もしも、英国大使館のお茶会に招かれたら? ウェルシュアフタヌーンティー

美味しいウェールズ セイボリープレート

「もしも、エリザベス女王のお茶会に招かれたら?」拙著タイトルのひとつです。
残念ながら女王のお茶会に招かれることはありませんでしたが、先日エリザベス女王の遺影に見守られながら、英国大使館のドローイングルームでのアフタヌーンティーレセプションにお招きいただき、スピーチを行いました。前回から続き、そのウェルシュアフタヌーンティーについてご紹介します。

イギリスは4つの国から成り立つ連合王国。
アフタヌーンティーもそれぞれの国によって違いがあることをご存知ですか?
たとえば、ウェールズは太古の昔より大自然の恵みを享受してきたケルトっ子たちの国。そこには、広大な大地と長い伝統の中で育まれてきた豊かな食材が沢山あります。
今回のメニューは、そんなウェールズ食材の魅力をお伝えするために、チームメンバーと英国大使館エグゼクティブ・シェフ、フレデリック・ウォルター氏で相談しつつ、紅茶とのペアリングも考えながら決めたティーフーズです。

まずセイボリープレートを飾るのは、ウェールズの代表選手ウェルシュラム。ウェールズ産のラム肉は「赤身肉のシャンパン」ともいわれ、 紅茶の世界でいえばダージリンの位置づけといったところでしょうか。英国王室の晩餐会やエリザベス女王のジュビリーでも振る舞われた最高級のラムです。チャールズ国王はウェルシュラムをメニューに掲げるレストランを集めた「ウェルシュラム・クラブ」を立ち上げ、普及に尽力しています。さすが<元Prince of Wales>ですよね。今回、ミニバーガーとして登場です。

次に、中世から作られていたウェールズ料理ウェルシュレアビット。ウェールズ語で「Caws Pobi=焦げたチーズ」ビールが隠し味となっているウェールズ風濃厚チーズトーストです。トロトロに溶かしたウェルシュチェダーチーズに黒ビールや調味料を加えたレアビットソースをトーストにたっぷりと乗せて焼きあげれば、それは奥深~い味わいに。
そして、ヨーロッパの美食家たちに愛されるブルーロブスターは繊細なティーサンドイッチに仕立てて登場です。

ウェールズの地方菓子が並ぶ ペイストリープレート

アフタヌーンティーには欠かせないのがスコーン。日本でいえばお雑煮のような位置づけで、イギリスの中でも地方によって、そして家庭によって、レシピは星の数ほどあるところも魅力です。ただし、スコーンはスコットランド発祥のお菓子。そんなスコーンにあたるウェールズの地方菓子がウェルシュケーキです。
ウェールズ語で「Picau ar y maen=石の上のケーキ」という言葉通り、ベイクストーンと呼ばれる鉄板で焼き上げる伝統的なウェールズ菓子。焼き立てはサクッと美味しくて、何個でも食べられそう。冷めると独特のほろっとした食感で、また別もののよう。素朴だけれど、粉の味わいが感じられ、紅茶に合うお茶菓子の優等生です。そのまま食べても美味しいのですが、ジャム・スプリットにしてみたり、最近は日本のデコ・スコーンのように、デコレーションしたウェルシュケーキもお目見えしていますよ。
お次はバラ・ブリス。Baraはパン、Brithは小さな斑点という意味で、レーズンやカレンツなどのフルーツが文字通りボツボツと入ったパンです。私が忘れられないのが、ウェールズの国立歴史博物館で食べたバラ・ブリス。中世の時代にはオーブンのない家も多く、Bake Houseと呼ばれる村の共同オーブンに集まってパンを焼いていたといいます。

当時のレシピを再現して焼いたバラ・ブリスは、本当にシンプルな味なのですが、そこにバターやクロテッドクリームをあわせていただくと、あら不思議、紅茶にマッチした
ティーケーキに早変わりするのです。
ジャムやクロテッドクリームも、もちろんウェールズ産。ダフォディルフーズやウェルシュ・レィディをあわせるのがおすすめです。

ウェールズっ子たちが愛する紅茶 ウェルシュブリュー

そして、ウェルシュアフタヌーンティーに欠かせないのが、ウェルシュブリューです。
イギリスの紅茶もまた、地域によって違いがあります。理由は水質が異なるから。よく旅行者のお土産話として、こんな話を聞きませんか?「ロンドンで飲んだ紅茶が美味しくて同じものを買ってきたけれど、日本で淹れてみると全然味が違う…。」それもそのはず!ロンドンの水は硬水の上にカルキが多く、本当に同じ茶葉?と思うほど香りも味も違うのです。紅茶に合うのは軟水、ブライトな水色とまろやかな風味を存分に楽しむことができるのです。そして、ウェールズの水は日本と同じ軟水。氷河期時代から地底で守られ、美しい森林や湖、丘陵、海岸などの自然が育むミネラル豊富な水は、紅茶に最適です。ウェルシュブリューは家族経営をしていて、創業者のアラン氏がウェールズの軟水を引き立てる紅茶のブレンドを研究し完成させた<軟水用パーフェクトティー>、世界中で年間6000万杯以上愛飲されています。

イギリスでも日本でも、紅茶好きなかたは水にこだわりを持ちます。私が紅茶留学中にお世話になっていたステイ先のマダムは「紅茶を淹れる時には必ず軟水!」というのが口ぐせでした。当時は、ウェールズに行かないと手に入れることができない貴重なウェルシュブリューも、最近ではロンドンのスーパーでも見かけるようになりました。
日本には昨年初上陸したばかりですが、人気がグングン急上昇しています。

大使館のレセプションでは、4種類のウェルシュブリューが用意され、大使公邸のバトラーがシルバーのティーポットで丁寧に淹れてサーブしてくださいました。
日本の軟らかい水で淹れた紅茶がシルバーのポットで一段とまろやかな風味になり、ストレートはもちろん、英国風ミルクティーにもぴったりです。
ティーカップはじめテーブルウェアは、世界中の英国大使館で使われているエンブレム入りのオリジナル食器。イギリスらしいボーンチャイナのやわらかな素地が、より一層紅茶の味を引き立てます。

今回のアフタヌーンティーレセプションはビュッフェスタイル。そんな時にも、ティーフーズは塩気のあるセイボリーからはじめ、甘みのあるペイストリーへと順番に食べ進めていくとスマート。そして、ティーフーズにあわせて紅茶をセレクトできればパーフェクトです。
ウェールズの自然が育む豊かな食とペアリングした紅茶、贅沢な午後のお茶時間はイギリスへショートトリップした気分を味わうことができます。

秋、英国展や英国フェアも全国各地で盛り上がりを見せています。どこかでウェールズのフーズと出会う機会があれば、ぜひ手にとってみてくださいね。

《ライター》藤枝理子の著作紹介(一部)

藤枝理子

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RICO FUJIEDA アフタヌーンティー研究家 東京都世田谷区にて紅茶教室「エルミタージュ」を主宰。 紅茶好きが嵩じてイギリスに紅茶留学。帰国後に東京初...

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