”Garden Lovers”(もう一つの部屋としての庭づくり)
イギリスを訪れる楽しみの一つ”庭めぐり”
イギリス人の庭好きには定評があります。彼らにとって庭は部屋からつづくアウトドアリビング、もう一つの部屋なのです。広い土地を所有できる田舎はもとより、ロンドンのような都会でも空間があれば花を植え木陰を作るために木を育てます。
季節を問わず英国では庭を楽しむことができますが、一番美しいのは5月から8月です。
イギリス中が花で溢れるといっても過言ではありません。
英国を訪ねる楽しみのひとつは何といってもお庭巡りです。今回はシンプルなユニークさで心に残った庭を紹介いたします。
ケント州ダンジネスの海岸に建つ”プロスペクトコテージ”の庭園
イギリスの南東部、イーストサセックス州のライの町から車で15分ほど。美しい小石の敷き詰められた海岸に到着。
この小石の上に植物を植え育て花を咲かせた『プロスペクトコテージガーデン(Prospect Cottage Garden)』を紹介します。
海辺の猟師小屋を買い取り、プロスペクトコテージ(Prospect Cottage)と名付けて家の改修と庭づくりを始めたのは、20世紀のイギリス文化で最も影響力のあるアーティストの一人、映像作家のデレクジャーマン(Derek Jarman)でした。1986年から1994年に亡くなる直前まで、ここで暮らしガーデニングに励みました。
流木や廃材のオブジェと自然が一体となったアートな庭
私が初めて訪れたのは花の無い真冬でした。庭のあちらこちらに無造作に配置された流木や廃材で作られたオブジェが、この場所が特別であることを物語っていました。海岸から吹き寄せる強い風の中で、庭は灰色に見えたけれど、家と周囲の景色が一体になってアートな雰囲気を作っていました。
華美なものは何もなく自然と一体になった空間です。
ガーデナーとして大切な資質は、根気よくつづけること
彼が庭づくりを始めた時、近隣の人々は砂利だらけの土地で花が育つと考えてもいませんでした。庭の土壌改良から植栽まで、根気よく続けられることがガーデナーとして一番必要な資質のように思います。
夏の庭。ハマナスとサントリーナが溢れるほど咲いていました。8年足らずの間に小石だらけの土地に花を咲かせたデレクジャーマンに脱帽です。
私の庭の境界線は、地平線
彼が最期の時間を過ごした庭からダンジェネス(Dungeness)の原子力発電所が見えます。
“My garden’s boundaries are the horizon.” 私の庭の境界は地平線だと考えて庭づくりを続けた彼にとって発電所の建物も庭の景色の一部でありオブジェだったのかもしれません。
もう一つの部屋として、家から続く庭
ジャーマンのプロスペクトコテージのあるダンジェネスから、ライハーバーへ続く一帯は広大な野鳥の自然保護区です。また気候温暖なためリタイアした人々が数多く暮らしています。
その一角に住む知人からオープンガーデンの招待状が届きました。彼らはデレクジャーマンの庭に感動し、退職後何年もかけて小石の庭に花を咲かせました。
住み始めた当時の庭。
現在の庭。
イギリス人にとってのガーデンは、もう一つの部屋として家から続きます。夏は家の中よりここで過ごす時間の方が長いそうです。
デレクジャーマンの庭に感銘を受けた人たち
デレクジャーマンが生涯の最後に見せてくれた自然と共存するアート、ナチュラルガーデンは私たちの心に勇気と希望を与えました。感銘を受けた人々の中には作家のクリストファーロイドや園芸家のベスチャトーも含まれています。
園芸は根気のいる仕事です。
地面に絵を描くように植物を配置し、時間をかけて育てる楽しさは言葉に尽くせません。同じように手をかけても反抗して花を咲かせない植物に出会うたびにガーデニングの奥深さを感じ、まだ道は先に続いていることを実感します。