写真で巡るイギリスの旅
~ビアトリクス・ポターが残した景色・湖水地方~

ロンドンの書店で見つけた一冊の写真集「LIFE IN THE HILL」、湖水地方の羊農家物語を美しい風景で綴っていた。初めて湖水地方を訪れたのは1998年の春、ヒースロー空港よりレンタカー借り出発した。

湖水地方に到着すると気まぐれな天気に歓迎された。日が差したかと思うと雨が降りはじめ、雨が上がると湖に虹がかかり、緑色の田園に風景を塗り替えてくれる。春とはいえまだコートが必要な気温だが、それでも夢中でシャッターを切っていた。それから20年通い続けた。そして湖水地方は2017年に英国で31番目の世界遺産に登録された。
「ピーターラビット2」の映画が6月に上映されるので湖水地方の風景を紹介する。

ヒルトップ農場の建物と満開の白藤

17世紀後半に建てられたヒルトップ農場は、湖水地方独特の建築様式である天然スレートで葺いた屋根が特徴である。ヒルトップ農場を1905年購入し、ビアトリクスが最初にやったことは 増築と庭作りである。
農場の建物には白藤が壁を伝って咲いている。5月後半から咲き始める満開のシーンを写真に収めるタイミングは難しいが、この時は運良く出会えることができた。

ヒルトップ農場の建物と壁に咲く白藤
ヒルトップ農場の建物と壁に咲く白藤
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離35mm

ヒルトップ・ガーデン

キッチンガーデンから見たヒルトップ農場。
ビアトリクス・ポター作の「アヒルのジマイマのおはなし」に登場する動物たちは、この農場にいた動物がモデルだったといわれている。物語の挿絵には小さな庭でジマイマの卵を見つけた男の子のラルフ。緑の門から顔を覗かせている少女ベッドなどが描かれている。 庭には挿絵同様にルバーブが植えられ、当時のままの畑をすべて再現してある。よく手入れされていると毎回訪れるたびに感心する。

ヒルトップガーデン
ヒルトップ・ガーデン
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離24mm

ピーターラビットの挿絵に登場するニア・ソーリー村

ニア・ソーリーという地名は、アングロサクソン語の「岸辺の葦」という言葉から発生したとも言われている。
ビアトリクスが暮らしたニア・ソーリー村は、湖水地方のほぼ中央の南東寄りにある。ビアトリクス作品の多くの舞台となり、今もビアトリクスが暮らした当時の面影をとどめる可愛らしい村だ。 さまざまなお話の舞台となる建物が集まるニア・ソーリー村。ビアトリクスが暮らしたヒルトップ農場や通りを歩いているだけでも挿絵で見覚えのある風景が次々と現れ、楽しさと驚きの連続だ。ニア・ソーリー村の現在の人口はわずか数10人ほど 。一つ路地に入れば時が止まったかのような静寂に包まれ、緑広がる牧草地とのんびりと草を育む羊を眺めると心が和む。

牧歌的なニア・ソーリー村の風景
牧歌的なニア・ソーリー村の風景
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離16mm

ニア・ソーリー村 ジマイマの森

ビアトリクスが77歳でこの世に別れを告げたのは、1943年12月22日。その直前にビアトリクスは羊飼いのトム・ストーリーを呼び、自分がよく散歩をしていたヒルトップを望む一番好きだった場所、ジマイマの森に遺灰をまいてほしいと遺言した。ビアトリクスはその日の深夜に逝去。遺灰をまいたトム・ストーリーも亡くなりその場所は永遠に分かっていない。4,300エーカーを超える土地や16の農場、コテージはナショナル・トラストに寄付された。そのおかげで、ヒルトップをはじめ湖水地方の景色は今も当時のまま残されている。

ジマイマの森
ジマイマの森
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離24mm

ニア・ソーリー村の道標

ヒルトップ農場から道沿いにエスウェイト湖に向かう途中にある三叉路と道標。
「こぶたのピグリン・ブランドのおはなし」の挿絵に登場する。ビアトリクスが訪れた時代そのままの景色が残されている。なんでもない狭い道で、車がすれ違い出来ない程の道。この道標周辺から眺める周りの景色が何とも言えない。
朝夕になるとここも毎回撮影するポイントである。

エスウェイト湖に向かう途中にある三叉路と道標
ニア・ソーリー村にある三叉路と道標
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離24mm

ニア・ソーリー村 バックルイート

ニア・ソーリー村に入りヒルトップ農場前にあるパーキングに車を停めると、村の中心地にある建物がバックルイートである。
「こねこのトムのおはなし」の中でアヒルたちが歩いている挿絵がある。あひるの後ろに描かれている建物がバックルイートである。春から初夏に掛けては様々な花が咲き乱れている。絵本が描かれた1907年頃の道路で、立ち並ぶ家はほとんど増えていないのではないだろうかと思われる。 屋根には絵本に登場する風見鶏のジマイマが飾ってある。

バックルイート
ニア・ソリー村のバックルイート
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離50mm

ビアトリクスが愛したエスウエィト湖と羊小屋

わたしが湖水地方を訪れ、ホークスヘッドの村からニア・ソーリーに入る前に必ず最初に撮影するポイントがエスウェイト湖だ。羊小屋とエスウェイト湖の表情は、毎回違った感覚の新しい写真を撮ることがきるが、この写真ように鏡に写ったようなエスウェイト湖は撮れることは珍しい。
最近は同じ場所で多くの人たちの作品を目にするようになった。湖畔に羊がいない時もあるのだが、それでも羊小屋を入れて撮影すると良い写真が撮れる。

鏡に写ったようなエスウェイト湖
鏡に写ったようなエスウェイト湖と羊小屋
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離105mm

エスウェイト湖の白い霧

10月の後半ともなると湖水地方の秋は一気に深まり、寒さが身に染みて、天候も気まぐれになる。夜寒く、翌朝晴れると、放射冷却で雪が積もったように野山は真っ白となり、川には白い霧がたちこめる。幻想的な風景を写真に収めるのはほんの少しのタイミングで、太陽が昇り始めてくると直ぐに白い霧の風景は消えさってしまう。エスウエィト湖畔で何回かこの風景に出会うことができ、羊が草を育む様子が撮ることができた。次に巡りあえた時には、羊の正面か、側面から狙ってみたいものだ。

エスウェイト湖にかかる白い霧
エスウェイト湖にかかる白い霧
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離24mm

エスウェイト湖の朝焼け

湖水地方の夏の夜明けは早い。エスウェイト湖には水鳥の親子が泳ぎ回る。ビアトリクスは「世界一美しい湖はエスウェイト湖だと思う」と、1896年にノエル君にニア・ソーリー村の楽しさや、四季折々のエスウェィト湖の様子を手紙で紹介している。
カメラマンにとって朝焼けは一番のチャッターチャンスである。

エスウエィト湖の朝焼け
エスウエィト湖の朝焼け
ISO 800 | 絞りF8 | 焦点距離24mm

エスウェイト湖の秋

1896年ポター一家はバカンスでレイクフィールド邸に滞在した。
リンダ・リアの著書「ビアトリクス・ポター ピーターラビットと大自然への愛」(ランダムハウス講談社)によると、ビアトリクスは、その際の日記で「私は山を背景にした牧歌的な風景の方が好きだ。世界一美しい湖はエスゥェイト湖だと思う。私がそう言うとみんなに笑われる。湖畔から見渡せるさまざまな景色は劇的でとてもロマンチックで私の心を揺さぶるのだ 」と記している。
エスウェイト湖畔に沿って歩くと気持ちが和み、肩の力が抜けていくようだ。

秋のエスウェイト湖の風景
秋のエスウェイト湖の風景
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離35mm

スレーター・ブリッジ

リトル・ラングディール・ターンから流れるグラセイ川に架かる橋。
ここから眺めるリトル・ラングディール峡谷の景色は絶景である。ビアトリクスがナショナル・トラストに寄付した土地。おかげで自然のままの景色が残り、週末ともなると多くのハイカーが訪れる。四季折々の景色が素晴らしく毎回訪れるポイントである。スレーター・ブリッジは駐車場から歩いて20分程の所にあり、坂道を登ったり降りたりしながら到着する。

スレーター・ブリッジ
スレーター・ブリッジ
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離24mm

モク・エクルス湖「ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし」

カエルの紳士が主人公として描かれた舞台がモスエクレス湖。
モス・エクルス湖は池と言っていいほどの小さな湖だ。 釣り好きのウィリアムスのために湖にこっそりとマスを放流させた。ビアトリクスは小さな船を修理させ、夫のウィリアムスともにビアトリクスが日々の散歩を楽しんだ場所。静寂の中2人が植えたという睡蓮の花は今なおひっそり睡蓮の花を咲かせている。ヒルトップから坂道を20分ほど歩いて行くと、丘の上に忽然と小さな湖が現れる。現在はナショナル・トラストが管理している。

モス・エクルス湖
池と言っていいほどの小さなモス・エクルス湖
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離50mm

ユー・ツリーファーム秋

ユー・ツリーの名前の由来は、樹齢200年以上の「イチイの木」に由来している。この地方はモンク・コニストンとも呼ばれ、ビアトリクスの曽祖父が土地を所有していた。1930年にビアトリクスは様々な困難を克服し、湖や川、丘陵地帯 など膨大な4,000エーカーの土地を購入した。
「私たちは大仕事をやってのけました。それも前もって計画していたわけではなくすぐに行動しました この無謀とも言える冒険をトラストが素晴らしい現実に変えることができたらどれほど喜ばしい結果になるでしょう 」とナショナル・トラストの会長に手紙を送った。
撮影した場所はターン・ハウ湖よりユー・ツリーファームを望む。

秋のユー・ツリーファーム
秋のユー・ツリーファーム
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離28mm

ユー・ツリーファーム 映画「ミス・ポター」のロケ地 

建物は1694年に建てられ、母屋も納屋も当時の歴史的な建築様式を残している。 美しい風景として絵葉書や絵画にもなっている場所。農場でカフェやB&Bを開いて副収入を得ることを提案したという。 農場ではハードウィーク種の羊を飼育して羊毛を使ったセーターなどのサンプルも置かれている。2006年の映画「ミス・ポター」のロケ地で、ヒルトップ農場として映画に登場している。

映画「ミス・ポター」のロケ地
映画「ミス・ポター」のロケ地
ISO 160 | 絞りF8 | 焦点距離28mm

レイキャッスルの冬

ビアトリクスが1882年に初めて湖水地方を訪れ宿泊先になったレイキャッスル。当時16歳だったビアトリクスは湖水地方の風景を毎日スケッチし、それ以来湖水地方に避暑のため、毎年の様に当時住んでいたロンドンから訪れるようになった。
湖水地方の緯度はロシアのサハリンと同じだ。わたしは冬景色のレイキャスルを写真に収めるため、雪が一番多い一月末を狙って訪れた。最近は温暖化で湖水地方もあまり雪は積もらず、降っても直ぐに溶けてしまうようだ。
同じ『UK Walker』に執筆されている美術家ソブエヒデユキさんの湖水地方の自宅に、一月頃お伺いしたことがあったが、その時は雪が降るものの積雪までにはいたらなかった。

冬のレイキャッスル
冬のレイキャッスル
ISO 40 | 絞りF8 | 焦点距離24mm

ホークスヘッドでとらえたダブルレインボー

ホークスヘッドは中世から羊毛の村として栄えてきた。
中世に建てられた聖ミカエル教会、詩人ウィリアム・ワーズワースが通ったグラマースクール、「ビアトリクス・ポターギャラリー」には彼女の絵本の原画が展示されている。ホークスヘッドが舞台になった「まちねずみジョニーのおはなし」にも描かれている。
湖水地方に何度も通っていると、毎日天気が悪く撮影すること出来ない時も多い。気を紛らわすため雨の中車を走らせていると、ホークスヘッドの近くで突然ダブルレインボーが現れ撮影することが出来た。

ダブルレインボー
ホークスヘッド近くで撮影のダブルレインボー
ISO 40 | 絞りF8 | 焦点距離16mm

使用機材

Canon EOS 5D Mark II

Toutube「英国湖水地方世界遺産」

「英国湖水地方世界遺産」DVDの一部をYoutubeでご紹介しています。

辻丸純一

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イギリスと出会ってから50年過ぎました。私の人生の節目に必ずイギリスが絡んで来ました。今回も写真と映像参加せていただく事になり感謝、感謝です。 日本よりイギ...

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