イギリス湖水地方を歩く ~湖水地方の南の玄関口『ケンダル』(後編)~

湖水地方生活の後半を過ごした街、ケンダル(Kendal)。
前編の情報に引き続き街の散歩コースのご紹介と、ケンダルのお土産にもバッチリの名物グッズをご紹介します。

17世紀の救貧院 サンデス・ホスピタル

17世紀半ば、布を扱う商人であり、ケンダル市長も務めたトーマス・サンデス(Thomas Sandes)という地元の名士がいました。その時代、布は大変高値で取引されており、布の製造業や卸業を営む商人の中には、大きな富を築く人もいたそうです。サンデス・ホスピタル(Sandes Hospital)は、1659年にトーマスが設立した、高齢者のためのアルムズハウス(救貧院)です。

ハイゲートに面したゲートハウスは、1659年当時の佇まいを残しています。アーチをくぐった奥にあるのが、1852年に再建された住居部分です。ゲートハウスの内部には「Remember the poor」という碑文が刻まれた、鉄の収集箱が残されています。

サンデス・ホスピタルのゲートハウス
サンデス・ホスピタルのゲートハウス

芸術と文化の発信地 ブルワリー・アーツセンター

ブルワリ―・アーツセンター(The Brewery Arts Centre)は、絵画、演劇、音楽、映像などの様々なプログラムやイベントが行われる複合施設です。その名の通り、ここは16世紀半ばから1930年代まで、醸造所でしたが、1970年代に、今日のようなアートセンターに生まれ変わりました。
インターナショナル・コミックアート・フェスティバルや、ケンダル・マウンテン・フェスティバルなどの、ユニークなフェスティバルも開催していています。個展が開かれていることも多いので、散歩の途中にちょっと覗いてみるのもいいかもしれません。
もちろん、レストランだけの利用もできます。ブルワリ―&アーツセンターへは、サンデス・ホスピタルから少し下ったところにあるユース・ホステルのアーチをくぐってください。奥へ進むと、広い芝生の広場と石壁の建物が見えてきます。

ブルワリー・アーツセンター
ブルワリー・アーツセンター

紅茶とコーヒーの専門店 ファラーズ

ハイゲートは緩やかな坂になっています。坂を上り切ったところに、1819年創業の紅茶とコーヒーの専門店、ファラーズ(Farrer’s Tea & Coffee House)があります。ここの紅茶やコーヒーは、地元でとても人気が高く、湖水地方のレストランやティールームでも広く使われています。私もファラーズの紅茶を愛飲しています。

ファラーズの紅茶
ファラーズの紅茶

ちなみに、湖水地方の水道水は、日本と同じ軟水。ファラーズの紅茶は、日本の水道水でも綺麗な水色が出ます。日本で淹れると、少し渋みが出やすい感じがするので、ストレートで飲む場合は、茶葉の量や蒸らし時間を少し減らすようにしています。お土産におすすめなのは、やはりレイクランド・スペシャル。上質なセイロンティーのオリジナルブレンドです。

ファラーズの外観
ファラーズの外観

ファラーズは、人気のティールームでもあります。トラディショナルで落ち着いた雰囲気。使い込まれた板張りの床や、踊り場のある階段、暖炉、飴色の家具。とても居心地が良く、ついつい長居をしてしまいます。
紅茶、コーヒー、スコーン、ケーキはもちろん、ランチメニューも充実しています。温かいスープも美味しかったですよ。

1657年創業のチョコレートハウス

1657チョコレートハウス(The Famous 1657 Chocolate House)は、その名の通り、1657年創業のチョコレート専門店です。1630年代に建てられた石造りの建物で、17世紀の可愛らしい衣装に身を包んだ店員さんと、ショーケースいっぱいに並べられたカラフルなチョコレートが迎えてくれます。
悩んだ末に選んだチョコレートを、素敵な柄の箱に入れてもらうと、まるで宝物を手にしたかのような気分です。2階はティールーム。ホームメイドのケーキや、アイスクリーム、チョコレートドリンクがいただけます。中でもチョコレートドリンクは驚くほど種類が多く、甘さ、苦さ、濃厚さなど、自分の好みのものを選ぶ楽しさがあります。

1657チョコレートハウス
1657チョコレートハウス
チョコレートハウス前の石畳
チョコレートハウス前の石畳

ケンダル・ミントケーキ

ケンダルの名物と言えば、ケンダル・ミントケーキ(Kendal Mint Cake)。ケーキと言っても、粉を使って焼いたものではありません。薄い板状の砂糖菓子です。材料は、砂糖、グルコースシロップ、ペパーミントオイル、水、といたってシンプル。日本のはっか糖に似ています。

ケンダル・ミントケーキは、1869年ジョセフ・ワイパー(Joseph Wiper)というひとりの菓子職人の失敗から誕生したと言われています。彼は、ミントキャンディーを作る工程で、誤って砂糖を結晶化させてしまいました。一晩鍋の中に放置しておいたところ、翌朝、噛むとほろほろと崩れる、独特な食感の新しい食べ物になっていたそうです。このレシピを引き継ぐのが、ロムニー(Romney)のミントケーキです。この他、ウィルソン(Wilson)、クイギン(Quiggin)のミントケーキも、定番のお土産となっています。

ケンダル・ミントケーキは、世界初のエナジーフードとも言われています。1953年、エドモンド・ヒラリー卿(Sir Edmund Hillary)がエベレスト登頂を、世界で初めて成し遂げた際に携帯していたことで知られ、今でも登山者やハイカーに親しまれています。私も、湖水地方でハイキングをする時は、リュックに一枚入れて行きました。爽やかなミント風味と強めの甘さが、歩き疲れた体に元気を与えてくれます。でもこのお菓子、家にあってもなかなか減りません。この記事を書いていて、昨年のクリスマスに届いたミントケーキの存在を思い出しました。出番を待っているこのミントケーキのために、ハイキングの計画を立てようかなと思います。

スーパーに並ぶ地元のお菓子
スーパーに並ぶ地元のお菓子
ミントケーキのリキュール
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ROMNEY’S OF KENDAL
Kendal Mint Cake WHITE 85g / 2.99oz x1

¥375(配送料¥680)

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Triple pack mint cake 227g x 1

¥1,078(配送料¥680)

※価格は、2021年4月16日現在

世界的に有名なトピアリーガーデン

ケンダルまで来たら、エリザベス様式のマナーハウス、レヴェンス・ホール(Levens Hall & Gardens)までぜひ足を延ばしてみてください。

レヴェンス・ホールを世界的に有名にしたのは、17世紀に作られたトピアリーガーデンです。トピアリーとは、植物を刈りこんで仕立てた立体的な造形物のこと。レヴェンス・ホールには、100本を超えるトピアリーがあります。ツゲやイチイなどの常用樹を、動物やチェスの形に刈り込んだものや、背丈をはるかに超える巨大なイチイの生垣などがあり、一瞬にして不思議の国へ迷い込んだような体験ができます。トピアリーの足元を彩る約3万株の花々は、敷地内の温室で育てられ、季節ごとに植え替えられています。

レヴェンス・ホールのトピアリーガーデン
レヴェンス・ホールのトピアリーガーデン
鳥の形に刈り込まれたトピアリー
鳥の形に刈り込まれたトピアリー

レヴェンス・ホールで一番古い建物は、1350年に建てられたペレタワー(Pele Tower)です。ペレタワーとは、イングランド北部特有の方形の防衛施設です。16世紀、その周りを取り囲むように、エリザベス様式の邸宅を建てたのが、ベリンガム家(Bellingham)です。美しい羽目板の壁や天井の漆喰彫刻、ダイニングルームの壁を覆う型押しのレザー装飾もこの時代のものです。

1688年、ベリンガム家の当主がトランプの賭けに負け、勝者であるジェームス・グレアム大佐(James Grahame)が新たな主となりました。彼は1694年に邸宅を増築。そして、後にレヴェンス・ホールの代名詞となるトピアリーガーデンを造りました。庭のデザインを依頼した相手は、ジェームズ2世の庭師であったギヨーム・ボーモントでした。

イチイの生垣
イチイの生垣
古い石のベンチ
古い石のベンチ

その後、ハワード家(Howard)、そして現在のバゴッツ家(Bagots)とオーナーは変わりましたが、歴代のガーデナー達が庭を守り、今に受け継いできました。トピアリーガーデンの他にも、ローズガーデン、果樹園、ハーブガーデンなどがあり、見応えがあります。広大な庭園を存分に歩いたら、レヴェンス・キッチンへ。敷地内で栽培された野菜や果物を使った、ヘルシーなメニューが楽しめます。

ケンダルからレヴェンス・ホールへは、バス(555番、755番、S99)で約12分、Levens Bridgeで下車します。そこから徒歩約3分です。

さて、ケンダルの散歩、楽しんで頂けましたでしょうか。次回は、お散歩シリーズ第二弾。「ライダル村」をご紹介します。

ayako

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旅行業界や大使館など外資系企業勤務を経て、現在はフリーランスの通訳案内士として仕事をする他、イベント通訳や、外国人への日本語指導にも携わっています。 若き日...

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