イギリス映画談 ~子供たちを助けようとした人がいた『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』~

2024年6月21日公開

毎年ナチスに関連した映画が公開される。1945年第二次世界大戦が終戦となってから80年近くの時が経過しているのに、ナチスから逃れることができない。それくらい大きな出来事だったのである。
今年もナチス映画の1本がやってきた。

50年後の助けた女の子たちと会うニコラス
50年後の助けた女の子たちと会うニコラス
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

子供は未来

人間は無垢な赤ちゃんとして生まれ、大人になるまで様々な経験をして成長していく。無色透明だったところに、様々な経験が積み重なって、独自の形、色が作られていく。どんな人間になっていくのか、未来は未定だからこそ、周りの大人たちはその未来に期待を寄せる。子供は未来だ。

リバプール駅でユダヤ難民の女の子を迎える若いニコラス
リバプール駅でユダヤ難民の女の子を迎える若いニコラス
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

2022年にロシアがウクライナに侵攻した時、一万人以上の子供がロシアに連れ去られた。ロシアは自分たちの思想で子どもたちを洗脳しようとしたようだ。これには大変驚いた。子供たちは純粋無垢に生まれてくる。人間は10歳くらいになるまで育ててくれる人がいないと順調に成長できない。

先日「エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命」という映画を見た。19世紀中頃のイタリア・ボローニャが舞台のイタリア映画。ユダヤ人の家族の子供エドガルド・モルターラは7歳になろうという時、突然キリスト教皇領の警察に連れ去られてしまう。彼が赤ちゃんだったころ、ユダヤ教の両親の知らない間にキリスト教の洗礼を受けていたのだ。この映画は『エドガルド・モルターラ誘拐事件』という実話に基づいて作られている。その後、彼は教皇領から出ることはなく、成人してカトリックの司祭になったという。
子供は未来だからこそ、きちんと守らなければならない。ロシアのウクライナ侵攻や、映画「エドガルド・モルターラある少年の数奇な運命」は、子供の未来を守る大切さを教えてくれる。

ナチスから子供たちを守ったニコラス・ウィントン

リバプール駅で列車の到着を待つ若いニコラス
リバプール駅で列車の到着を待つ若いニコラス
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

1938年のクリスマスシーズン、ロンドンで株式仲買人をしていたニコラス・ウィントンはナチスがチェコスロバキアのズデーデン地方に侵攻しようとしているとの情報を耳にする。スキーに行くのを変更して彼はチェコスロバキアのプラハに出かけ、多くの子どもたちが難民キャンプに残されていることを知る。
彼は子供たちをイギリスに連れてくるために、子供たちの名簿を作成し、イギリス入国のためのビザ取得をし、列車でイギリスに送るための資金を集め、子供たちを受け入れてくれる里親を探しと、幾多の困難を乗り越えて救出作戦を実行していく。

母親と打ち合わせる若いニコラス
母親と打ち合わせる若いニコラス
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

この実話に基づいた映画が「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」である。

今までにもナチスのホロコーストからユダヤ人を救おうとした実話が数多く映画化されている。代表的なものには、ドイツ人実業家オスカー・シンドラーがポーランド系ユダヤ人1100以上を救った実話を描いたスティーヴン・スピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」、日本人外交官杉原千畝が日本通過ビザを独断の判断で発行し、約6000人のユダヤ人を救ったという実話の映画化「杉原千畝 スギハラチウネ」(チェリン・グラック監督)がある。

ニコラス・ウィントンは1909年生まれ、2015年に106歳で亡くなっている。今回の映画では、1938年のクリスマスシーズンに始まり、実際に救出作戦が開始された1939年3月14日から、1939年9月1日に第二次世界大戦が勃発し9月3日に予定していた最大の250名の列車救出作戦が不可能になるまでが描かれる。

イギリスへの列車に乗りプラハから出発する子どもたち
イギリスへの列車に乗りプラハから出発する子どもたち
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

8回の救出作戦で救えた子供は669名だったが、ウィンストンのリストには救い出すべき子どもたち6000名の名前があったという。

ニコラス・ウィントンを演じたアンソニー・ホプキンス

50年後、助けた多くの人たちが集まった場でのニコラス
50年後、助けた多くの人たちが集まった場でのニコラス
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

ウィントンがプラハに出かけてから50年後の1988年、ウィントンに救出した子供たちと会う機会がやってくる。映画はこの年を現時点として描かれる。79歳のウィントンが過去を回想する形で、救出作戦が描かれるのである。

50年後のウィントンを演じるのがアンソニー・ホプキンスである。

50年後のニコラス・ウィントン
50年後のニコラス・ウィントン
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

1937年12月31日生まれのホプキンスはこの映画が公開された2023年で85歳となっていた。イギリスの名優の例にもれず、舞台で活躍していたホプキンスが映画に初めて出演したのは、1968年公開の「冬のライン」だった。ブロードウェーで上演されたジャームズ・ゴールドマン脚本による舞台劇の映画化だ。1183年のイングランド国王ヘンリー2世と王妃エレノア、その3人の息子を描く歴史劇。ピーター・オトゥール(ヘンリー2世)、キャサリン・ヘップバーン(エレノア)の長男を演じたのがホプキンスだった。2人の名優を相手に癖のある息子を演じての映画デビューだった。身長が低く(174㎝)、美男でもないが、その眼光は見る人に強烈な印象を残した。それ以来半世紀以上活躍してきた。1993年にはナイトに叙勲されサーの称号が付くサー・アンソニー・ホプキンスが正式名となっている。

書斎で調べ物をするニコラス
書斎で調べ物をするニコラス
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

なお、若いウィントンを演じるのはジョニー・フリン、1983年3月14日南アフリカ・ヨハネスブルグ生まれ。俳優・ミュージシャンで俳優としては「スターダスト」でデヴィッド・ボウイの若い頃を演じている。ミュージシャンとしては「ジョニー・フリン & ザ・サセックス・ウィット」のリードシンガー兼ソングライターとして活躍している。

正義感からユダヤの子どもたちを助け出そうとした若いニコラス
正義感からユダヤの子どもたちを助け出そうとした若いニコラス
©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023

ナチス映画は基本的に実話となる。歴史の中に残された一こまを描くわけだから当然といえる。この映画もニコラス・ウィントンの実話を描き、子供たちを守ろうとした彼の行動を伝えてくれる。

公式サイトhttps://www.onelife-movie.jp/

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海外パッケージツアーの企画・操配に携わった後、早めに退職。映画美学校で学び直してから15年、働いていた頃の年間100本から最近は年間500本を映画館で楽しむ...

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