Discovering English Wine 【英国におけるワインの歴史編】

英国でワインが作られる様になったのはいつから?
今回は英国でのワイン作りの歴史を皆様にお届けいたします。

ディオニューソス ギリシャ神話に登場する豊穣とブドウ酒と酩酊の神

キリスト教とワイン作り

イングランドでのブドウ栽培におけるワインの歴史は古く、はるか昔ローマ時代まで遡ります。
そして『ワイン飲用の歴史』となりますと、もっと古い時代に遡ると考えられています。

ローマ時代末期にキリスト教が広まると共に「宗教儀式」に自家製ワインや輸入ワインが使われるようになりました。
しかしながら、紀元前四世紀後半のローマ人の撤退や、キリスト教の宗教的中心地がヴァイキングによって攻撃されたりしたことなどで、一時はブドウ栽培にも影響は出たものの、9世紀後半にキリスト教が復活したことで、イングランド南部の修道院でブドウの栽培とワイン醸造が再び行われるようになりました。

栽培の需要と衰退

中世の時代に暖かな気候に恵まれたMedieval Warm Period (MWP) と呼ばれる温暖期(9~13世紀)があった時期が知られていますが、
1086年に完成した世界初の土地台帳、『ドゥームズデイ・ブック(Domesday Book)』には
イングランド(特に南東部と中南部、East Angliaイングランド東部)に42のブドウ畑が存在した事が記載されています。
記載されていたブドウ畑の内1/3 は修道院、その他は貴族の所有地に属していたそうです。

Domesday Bookのページ一部

また、1152年にヘンリー二世がフランス王ルイ7世の妻であったアキテーヌのエレノアと結婚したことで、フランス、ボルドー地方のブドウ畑は1453年までイングランド王室下に置かれました。
その時代にはワイン需要の高まりも背景にあったことから、ワインの輸入が大幅に増加したことも知られています。

当時の主要ワイン産地であったBordeauxグラーヴ地区のブドウ畑

イングランド国内でのブドウ栽培のワイン生産よりも、ワイン輸入が増えていく傾向があった事も影響があったのでしょうが、1340年代と1350年代には特に気温が低い時期が続いたり(小氷期:14世紀半ばから19世紀半ば)気候変化によるカビ病の発生、そして1348年の黒死病などの社会的・経済的問題、更に1536年からの修道院解散による主教施設のブドウ栽培の放棄など等も重なり、国内でのブドウ栽培及びワイン作りの衰退が加速していく時代を迎えます。

エリザベス1世と廷臣らの彫刻

17世紀以降

この様な状況が背景にはありましたが、全てのブドウ畑が無くなったわけではなく、17世紀以降にもイングランド内のブドウ栽培やブドウ畑の記録がいくつか残っています。

  • ジェームス一世の時代には(1603年~1625年)サリー州Weybridge近くのOaklands Parkにブドウ畑を所有していました。
  • ロバート・セシルRobert Cecil, 1st Earl of Salisbury初代ソールズベリー伯は、彼のハットフィールド所有地(日本の方々にも観光地として馴染みがあるHatfield Houseがある場所です)に「一万本」のブドウの木がフランス王妃(マリー・ド・メディシス( Marie de M?dicis)から贈与され、1611年に合計三万本のブドウの木が植えられました。
    (残念ながらワインが生産された記録は残っていません)
ハットフィールドハウス
広大なパークの一角に昔はブドウ畑がありました
  • サリー州のPainshill Place ペインシル・プレイスでは、1740年、チャールズ・ハミルトン(Charles Hamilton)によってブドウ畑が作られ19世紀後半に生産を中止するまでブドウを作っていましたが、現在また新たにブドウ畑が作られ、ここで栽培されたブドウから作られたワインも販売されています。
広大な土地の一角に1990年代にトラストによって修復された葡萄畑がある
Painshill Placeのブドウ
ここのブドウ畑で収穫したワインも販売中

第2次世界大戦の終結後のイングランドとウェールズにおけるブドウ栽培の復興~パイオニア達

この様にイングランドにおけるワインの栽培は長い間衰退を見せていましたが、第二次世界大戦が終焉した後、再びこの地で育つブドウからワインを生産しようと試みたパイオニア達が現れます。

  • レイ・バリントン・ブロック Ray Barrington Brock 1907-1999
    1946年、サリー州オクステッドに自費でブドウ栽培研究所を設立。
    イギリスの気候に適した品種を見つけるため、ブドウ品種の科学的調査を開始。ヨーロッパやアメリカの様々な地域から入手したブドウの木や挿し木を使い、600種類のテーブルブドウやワイン用ブドウの品種を試す。
葡萄とワインのリサーチ本イメージはAmazonより拝借
  • エドワード・ハイアムズEDWARD HYAMS 1910-1975:
    庭師、園芸家、歴史家、小説家、作家 1960年にブドウ栽培を再興するため南デヴォンに移り住む
    「The Grape Vine in England」を出版。
  • George Ordish ジョージ・オルディッシュ
    Wine growing in England, The Great Wine Blight などワインやブドウ栽培に関する著書を出版。
    その他にも数々のパイオニア達がブドウ栽培の復興に力を注いでいます。

商業ワイン作りへ

そんな中、商業ワインを作り出そうという試みが始められました。

戦後の「商業ワイン作り」のパイオニアの一人といえば、イングランド最古の商業ブドウ畑を作った『Hambledon Vineyard』ハンブルドン・ヴィンヤードのSir Guy Salisbury Jonesガイ・ソールズベリー・ジョーンズ少佐があげられます。

イングランド最古の商業ブドウ畑を作った『Hambledon Vineyard』

熱心なワイン愛好家で外交官としての経歴もあるガイ少佐は、彼の South Downs サウス・ダウンズ地区のHAMBLEDON ハンブルドンにある家を囲む、南向きの石灰質の斜面にブドウの木を植えることが可能か?慎重に検討し始め、有名なシャンパーニュ・メゾン、Pol Rogerポル・ロジェの友人たちの助けや助言を得て、1952年にさまざまなブドウ品種を植えます。

彼の生み出したブドウ畑は実に英国で約20年ぶりの商業用ブドウ畑となり、今現在も素晴らしいワインを生産しています。日本にも輸入されていますので機会があれば是非試してみてください。

Hambledon Vineyard のHP
https://hambledonvineyard.co.uk/pages/since-1952
OUR HERITAGEの頁には1961年のブドウの収穫の動画も紹介されています。

1960年~1970年代

この様に1960年代から1970年代にかけて、イングランド・ウェールズではブドウ畑の新設が加速していきます。

Biddendenで生まれたワイン達

ケント州にあるBiddenden Vineyards ビデンデン・ヴィンヤードもその時代に生まれたブドウ畑の一つです。リンゴ農家であったリチャード・バーンズ が1969年に3分の1エーカーをブドウ畑にしたとこからワイン栽培の歴史が始まりました。
現在もバーンズファミリーによってワインやサイダー(リンゴ酒)などが生産されています。

リンゴから作られたサイダー達も人気である

ワイン栽培の関心と人気は年々高まり1985年には300以上の畑で500ヘクタールに達し、2024年の現在ではなんとブドウ畑の総面積は「4,209ヘクタール」まで成長しています。

商業用のブドウ畑は今現在も増え続けていますし、同時にワイナリーの数も年々増えています。
(イングリッシュワインの現状のページもhttps://ukwalker.jp/gourmet/10782/ 是非ご参考ください)

21世紀からのイングリッシュワインの歴史がどの様に刻まれるのか?
楽しみですね。

【参考文献】

An Overview of the Fluctuating Fortunes of Viticulture in England and Wales

大島理恵子

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英国サリー州在住 英国メディカルハーバリスト/アロマセラピスト/リフレクソロジスト 1994年英国に移住。 ロンドン市内のセラピールーム及び癌センターで施術...

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