秋は庭のリンゴでチャツネ作り
「メアリーのチャツネはおいしいのよ」友人の何気ないその一言によって、私はメアリーと出会い、チャツネやマーマレードなど、イギリスの保存食を作るようになりました。今でも秋にブラムリーアップルが出回ると、メアリーから教わったアップルチャツネを作るのが恒例行事です。
アップルチャツネ作りを教わったメアリー家の庭
私がメアリーと初めて会った頃、彼女はヘレフォードシャーのとても小さな村アリングズウィックに住んでいました。庭にはラズベリーやトマト、ニンジン、パースニップ、ハーブなどを栽培しているキッチンガーデンと、リンゴや洋ナシ、クラブアップルが実る果樹園があり、収穫した果物や野菜を使っておいしい保存食を作るのでした。
メアリーの家にいつ行っても、聞こえるのは鳥の声だけ、そんなのどかな時間が流れる中、アップルチャツネの作り方を教えてもらいました。
チャツネとは
イギリスの保存食の1つとして「チャツネ」(Chutney)があります。もともとはヒンディー語の「chatni」から来た言葉といわれています。チャツネは、フルーツや野菜にスパイスを入れて煮込んだ、インド料理には欠かせない調味料です。
そしてイギリスのチャツネは、身近にあるフルーツや野菜にビネガーと砂糖、塩、スパイスが入り、長時間煮た保存食。インドのチャツネがイギリスに伝わり、イギリス人好みのビネガーが効いた味わいになったのではないかと思います。
日本ではカレーの隠し味として使うイメージがあるチャツネですが、イギリスではチーズやハムやパイ、コールドミートに添えて食べるもの。パブの定番メニュー「プラウマンズ・ランチ」にも、付け合わせとしてチャツネが添えられます。
チャツネに使う果物は、リンゴ、洋ナシ、ルバーブやプラム、デーツやレーズンなど果物やドライフルーツですが、なかでもリンゴはイギリスのチャツネには欠かせない果物です。ビネガーと砂糖と塩、生姜、スパイスを入れ、コトコトと長時間煮ると、甘酸っぱい味わいのチャツネの完成です。茶色っぽい地味な色あいですが、おいしさの縁の下の力持ち、それがチャツネです。
クッキングアップルのブラムリー
イギリスには、たくさんの種類のリンゴがありますが、チャツネに使うのは、クッキングアップルといわれる酸味が強いリンゴが適しています。
日本でもクッキングアップルが栽培され、中でもブラムリーアップルといわれるイギリス由来のリンゴが入手できるようになりました。
ブラムリーアップルは、今から200年程前にイギリスのノッティンガムシャーのサウスウェルに住んでいた1人の少女がリンゴの種を蒔き、その種から発芽したリンゴが始まりです。その後19世紀の半ば、地元の苗木商のヘンリー・メリーウェザー氏がそのリンゴに注目しました。当時その家に住んでいたブラムリー氏は、リンゴの名前を「Bramley’s Seedling(ブラムリーズ シードリング)」とつける事を条件に、メリーウェザー氏にブラムリーの木の枝を切り、苗木を販売する事を許可します。ブラムリーは栽培しやすく、たくさん実をつけることから、優秀なクッキングアップルとしてイギリス全土に広がりました。今でもイギリスでは、ブラムリーアップルをよく見かけます。
日本では、1991年長野県の小布施町でブラムリーの商業栽培が始まり、またブラムリーを愛する人達がクッキングアップルとしてブラムリーの魅力を広めていきました。今では長野県、岩手県、青森県、北海道などリンゴの産地でブラムリーが作られ、一部のスーパーでも9月頃に販売されます。
メアリーの庭にも、ブラムリーと思われるリンゴの木があり、それを使ってチャツネを作りました。そこで私もアップルチャツネは、やはりブラムリーで作ると決めています。
メアリーのアップルチャツネ作り
メアリーのアップルチャツネは、リンゴと玉ねぎはもちろん、プラム、トマト、サルタナレーズンなどたくさんのフルーツが入り、とてもリッチな味わいです。それぞれの材料を大きくカットして、鍋に入れます。そしてビネガーとスパイスを入れて、気長に煮詰めていきます。
イギリスではチャツネに使うビネガーは、アップルビネガー、distilled malt vinegarと呼ばれる透明なモルトビネガー、白ワインビネガーなどを使います。
砂糖も、レシピによってグラニュー糖を使う場合もありますが、多くはブラウンシュガーを使います。イギリスの砂糖の名称でいえば、ザクザクとした茶色のデメララシュガーやライトブラウンシュガーなど、薄茶色をした砂糖。これがチャツネの茶色で、深い味わいの元となります。
そしてジンジャー、シナモン、クローブ、オールスパイス、チリなど好みのスパイスを入れます。
砂糖を入れて煮詰めること1時間半から2時間弱、表面がツヤツヤとして、ぼってりとしたら、ようやくチャツネが完成
煮込んで出来上がったチャツネをビンに詰めてできあがりです。
時間がチャツネをおいしくしてくれる
チャツネは、作ってから2~3ケ月はそのまま寝かせておいて食べるものとメアリーは教えてくれました。そうすると酸味の強い味わいが他の材料と馴染んで、味に柔らかさがでてきます。私は半年から1年ぐらいたったものがおいしいと思います。
メアリーのチャツネは、オレンジやバナナが入ったものまでありました。アップルチャツネとあわせて、スパイシーペアチャツネのレシピも教えてもらいました。
アップルチャツネの食べ方は?
アップルチャツネは、チェダーチーズによくあいます。パンにアップルチャツネとマヨネーズを塗り、チーズやハム、ゆで卵を挟んだサンドイッチもとてもおいしいものです。ポテトを揚げて、そこにアップルチャツネを絡ませるという食べ方もあります。
リンゴがベースなので、特に相性がいいのは豚肉。脂が多いベーコン、ソーセージに少しつけて食べると、酸味があるため、とてもさっぱりとした味わいに変わり、チャツネの力を感じます。
中でも一番お勧めの食べ方は、カツサンド。トンカツソースの代わりにアップルチャツネをつけると、あまりに相性がよくて、もう頬っぺたが落ちそうなぐらいです。