英国ドラマ『ダウントン・アビー』の撮影にも使われたコッツウォルズの“スワン・イン”

コッツウォルズ、スウィンブルック村の”スワン・イン”(The Swan Inn Swinbrook)

コッツウォルズで観光地ともなっているバーフォードの陰にひっそりと佇ずむスウィンブルックの村。2011年の人口調査では村の人口は139人でした。
スウィンブルックのブルックとは小さな小川を意味します。その名が示す通り、村にはウィンドラッシュという川が流れていますが、川のほとりにあるパブ兼ホテルが今回ご紹介するスワン・イン(インとは旅籠の意)です。ここは食事が気に入っていて過去に何度か訪れましたが、泊まるのは今回が初めてです。建物の壁を覆う藤の花が歓迎してくれました。

スワン・インの外観
パブの入り口に咲く藤の花

外観は典型的な田舎のパブですが、近年の改装により、中はモダンになって、今では旅籠と言うよりはスタイリッシュなホテルの雰囲気です。

今回泊まった部屋は、庭の先にある離れでした。家具は最小限必要なものだけでしたが、最近はシャワーのみという部屋が多くなっている中、ここはバスタブもあり1~2泊の滞在には最適な部屋でゆっくり休むことができました。

スタイリッシュな内装に改装された離れの部屋の内部
今回宿泊した離れのお部屋

テレビドラマ『ダウントン・アビー』の撮影地

そんな人里離れた村にあるスワン・インが一躍有名になったのは、20世紀初頭を舞台に、ある伯爵とその家族にまつわるテレビドラマ『ダウントン・アビー』の撮影が行われてからでしょう。

テレビドラマ『ダウントン・アビー』出演者が瀬尾沿いのポスター
ダウントン・アビー
©Nick Briggs・Carnival Film and Television Limited
スワン・イン前での夜の『ダウントンアビー』撮影現場
スワン・イン前での『ダウントン・アビー』撮影シーン

ドラマの中ではグランサム伯爵の3女で末娘のスィビルがグランサム家のお抱え運転手トムと駆け落ちし、スコットランドに向かう途中で泊まったホテルとして描かれています。そこにスィビルの姉のメアリーとイディスが二人に思いとどまるよう説得にやってきます。

駆け落ちするスィビルとトム

スワン・インの建物は11代目デヴォンシャー公爵夫人(後述するミットフォート6姉妹の六女)が所有していたのですが、ダウントン・アビーのことが頭にあるせいもあり、このパブが何となく大衆的なパブと言うよりは貴族との関りの濃いイメージがあります。

周辺散策で見つけた思いがけない発見が…

夕食まで少し時間があったので、村の散歩にでかけることにしました。コッツウォルズの他の場所と同じく、ここにもウォーキングをする人のためのパブリック・フットパスの標識があちこちに見られます。

ホテル周辺の散策で見つけたフットパスの標識
散策で目にしたフットパスの標識

ホテルから5分くらい歩いたところにあるのが12世紀に建てられた聖メアリー教会です。私は、特に田舎の教会を訪れるのが好きで、普段は機会があると例え5分でも中を見学します。

小さな村に建つ聖メアリー教会の外観
聖メアリー教会
聖メアリー教会の内部
聖メアリー教会の教会内部

そして今回は思いがけない発見がありました。ミットフォード姉妹のお墓を発見したのです。

教会の墓地に建つミットフォード姉妹の墓石
教会の墓地には6人姉妹のうち4人が眠っている

ドラマティックな人生のミットフォード6姉妹

ミットフォード姉妹とは、1930~40年代を波乱万丈に生き抜いたリズデイル男爵ことMitford家の6人姉妹のことです。

ミットフォード6人姉妹の写真
ミットフォードの美しい6人姉妹

有名な作家であった長女のナンシー、ファッシストで第二次大戦中は夫婦で牢獄生活を送った三女のダイアナ、やはりファッシストでヒトラーと親しかった四女のユニティはドイツとの戦争が始まってまもなく自殺未遂をしました。そして五女のジェスィカは共産主義でアメリカに移住した後、人種差別解消などのための活動をし、六女のデボラはデヴォンシャー公爵夫人となります。二女のパメラだけが田舎で比較的普通の人生を送ります。
起こり得ないようなことが次々に起こるダウントン・アビーですが、ミットフォード姉妹の実話を知れば、ダウントン・アビーの内容がちょっと陰に隠れてしまいそうです。

六女デボラが所有したスワン・イン

このミットフォード姉妹はバッツフォード・ハウスで育ちますが(現在のバッツフォード植林園のある場所に立つ邸宅)、金銭的理由から、スウィンブルックの村に越してきました。(彼女たちが住んだ家はこの教会の近くにありますが、一般公開はされていません)ですからスワン・インの建物がミットフォード家の六女でデヴォンシャー公爵と結婚したデボラの所有であったことも理解できます。

評価の高いスワン・インのレストラン

イギリスのレストランの評価を表すバラのマーク「ロゼット(AA Hotel and Hospitality Service)」を2個持っているレストランの食事は十分に満足できるものでした。(ロゼットが3個の場合はミシュランの星一つに匹敵すると言われる。)

スープ皿に盛られたガスパッチョの冷たいスープ
ガスパッチョの冷たいスープ
ロースト・カリフラワーとレンズ豆の温サラダ
カレー風味のロースト・カリフラワーとレンズ豆の温サラダ

さて予約の際にヴィーガンの朝食メニューがあるかどうかを聞いてみました。答えは「特にヴィーガンのメニューはありませんが、ちゃんと対応しますのでご心配なく」と約束してくれたものの、スタッフも朝は変わっていることだし・・・・と半信半疑。

そして翌朝。

テーブルの上に置かれたティーポットとミルクジャー、カップアンドソーサー
庭に面したレストラン

セルフサービスのシリアルにはアーモンドミルクか豆乳を選ぶことが出来ました。

セルフサービスの朝食会場に並べられたトーストやジャム、フルーツ
こちらはトーストを焼くことを含め、全てセルフサービス

そしてイングリッシュ・ブレックファストの代わりに作ってくださったのが完ぺきに植物ベースで作られた料理です。

お皿に並ぶトマトなど野菜で作られたヴィーガンブレックファースト
ヴィーガン・ブレックファスト

出発の朝におきたハプニング

ここで思いがけないハプニングに出会いました。生まれて初めて鶏に襲われたのです!
庭ではランチやディナーを取ることが可能ですが、朝は誰もいません。スタッフの一人がドアを開け、私たちが食べるシリアルを蒔きだしたところ、ものすごいスピードで鶏が走ってきました。この鶏たちはホテルのペットで、夜は檻の中で過ごすのですが、食事をするお客が来る前は庭で放し飼いです。

レストラン外に集まってきた鶏
朝ごはんにやって来た鶏たち

気持ちの良い朝でしたので、私も庭に出て、鶏たちと話をしていました。ボスのように大きな鶏は私の方に寄ってきますし、親近感が湧いて色々話してかけていました。
そしてしばらくして部屋に戻ろうと歩きかけたとたん、後ろからバサッと襲われたのです。あまりに咄嗟のことで驚いたのですが、「もしかしたら私が怪しいものと勘違いしているかも?」と思い、犬に対するように手の甲を上にして近づいた途端、今度は顔に襲い掛かってきました。

襲ってきた大きなボスの鶏
私を襲った鶏

後で考えてみて出した結論は、この大きな鶏は、ここのボスで、家族を守るために私を襲ったということです。そうですよね、知らない人に近寄られたら人間だって躊躇します。

因みに、ここは2014年にはキャメロン元英国首相が、当時のフランス大統領であったオランド元大統領をランチに誘ったパブでもあります。

ランチでパブへ入るキャメロン元首相とオランド元フランス大統領
キャメロン元首相とオランド元フランス大統領

ミットフォード姉妹のお墓を発見したり、鶏に襲われたり・・・・たった一泊の滞在の中で忘れられない思い出を作ってくれたスワン・イン。改装の結果、昔の伝統的な旅籠の雰囲気が薄れてしまって、ちょっと残念ではありますが、食事もサービスも満足できるホテルで、早速私のお気に入りのホテルの仲間入りしました。

The Swan Inn Swinbrook
公式サイト:https://www.theswanswinbrook.co.uk/

木島タイヴァース由美子

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1977年英国政府観光ガイド資格であるブルーバッジを取得。以来、現在にいたるまでイギリス全土にわたって旅行者を案内。2015年にカルチャーツーリズムUKを立...

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