英国の旅で知る、古き良きモノたちと暮らすイギリス人
イギリス人は古いモノに価値を置きます。家はもちろんのこと家具からインテリアの品々まで経年し使い込まれたことで、そのモノにはキャラクターが伴うと考えます。
今回の旅では、ロンドン在住の友人の家で家族から譲り受けたという家具や食器を見せていただきました。モノだけでなくファミリーヒストリーを引き継いだと話されたことがとても印象的でした。
イギリスでは古いものを単なる”古びたモノ”としてではなく、経年し磨かれた美しさや歴史を宿す存在として尊重します。通りを歩くと時代を超えて受け継がれてきた重厚なドアや窓辺を彩るアンティークの品々が目を惹きます。どの家や家具にも家族の思い出や小さな歴史が刻まれておりそれが人々の暮らしに温かみと深みを与えているようです。モノを受け継ぎ、手入れをしながら使い続ける精神は生活の随所に根付いています。その価値観が美しい街並みを作り奥行のある豊かさを築いています。
古い家に住む、変わらない景観を慈しむ

日本人に人気のあるコッツウォルズ地方の小さな村、Stanway(スタンウェイ)。優に200年以上は経過している家々の内部は快適に改装されていますが、外観を損なわず建築当初の美しい姿を見せています。
村にお店は一軒もないので観光客の視界から外れいつも静か。観光ルートに乗っている町、Broadway(ブロードウェイ)の近くなのでお買い物や食事はそちらで済ませ静かにコッツウォルズの村を楽しみたい方にお薦めの場所です。

お洒落なファサードを拝見し、どのような方がお住まいなのかしらと想像が膨らみます。

“VICARAGE”と書かれた古い表札が残っていることから、この家が元は牧師館だったことが分かりました。村の牧師館だった歴史もこの家の価値のひとつになっています。古い建物が残る美しい村はコッツウォルズに限らずイギリスのいたるところで見ることができます。イギリス人の家に対する考え方が美しい景観を守っています。
アンティーク探訪 1830年以前の手仕事

旅の醍醐味のひとつは何と言ってもアンティークショップを訪ねることです。どこに行っても必ず”Antique”と書かれた看板を掲げたお店に出会えます。

概ね100年を経過した品をアンティークと、50年代以降のものをコレクタブルと呼称を変えて区別していますが実際線引きは曖昧です。以前イギリスのアンティークディーラーから正確に言えば1830年以前のものをアンティークと呼ぶと聞いたことがあります。1830年という年代はジョージアンからビクトリアンに変わる節目の時。ジョージアン時代に作られたものには手仕事が多いことからさらに価値が増すと聞きました。

アンティークショップでは価値の深いものから普段使いに惜しげなく使えそうなものまで様々なジャンルの品々を手に取ることができます。オーナーからそれぞれの歴史的背景の話を聞けることもショップ探訪の楽しさのうちです。
ロンドンでも毎週何処かしらでアンティークマーケットを開催しているので事前に日程を調べて出かけることもお薦めです。
Antique Market in London:
https://www.visitlondon.com/things-to-do/shopping/market/antiques-market
古書を復元してくれるバースの書店

バースの有名なブックショップ『Bayntun』。こちらは古書を復元してくれる本屋さんとして有名です。

修復の過程では表と裏の表紙の色から文字の形まで依頼者と職人の間で綿密に打ち合わせがされます。

19世紀創業以来変わらない工程を熟練した職人たちが手作業で行います。機械に頼らず熟練の手によって蘇った書物は新たな命を吹き込まれ次世代へ受け継がれていきます。

完成した本。
スマートフォンの普及によりペーパーレスが奨励される昨今、日本では書店が激減していると聞きます。世界情勢に関わらず我が道を行く。『Bayntun』では物を大切にし、長く愛用するというイギリス独自の文化や精神性を肌で感じることができました。
Bookshop(書店)としても見ごたえのあるお店なのでお薦めです。
『BAYNTUN』
https://www.georgebayntun.com/
古き良きモノを循環させる工夫、夏のカーブーツセールへ行く

イギリス人の断捨離は不要なものを必要な人へ譲ることから始まります。
家庭で使われなくなった品を車に積んで気軽に参加できるカーブーツセールはいつもお祭のような賑わいがあり掘り出し物の宝庫でもあります。モノを循環させるという合理的なリサイクル精神から生まれたイギリスならではの夏のイベントです。

出品されているお品によってファミリーヒストリーが垣間見えたり、お店の人たちと気軽にお喋りしたりできることもこのイベントの楽しいことのひとつです。
チャリティショップに見るチャリティ精神
モノを捨てないで循環させるという発想にボランティア精神が加わり生まれたチャリティショップ。不要品を無償で寄付し、それらに値段を付けて必要な人々へ販売。売上は経費を差し引いて、すべて寄付することがコンセプトです。

写真の『Oxfam(オックスファム)』は1942年に発足し、以来貧困と不正を根絶するために慈善組織活動をしています。ボランティア精神旺盛なイギリス人たちに支えられ活動を広げています。

『Oxfam』を見習い次々と類似ショップが誕生しました。不用品と一言で言えないほど素敵なお品を安価に入手できるお店として人気を博しています。

写真はデボン州の『Totnes(トットネス)』のチャリティマーケット。5月から9月の間、毎週火曜日に開催されます。”Elizabethan Society(エリザベスソサイエティ)”というチャリティ団体が主催し、アンティークからハンドメイドの作品、フードまで楽しいお品が並びます。こうした取り組みは、単なるリユースの枠を超え、地域コミュニティのつながりや互いに助け合う温かな文化を育んでいます。売上は寄付されるとのことなので私たちも沢山お買い物をしてしまいました。
旅の最後に
イギリスを訪れるたびに感じる奥行のある豊かさの秘密は古いものを大切にするという英国人の考え方にあるのではと思います。
彼らにとって、ものを譲る・受け取るという行為は、思い出や物語までも次世代へ手渡す大切な営みとなっています。また、チャリティマーケットやアンティークショップを訪れるたびに、新しい出会いや発見が生まれ、訪問者はその土地の空気や人々の心の豊かさに触れることができます。イギリスのリユース文化は、単なる資源の有効活用にとどまらず、人と人とを繋げる優しい循環の輪でもあるのです。