イギリス映画談
~スパイの活躍に興奮の”イギリス映画”~
イギリス映画と言えばスパイ、スパイといえば危機の時に活躍する。危機にスパイが活躍する映画を2本。どちらもMI6が関係している。(MI: Military Intelligence)
クーリエ:最高機密の運び屋
9月23日封切り
舞台は1960年代、キューバ危機の時代に繰り広げられる
キューバ危機と言えば、半世紀以上前、アメリカと旧ソ連との間であわや核戦争がという状況になった事件。
第2次世界大戦後、ソ連を中心にした共産圏とアメリカを中心とした資本主義国の対立が徐々に進みつつあった1950年代末、キューバ革命がおこり親米軍事独裁政権に代わりカストロ首相の政権が誕生する。初め親米姿勢も見せたカストロだが、アメリカ側の冷たい態度など紆余曲折の末、ソ連に接近することになった。キューバとアメリカの関係が厳しい状態になっていく中、1962年10月にアメリカの偵察飛行により、キューバ内にソ連から提供されるミサイルのための基地建設が発見されたのだ。
この映画はキューバ危機の裏で繰り広げられた事実に基づく物語を描いている。
映画は1960年、モスクワ、レーニン像の下でフルシチョフ第一書記が聴衆に向かって息荒く演説しているところから始まる。”我々の核兵器の威力は増大している”と。彼の後ろに並ぶ高官の中に、1人不安定な笑みを浮かべる人物がいる。オレグ・ペンコフスキー、表向きは科学委員会の代表だ。彼はフルシチョフの強硬姿勢に不安を感じたのだ。映画は初めから人物の感情を細かく伝えながら話を進めていく。
ペンコフスキーはアメリカ人観光客にメモを託すかたちでアメリカ大使館にコンタクトしてくる。
主人公はスパイに仕立てられた民間人
イギリスもアメリカも名をはせた情報機関を持っている。MI6とCIAだ。両機関ともにこの作戦にかかわってくるのだが、実際にスパイ活動をしているのは彼等ではない。
ソ連側に感づかれないよう、ペンコフスキーからの情報を普通のイギリス人に運ばせようというのだ。一人の工業製品のセールスマン、グレヴィル・ウィンが選ばれる。勿論彼が望んだからではない。運んでいる情報の中身を知ることもなくグレヴィルはモスクワへ何度も出かけ、ペンコフスキーと徐々に人間としての付き合いが深まっていく。
イギリス映画が得意とする緊張感に満ちた情報戦と、普通の人がそこに引き込まれていくスリルが丁寧に静かに描かれる。
最後に出てくる実際のグレヴィル・ウィンの映像、実に人懐っこい風貌の人だった。
『クーリエ:最高機密の運び屋』公式サイトは、こちらよりどうぞ
『クーリエ:最高機密の運び屋』
2021年9月23日(木)公開
映画前売券(一般券)(ムビチケEメール送付タイプ)
¥1,500
007 ノー・タイム・トゥ・ダイ
10月1日封切り
待ちに待った公開『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』
映画の007シリーズが初めて映画館で上映されたのはロンドンで1962年10月5日だった。59年近くも前のことだ。それ以来24本+2本(後で説明)が公開されてきたが、今回の25本目の新作「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」ほど待たれた作品はなかった。なにせ、初めに発表された全世界公開日は、2020年2月14日だったのだが、その後の日本公開予定日の変遷は次のようになる。
2020年2月14日 ⇒2020年4月10日 ⇒2020年11月20日 ⇒2021年4月(日にちは発表されず)⇒2021年10月1日
ということで、595日間も待たされたのである。
勿論、敵はコロナだ。そのためか、『公開記念スペシャルサイト#007待ちきれない』というサイト(https://moviewalker.jp/special/007/)が立ち上げられたほどだ。そこには待ちわびる人々の声が多くみられる。実はこの新作はマスコミ試写が行われていない。作品を見て書くことができない。有名人の声も”待ちきれない”ばかりだ。
仕方がない、007シリーズ全体の情報とともに新作についてご案内しよう。
007映画の歴史
半世紀以上にわたって続いてきた007シリーズは、イアン・フレミングの原作から映画化された。フレミングは第2次世界大戦中に諜報員として働き、その経験を生かして1953年に007の第1作「カジノロワイヤル」を発表している。その後007の長編12作を執筆、1964年に56歳の若さで亡くなっている。美食家の彼は不健康な生活を送っていたらしい。12作は総て映画化され、同名の映画となっている。今や、原作はなく、短編等からヒントを得るなどして、全く新しいストーリーを脚本家たち(複数で執筆)が考案している。
映画の第1作「Dr. No」(ちなみに英語題名には007は付かない)は、日本では1963年6月1日に「007は殺しの番号」という題名で公開されている。007自体が一般的に知られていず、00~の番号は殺人許可をもつMI6諜報員だということをを知らせるための題名だった。ちなみに1964年公開の第2作も当初は「007 危機一発」の日本題名で公開された。2作ともリバイバル公開の際に「007ドクター・ノオ」「007ロシアより愛をこめて」に変更されている。
半世紀以上も作られ続けてきた007シリーズ、製作はアルバート・ブロッコリとハリー・サルツマンが共同で始め、9作目の「007黄金銃を持つ男」(1974年)まで続き、その後サルツマンが引退した。13作目の「007オクトパシー」まではブロッコリが一人で製作、14作目「007 美しき獲物たち」からはマイケル・G・ウィルソンと共同になる。このウィルソンはブロッコリが再婚した相手の連れ子、つまり義理の息子となる。アルバート・ブロッコリの最後の製作は16作目の「007消されたライセンス」、17作目の「007ゴールデンアイ」は存命中だったが実の娘のバーバラ・ブロッコリに製作者の座を譲っている。17作目以降最新作まで父親違いの兄妹コンビで製作を担当している。ブロッコリファミリーを中心にイオンプロが作られ、そこでの製作となっている。
今回の「007ノー・タイム・トゥ・ダイ」はこのイオンプロの作品として25本目となる。実はイオンプロ以外の作品が2本(+2のこと)ある。1本は1967年の「007 カジノロワイヤル」、完全なパロディ作品で、監督5人、デヴィッド・ニーヴンが演じるジェームズ・ボンド卿の他に007が5人も登場する。もう1本は1983年の「ネバ―セイ・ネバーアゲイン」、ショーン・コネリーが久しぶりにボンド役に復帰して「007サンダーボルド作戦」をリメイクしたもの。2作とも原作の権利関係で作られることになった。
ジェームズ・ボンドを演じた俳優たち
ジェームズ・ボンドのイメージは演じられる役者によって造られる。その意味で初代のショーン・コネリーが果たした役割は大きい。厚い胸板に胸毛、眼光鋭く男性の魅力でボンド像を作り上げた。今までに6人の男優がボンドを演じている。
1代目 ショーン・コネリー(1930年生) +1も含め7作に出演 特徴は上記の通り
2代目 ジョージ・レーゼンビー(1939年生) 1作のみ オーストラリア出身 非欧人
3代目 ロジャー・ムーア(1927年生) 7作に出演 ユーモアを取り入れて演じた
4代目 ティモシー・ダルトン(1946年生) 2作に出演 原作に近いイメージらしい
5代目 ピアース・ブロスナン(1953年生) 4作に出演 華やかさ、明るさがとりえ
6代目 ダニエル・クレイグ(1968年生) 5作に出演 シャープ・スマート・機敏
現在のダニエル・クレイグは、今回の作品が最後になる。2006年の「007カジノロワイヤル」で初めてボンドに決まった時、心配されることが多かった。他の5人が身長185~90㎝のところ178㎝は低すぎる、華やかさがない、若すぎる等々。映画上のボンドの年齢は、1~3代目までは1920年代生まれと想定されていた。4代目以降は俳優の生年に合わせられた。つまり、ピアース・ブロスナンのボンドに比べると、一挙に15歳も若く設定されたのがダニエル・クレイグのボンドだったのだ。この変更は実際の作品を見た人のほとんどに受け入れられた。若々しく、シャープな印象は作品自体の方向性も少し変えたように見える。今では多くのアンケートで、ボンド役者の1位はショーン・コネリー、2位はダニエル・クレイグという結果になっている。
ボンドの敵は「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリー役を演じた俳優
今回の敵は、シリーズ史上最も危険でミステリアスな男(とチラシにある)サフィンで、ラミ・マレックが演じている。マレックといえば「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリー役でアカデミー賞主演男優賞を受賞したエジプト系アメリカ人だ。
監督はキャリー・ジョージ・フクナガ、1977年生まれの日系4世アメリカ人男性だ。英語、スペイン語、フランス語のバイリンガルだが、日本語は含まれていない。2001年にはスノーボードのために北海道で6か月過ごしたともあるので、少しは分かるかも知れない。日本で公開された作品には2010年の長編デビュー作「闇の列車、光の旅」、2012年の「ジェーン・エア」があり、「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」は久しぶりの作品だ。
TOHOシネマズの最新レポートでは今回の007のミッションは科学者(化学者?)の救出と言っていたが、確認はできていない。さらに、ボンドガールについては数も多く、スペースもなくなってきたので、今回は割愛。
ダニエル・クレイグのボンドはこれで見納めとなる。しっかり楽しみましょう。
『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公式サイトは、こちらよりどうぞ
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
2021年10月1日(金)公開
映画前売券(一般券)(ムビチケEメール送付タイプ)
¥1,400