英国の庭~イングリッシュガーデンに思う~
初夏のイギリスは花で溢れていると言っても過言ではありません。豊かな自然を守るお国柄が、自然と対峙しながら植物を育てるガーデニングの文化を育みました。
春から夏に向かう時期はどこの国でも一番美しく楽しい季節。コロナ禍中でなかなか渡英できませんが、5~6月に英国へ出かけると必ずあちらこちらのイングリッシュガーデンを訪れたものです。
今回はイギリスの夏を懐かしみながら英国の庭をご紹介したいと思います。
様々な植物を多様な形で見せてくれる
『ウィズリーガーデン』(RHS Garden Wisely)
景観デザインを勉強していたころ、庭のスタイルや植物について学ぶならウィズリーガーデン(Garden Wisely)を訪ねることをしばしば薦められました。様々な植物を多様な形で見せてくれるウィズリーは、王立園芸協会(Royal Horticulture Society)が運営する女王陛下の庭です。
写真は6月の庭。ローズガーデンとハーブガーデンの一コマです。場所もロンドンから近いサリー州に位置するので訪問しやすくガーデナーの聖地としてお薦めの庭です。
前述したウィズリーガーデンからさらに南のケント州は気候温暖な豊潤なエリア。英国の庭と総称されるケントにはシシングハースト(Sissinghurst Castle Garden)を始め数多くの著名な庭が点在しています。
RHS Garden Wisley公式サイト:https://www.rhs.org.uk/gardens/wisley
美術館としての役目を担う庭
『パッシュリーマナーガーデン』(Pashley Manor Garden)
ケント州とサセックス州の堺に位置するパッシュリーマナーガーデン(Pashley Manor Garden)は広大な敷地の中を花とアートの両方を楽しみながら散策できるアウトドアミュージアム(Outdoor Museum)として有名です。
マナーハウスはヘンリー8世の妻だったアン・ブーリンの曾祖父が所有し、その後1540年に売却されるまでブーリン家の持ち物でした。悲劇の女性アン・ブーリンと歴史的に繋がりを持つ建物として現在グレードIの指定建造物として保存されています。
<指定建造物のグレードⅠとは>
指定建造物は、歴史的、文化的、建築的関心のある建物、または国の重要性があり、保護する価値があると見なされている建物のことです。グレードⅠとⅡに分けられⅠは特にその場所が国、建築、または歴史的に非常に重要であるとみなされた場合に付けられます。
11エイカーの広さを持つ庭園、パッシュリーマナーガーデンはのびやかなスタイルを誇り訪れた人々を自然と寛がせてくれます。
庭園内では英国屈指の彫刻家たちの作品も間近に観ることが出来ます。
如何にもイギリスのカントリーらしい彫像も。春の風物詩、ウサギのボクシングです。
サセックスの彫刻家フィリップジャクソン作。彼の製作したAnne Boleynも庭園内で鑑賞出来ます。
羊を庭に入れないために作られた浅い空堀のハハ(ha-ha)。向こう側に並ぶ羊たちも彫刻。贅沢な展示場です。
こちらはイギリス人アーティスト、ジェーンホグベン(Jane Hogben)のお母様、アンホグベン(Ann Hogben)の作品。これを見たくて訪れました。同行した友人はこの子に一目ぼれし同じものを注文しました。
数か月後イギリスからはるばる旅をしてきた女の子。同時に作ってもらったオーナーの愛犬たちと共に現在真鶴の個人庭に設置されています。
イングリッシュガーデンを訪ねる旅の良い思い出のひとつとなりました。
Pashley Manor Garden公式サイト:https://www.pashleymanorgardens.com/
コッツウォルズのオープンガーデン
イエローブックに掲載されている有名な庭はもちろんのこと、個人のお庭でもこの季節は一般に公開し皆で楽しみます。
写真はコッツウォルズの小さな村、アシュトンアンダーヒルのオープンガーデン。毎年村を上げての一大イベントになっています。
蜂蜜色の建物が並ぶ静かな村に各方面からたくさんの人々が訪れます。私たちもその一人。
一年をかけて丹誠に心を込めて作られた庭は訪れる人々の心を捉えます。
庭は部屋の延長という考え
イギリス人にとって庭とは何かと尋ねると必ず帰ってくる答えは ”Outdoor Living”(もう一つの部屋)という言葉です。彼らにとって庭は部屋の延長にある空間なのです。部屋のインテリアを考え、整える感覚で作られた庭は住み手のオリジナリティーが溢れており観ていて見飽きません。短い夏の時期をもう一つの部屋である庭で過ごす、彼らの至福の時間です。
鎌倉山、ハウオブポタリーのお庭
写真は今年の我が家の庭。
夏の日照時間が長く湿度が少ない英国と異なり、高温多湿の日本でイングリッシュガーデンを実現させるのは至難の業です。試行錯誤を繰り返し、鎌倉に合う植物を育てながら今年も薔薇の季節を迎えました。庭づくりをしていて思うのは、この作業に終わりがないことです。いつも変化し成長を続ける庭は自然と共存することを私たちに教えてくれます。
失敗を繰り返し上手くいかずがっかりすることも多いけれど、美しく咲き誇る花たちにいつもたくさんの幸せを貰っています。