 公開情報
9月4日(土)よりシアター・イメージフォーラム、新宿シネマカリテほか全国順次公開
公式サイトは、こちらより
元妻の幽霊+新しい妻『ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません!』
9月10日封切り
ノエル・カワードが活躍したのは1920~40年代である。多くの分野で活躍した彼は、ファッションでも時代のリーダーだったらしい。首にスカーフを巻いたのも、タートルネックセーターを着たのも彼が初めてという。彼が送り出してきた作品の多くは、ウィットに富んだ、皮肉で時に辛辣な、しかし、しゃれた喜劇だった。
この映画はノエル・カワードの戯曲「陽気な幽霊」を原案としている。発表されたのは1941年、その時舞台は2000回上演(毎日1回上演でも5年以上かかります)されたという。この名作は日本でも何回か上演されていて、今世紀に入っても複数の舞台が作られている。1945年にはデヴィッド・リーン監督によって映画化、日本には1951年に「陽気な幽霊」の題名で公開されている。ちなみにリーン監督は同じ1945年にもう1本ノエル・カワード原作の戯曲から映画を作っている。「逢びき」、中年男女の道ならぬ恋と別れを描いた恋愛映画の傑作だ。喜劇と悲劇、ノエル・カワードの描く作品の幅の広さを思わせる。
今回の映画では、「ダウントン・アビー」のスタッフ&キャストと映画『007』シリーズの7作品でMを演じていたイギリス演劇・映画界の重鎮ジュディ・デンチ(霊媒師役)のコラボレーションが実現している。
時代は1937年、主人公は小説15冊を書いたというベストセラー作家のチャールズ・コンドマイン、7年前に事故で妻を亡くし、5年前に映画界の大物の娘ルースと再婚している。しかし最近はスランプ続き、義父からの依頼で自身の最初の小説から映画用脚本を書こうとしている。が、しかし、タイプの前で1文字も打つことができない。ある夕、友人の医師夫婦と誘い合わせ霊媒師マダム・アルカティのショーに出かける。マダムのインチキぶりに遭遇するが、チャールズは彼女に自宅での降霊会を依頼する。その場ではマダムが失神してしまうという事件となり、結局霊は降りてこずに終了する。そして、その深夜、チャールズのもとに前妻エルヴィラがやってくる。
ここから、ベストセラー作家のチャールズとその元妻で幽霊のエルヴィラ、新しい妻のルースに、謎の霊媒師マダム・アルカティも絡んでのてんやわんやの騒動が繰り広げられる。
今回の新作では、映画ファンには嬉しい変更がある。ルースの父親が映画関係者という設定にしている。コンデマイン夫妻がイギリスのパインウッド撮影所に義父を訪ねると、ヒッチコックが新作を撮影していたり、今書こうとしている脚本がハリウッドでのグレタ・ガルボとクラーク・ゲーブルの共演作用だったりするのだ。
確かにヒッチコックは1937年に「第三逃亡者(Young and Innocent)」という作品を発表しているが、ガルボとゲーブルの共演作は1931年の「スザン・レノックス」だけなので、これは創作かもしれない。
シリアスな人生劇より、洗練された喜劇を目指したノエル・カワードの本領が発揮されたおもしろい作品、どうぞお楽しみあれ。
『ブライズ・スピリット』予告編
『ブライズ・スピリット』公開情報
9/10(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
公式サイトは、こちらから
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