『Trooping the Colour(トゥルーピングザカラー)』と近衛兵

君主の前を通るときに旗を下げるエンサイン ©2022 Crown Copyright

英国で続く4つのジュビリー

これまでにシルバー(1977)、ゴールデン(2002)、ダイアモンド(2022)、そして今年のプラチナ・ジュビリーと4度のジュビリーを迎えられたエリザベス女王。幸運なことに私はその全てをイギリスで経験することができました。その45年を振り返ると、私の人生の中での出来事が思い出され、またイギリスという国が大きく変化していったことを改めて感じます。それと同時に王室にとっても大きな波を乗り越えてここに至っていることを思わずにはいられません。
これまでのさまざまな君主のジュビリーの歴史を時代背景と共に振り返ると、ジュビリーを国家規模で祝うことが君主と国民、そして国民同士の絆を高める大きな役割をしてきたことに気がつきます。

1997年にダイアナ元皇太子妃が亡くなった時には王室に対する支持率はこれまでの最低で、将来の存在さえ危ぶまれるほどでしたが現在は5人に3人が支持するまでに回復しました。そしてプラチナ・ジュビリーの4日間にわたる素晴らしいイベントが終わった今、支持率は更に上がっていることでしょう。

イギリスでジュビリーのお祝いが正式に始まったのはジョージ3世の時代からと言われ、それ以前の記録はあまり残っていません。そのジョージ3世はゴールデン・ジュビリーを、そしてヴィクトリア女王はゴールデン&ダイアモンド・ジュビリーを迎えましたが、プラチナ・ジュビリーは現エリザベス女王だけです。

プラチナ・ジュビリーのエンブレム

プラチナ・ジュビリーの公式ロゴ
エンブレム

プラチナ・ジュビリーのエンブレムは一般からデザインを募集した結果、リーズ大学でグラフィックデザインを専攻する19歳のエドワード・ロバーツさんが優勝。

エンブレムの内容は、女王が1953年の戴冠式に使われたローブの紫を使い、女王の御璽(君主の印鑑)を表す円の中に君主が戴冠式の時のみ使う聖エドワードの王冠を一本の線で描き(女王の長い在位を示す)、頂上の飾りに7を付けて70周年を表したということですが、プラチナ・ジュビリー、女王様に相応しいエンブレムですね。

6月2日に行われた、2022年の式典

さて今日は日本でも生中継され、多くの方がご覧になった『Trooping the Colour(トゥルーピングザカラー)』に関してお話ししましょう。
この式典はプラチナ・ジュビリーに限って行われたのではなく、女王の公式の誕生日、つまり6月第2土曜日に毎年行われています。1748年、ジョージ2世の誕生日が天気の良くない11月でしたので、比較的天気に恵まれる6月にお祝いをする「公式の誕生日」が定められました。1953年からは6月の第2土曜日に『Trooping the Colour』が行われていますが、今年に限りプラチナ・ジュビリーのお祝いに合わせ6月2日になったというわけです。

2022年6月2日に行われたホース・ガーズ・パレード
今年のTrooping the Colourの儀式
©2022 Crown Copyright

『Trooping the Colour(トゥルーピングザカラー)』とは

さて、君主の公式の誕生日に行われる『Trooping the Colour』とは、一体どのような儀式なのでしょう?それは単に、「女王様、お誕生日おめでとうございます!」という意味での行進ではありません。この式典の一つ一つの動きにはちゃんとした意味があります。

まず『Trooping the Colour』とは?troopとは「進む」という意味で、Colourとはこの場合は「軍旗」を示します。
軍旗は戦場では大切なもので、戦いにおいては連隊の集結点に置かれたものです。これがなければ戦っている兵士はバラバラになって混乱してしまいます。そこでこの旗を兵士に慣れさせるためにエンサインと呼ばれる下士官が旗をもって直線に並んだ兵士の間を歩くのです。
これが『Trooping the Colour』で、毎年君主の公式の誕生日に合わせて行われます。

毎年1,400名の近衛連隊が行進
©2022 Crown Copyright
軍旗をもった先頭に続く近衛兵のホース・ガーズ・パレード
軍旗を掲げて行進する近衛連隊
©2022 Crown Copyright

2022年はアイリッシュ連隊が行進

君主の警備を任務とする近衛兵ですが、行進ばかりしているのではありません。彼らは英国陸軍に属し、特に優秀な人が集まっている連隊で、戦争時には戦地に出向いて戦います。近衛連隊は歩兵連隊と騎馬連隊に分かれ、歩兵連隊は更に5連隊、騎馬連隊は2連隊に分かれます。このうち『Trooping the Colour』では5つある歩兵連隊のうち、毎年違う歩兵連隊が軍旗を持って行進するのです。
ちなみに、今年は近衛アイリッシュ連隊が軍旗と共に出場しました。この連隊長はウィリアム王子です。

アイリッシュ連隊の行進シーン
青いタスキをかけたアイリッシュ近衛連隊長のウィリアム王子と近衛アイリッシュ連隊
©2022 Crown Copyright

かわいい連隊のマスコットも行進に

さてテレビをご覧になった方は近衛アイリッシュ連隊の前を一匹の犬が行進しているのに気が付きましたか?
これは連隊のマスコット”シェイマス”です。犬種はアイリッシュ・ウルフハウンドで一番背の高い犬種として知られていますが、1971年に引退した陸軍少佐が連隊に贈ってから、アイリッシュ・ウルフハウンドは近衛アイリッシュ連隊のマスコットになっています。

連隊の戦闘を歩くマスコット犬
先頭をきって歩くシェイマス
©2022 Crown Copyright
赤い連帯のマントを来て更新するマスコット犬
近衛アイリッシュ連隊のバッジを付けたマントを着て誇らしげに
©2022 Crown Copyright

完璧な行進は日ごろの訓練のたまもの

テレビをご覧になって、行進の完ぺきさに感心した方も多いことでしょう。彼らはこの日のために4~5週間の集中訓練を受けるのです。

雨の中の訓練シーン
訓練は雨でももちろん決行
©2022 Crown Copyright
雨の訓練の朝、少将のチェックを待つマスコット犬と近衛兵
訓練にはもちろんシェイマスも
©2022 Crown Copyright
陸軍少将から厳しいチェックを受ける近衛兵たち
©2022 Crown Copyright

制服でわかる近衛連隊

5つの歩兵連隊は全員がカナダの熊の毛皮に赤い制服姿ですが、よく見るとその近衛兵がどこの歩兵連隊に属するかを見分ける方法がちゃんとあります。まず帽子に羽の飾りがついているかどうか、ついている場合は何色か、軍服の正面中心ついているボタンの並び方は?そして襟についたそれぞれの連隊のバッジで、その近衛兵士がどこの連隊に属しているかがわかります。

また陸軍の中で最もエリートの連隊である近衛騎馬兵。”The Life Guards”と”The Blues and Royals”の2つの連隊に分かれていて、その制服の色ですぐにどちらの連隊なのかみることが出来ます。

赤い制服をまとい、馬にまたがり行進するライフガーズの騎馬兵
赤い制服のライフ・ガーズ
©2022 Crown Copyright
紺の制服をまとい馬にまたがるブルーズ&ロイヤルズの騎馬兵
紺色の制服のブルーズ&ロイヤルズ
©2022 Crown Copyright

もし冬にイギリスにいらっしゃって近衛連隊を見る機会があったら、軍服の色が違うことに気が付くでしょう。これは軍服の上にコートを着ているからです。

オーバーコートを着て行進する冬の歩兵隊
グレイのオーバーコートを着た歩兵近衛連隊
赤いマントを羽織って馬に乗る騎馬兵
マントを着た騎馬近衛連隊のライフ・ガーズ
紺のマントを羽織った冬の騎馬兵
マントを着た騎馬近衛連隊のブルーズ&ロイヤルズ

『Trooping the Colour』の中継動画

イギリスBBCで生中継放送された『Trooping the Colour』の動画の全てを、いまもYoutubeで見ることができます。
3時間以上ありますが、ぜひ興味のある方はご覧になってみてください。

木島タイヴァース由美子

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1977年英国政府観光ガイド資格であるブルーバッジを取得。以来、現在にいたるまでイギリス全土にわたって旅行者を案内。2015年にカルチャーツーリズムUKを立...

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