イギリス映画談 ~欲張りさん(グリード)とピーターラビット~
この表題では、ピーターラビットが欲張りさんを“とっちめる”のを期待される方もいるでしょうが、6月に封切りされる2本のイギリス映画をそれぞれにご紹介します。
グリード ファストファッション帝国の真実
6月18日封切り
主人公はイギリスのファストファッション(早くて安いではなく、流行(はやり)で安い)帝国の帝王で、還暦の誕生パーティをギリシャ・ミコノス島で派手にやろうとしている。何せ、ローマ帝国風に「グラディエーター」の闘技場を作り、そこにライオンまで投入しようというのだから驚く。ここまでやるとはっきり言って悪趣味という領域です。まあ主人公のこの男にとっては、こんなことは当たり前なんでしょう。もっとも、闘技場の工事はギリシャ人の親方とブルガリアからの労働者との意思疎通が難しく、遅れに遅れているのだが。
ファストファッションは流行を取り入れた安いファッションと言えばいいか。アジアの安い人件費を使って、さらに過重労働をさせてしまえば”安い”が実現できる。最後の決め手は零細業者を上から目線で値切ること。その交渉方は、ほぼお笑いだ。相手のことを考えず自分の主張だけを繰り返す、それだけ。
この主人公、リチャード・マクリディは時に”リチャード・グリーディ(強欲な)・マクリディ”と呼ばれるほど強欲。題名のグリード(欲張り)はここから来ているというか、主人公そのもの。実はこの主人公にはモデルがいて、イギリスのファストファッション王フィリップ・グリーン卿だという。ただ、物語自体は完全にオリジナルで、監督でもあるマイケル・ウィンターボトムが書いた脚本によるもの。
この主人公を演じるのはイギリスのスター、スティーヴ・クーガンだ。彼は主人公を演じるために日焼けは勿論だが、それ以上に歯の白さを強調するため義歯まで用意したという。その白さにはやりすぎ感があり、この人物のフェイクらしさを感じさせる。いってみれば、間に合わせ仕事で作られた闘技場での闘いのような、本物ではない人物が作られている。ここまで共感できない主人公というのは珍しい。
こんなトンデモ人物を主人公にした映画だが、全体を見てみると彼を生み出してしまう社会・時代・世界に思いがいく。今年還暦を迎えたウィンターボトム監督は2020年までの26年間に31本の作品を送り出している。社会派作品から恋愛ドラマ、SF作品からドキュメンタリーと作品の幅は広く、かなり多作な監督と言える。最近ではスティーヴ・クーガンとコメディアンのロブ・ブライドンの二人が旅する「~が呼んでいる」シリーズを作っていて、今までにイタリアとスペインが作られ、ギリシャが公開を控えている。
この映画、グリードの最後に、急にまるでテレビのドキュメンタリーのように様々な統計数字が映像とともにかなりのスピードで表示される。
スリランカ、バングラディッシュ、ミャンマーの工場で働く女性の賃金水準とか、租税回避地にある個人の保有資産は推定30兆ドル以上とか、地中海を渡ろうとして死亡した人の数は推定17,000人以上とか、世界で最も裕福な26人が保有する資産は貧困層38億人の資産合計と同額とかのデータが画面とともに現れる。
ウィンターボトムは基本的には社会派だったよなと再認識させてくれる。
ピーターラビット2/バーナバスの誘惑
6月25日封切り
3年前に「ピーターラビット」の初の実写映画化作品が公開された時、大きな衝撃が走った。それまで原作者ビアトリクス・ポターの絵に慣れ親しんでいた多くの人にとって、登場したピーターラビットやその仲間・動物たちのCGは余りに生々しかったのだ。
日本ではキューピーマヨネーズや三菱信託銀行などのイメージキャラクターに使われてきたピーターラビット。ポターの原画が持つ自然の中で暮らすピーター達の優しく楽しげな感じが日本人に愛されたのだろう。そのイメージからするとかなりかけ離れていたのが3年前のピーターラビットだった。結構乱暴で、絵的に見ても可愛くはない印象だったのだから。
今回の続編は、ピーター達を可愛がり親切にしてくれたビアがついにトーマス・マグレガーと結婚するところからはじまる。ジョー・マグレガー爺さんの甥のトーマス君、前作でハロッズを首になって湖水地方にやってきたこの人物はかなりの変わり者。彼が誰からも愛されるビアさんと恋仲になるのは、日本人の感覚からはちょっと許せない。何せ、ビアさんに隠れてピーターと闘っている訳だから。今回も彼がピーターにかけた言葉にピーターが反発してドラマが始まる。この人物配置といい、ピーターが可愛くはない絵柄と言い、その渋さはイギリス的かもしれない。
マグレガーに反発して、ピーターは一人湖水地方を離れ都会に行ってしまう。そこで出会ったのがバーナバスという大人のうさぎ。都会の知恵を身に付けた彼はピーターの父親を知っているようで色々助言をしてくれるのだった・・・。
ピーターラビットはビアトリクス・ポターが友人の息子にあてた絵手紙が原型という。1893年のこと。最初の絵本が出版されたのは1902年で、いずれにしても100年以上前の世界である。それを現代に移し替え作られたのが実写映画版のピーターラビットだ。現代と実写という2つの要素がピーターにスピードを与え、大きな衝撃となったのだが、それに慣れてしまえばワクワクドキドキ感が増したというのが今回の続編だ。
登場する女性画家のビアは当然ながらビアトリクスがモデルだろう。彼女がピーター達の絵を描き、物語を書いた本が出版されるというのが今回の物語でもある。彼女の本を出しましょうという出版社の若い社長が、いかにも現代のやり手という風情で登場。メディアミックスを仕掛けて映画化の話も出てきて、映画化に向けての検討会なんてエピソードも。この映画を作ることまでストーリーの中に取り込んでいる。
脚本を書き監督もしたウィル・グラックはニューヨーク出身。日本研究を専門とする歴史学者の母親の関係で、少年時代を度々日本で過ごし、上智大学にも1年間留学していたという。アメリカも日本も隠し味としてどこかに隠されているかも。ピーターが仲間との絆を大切にし、トーマスにも助けられという冒険型成長物語というあたりにそれが垣間見えるかもしれない。
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