英国のオーガニックワインを楽しもう《Discovering English Wine》

英国におけるオーガニック(有機栽培)農法の認識及びオーガニック食品や飲料への人々の関心は近年ますます高まっています。
ファーマーズマーケットではもちろん、近所のグロッサリーストアー(食料品店)、大手のスーパーの棚でも多くのオーガニック食品を見かけることができます。

オーガニック農法って?

オーガニック農法(有機農法)とは、その国のオーガニック認定組織が指定した以外の農薬や化学的に合成された肥料、及び遺伝子組み換え技術を使わない農業形態などを指す言葉で、太陽・水・土地・そこに生きる生物を含めて自然が持つ本来の力を生かした農法です。
自然との調和を図ることで生物多様性を促進し、それが結果として自然の害虫防除を促したりもします。

  • 残留農薬のリスクが低い
  • 畜産では抗生物質や成長ホルモンの投与の不使用など

といった「安全性」や「健康」を考えての視点からも近年はオーガニック農法で生産された食物を選ぶ方も多いかと思います。

オーガニック認証マークについて

オーガニックと言っても、定義や基準は国ごとに異なります。日本では「有機JAS規格」という農林水産省が定めた基準が存在します。
ここ英国でも幾つかの認証機関があるのをご存知でしょうか?

認証機関例:

  • Soil Association Certification Ltd:英国でオーガニック商品というとこの有機認証マークが最も認知度が高いかと思います。
Soil Association Certificationのロゴマーク
  • Biodynamic Association Certification:バイオダイナミック農法の認証機関         

その他にも

  • Organic Farmers and Growers CIC
  • Organic Food Federation
  • Quality Welsh Food Certification Ltd (ウェールズの認証機関)
  • OF&G (Scotland) Ltd (スコットランドの認証機関)

などが挙げられます。

オーガニックワインとは?

オーガニックワインとは法律で定められた有機基準に認証された製品で、有機ワインを生産するには、

農薬の使用
土地管理
保存および貯蔵

を含む厳格な要件を満たす必要があります。

例えば、農薬の使用についての例を挙げると、EU法で許可されている約300種類の農薬のうち、オーガニック(有機)基準で認められた天然由来の成分から作られた20種類のみの使用が認められています。

また、Soil Association機関の有機基準では、ワイン醸造における二酸化硫黄(SO2) の使用量に厳しい規制を設けています。ワインに添加できる二酸化硫黄の量だけでなく、醸造工程後にボトル内に残留する遊離二酸化硫黄のレベルも制限しています。

【参考】
二酸化硫黄は酸化防止剤として、また殺菌剤として、ワインで最も一般的に使用される添加物のひとつです。ジュース、ドライフルーツ、缶詰飲料といった食料にも使われています。
二酸化硫黄は気体
亜硫酸は二酸化硫黄を溶かした水溶液(ワイン)の中に存在する酸
亜硫酸塩は亜硫酸を中和した際に生成される塩のことで、どれも酸化防止剤や殺菌剤としての効能は同じです。
ワインに含まれている亜硫酸は非常に低濃度、法律で定められた人体への影響がない量の使用に抑えられていますが、一部の人々にはアレルギーや不耐性を示し、頭痛やその他の不快な症状を引き起こすこともあるといわれています。

ナチュラルワインとオーガニックワインの違いは?

この10年ほどで世界的ブームとなっているナチュラルワインですが、オーガニック農法栽培やバイオダイナミック農法によって生まれるワインを包括的に指す言葉としてよく用いられています。
ナチュラルワインには法的基準や定義が存在しないので「これがナチュラルワインだ」と簡潔にお伝えできないのですが、多くのナチュラルワインは農薬を使用せず栽培されたブドウで、発酵過程でもブドウの天然酵母を使い、酸化防止剤も少量あるいはまったく使用しないといった方法で作られています。

英国でもナチュラルワインは大人気で、多くのワインバーやレストランでも提供されています。
また後日、英国のナチュラルワイン生産家も含めたご紹介をさせていただきますね。

英国でオーガニックワインを作る

ワイン作りは「ブドウの栽培」が大切です。オーガニック農法でワインを作るとなると、気候や土地など様々な環境の条件が先ず気になるところ。オーガニックワインが生まれる多くの場所は天候に恵まれているところが多いのですが、ここ英国では温暖化と共に”ワイン栽培に向いた気温”に恵まれるようになってきたものの、雨も多く変わりやすい気候の英国のブドウ畑は、より乾燥した気候の地域に比べてはるかに高い病害リスクに直面しています。
限られた農薬しか使えないなどの基準があるオーガニック栽培でのブドウの栽培は、雨や湿気などから発生するカビや病気の被害を受けやすく、大量発生した害虫に対処できないなど課題を常に抱えています。

こういったリスクを抱えながらも、オーガニック農法に転換しようと試みる栽培者、オーガニック認証マークは取得していないものの、一部のブドウ畑はオーガニック農法を取り入れるなど、オーガニックワインを作る動きは確実に増えてきています。

数々の受賞と認知度を持つ英国オーガニックワイナリー
『オクスニー・オーガニック・エステート(Oxney Organic Estate)』

木々の温もりが美しいオフィス兼醸造所

今回はオーガニックワインを作るワイナリーの一つ、『オクスニー・オーガニック・エステート(Oxney Organic Estate)』をご紹介します。

Oxney Organic Estate
Hobbs Lane, Rye, East Sussex, TN31 6TU
https://www.oxneyestate.com

オクスニー・オーガニック・エステートは、イースト・サセックス州のライの街からも車で15分に位置するブドウ園、兼ワイナリーです。(ライの街については『中世の街並みで魅力のライ(Rye)の街でワインを楽しむ』も、ぜひご覧になってください)

このワイナリーは、元国際PRコンサルティング会社を経営していたクリスティン・シルテヴィク(Kristin Syltevik)と、元プロゴルファーのポール・ドブソン(Paul Dobson)が2012年に大規模な複合有機農場として設立し、クリスティンがワイン部門を、ポールが畑作と畜産部門を担当しています。

クリスティン・シルテヴィクさんとポール・ドブソンさん

有機農場でのオーガニックワイン作り

野生のハーブや花々が美しく、そして元気に育つ自然豊かな土地にあったグレードII指定の四角いオースハウス(oast house・ビール醸造に使用されるホップを乾燥させるために作られた伝統的なイングランドの建物)を改装した醸造所でワインが作られています。

自然豊かな土地でワインが生み出される

外から見ると木々の温もりが美しい醸造場ですが、最新の設備を整えて製造されています。質の高いワインを生み出すためのワイン作りの基盤となる最新の技術を取り入れつつも、自然発酵を重視し、清澄剤・濾過・二酸化硫黄の使用は最小限に抑えています。また自社管理の低木林から調達したウッドチップを燃料とし、醸造工程に必要なバイオマス熱も自給するなど、サステナブル(Sustainable)で低介入の醸造方針を貫き、その土地の生態系や土壌の健康状態に力をそそいだ”穏やかで自然なアプローチ”のもとワイン作りが行われています。

ワインメーカーのSalvatore Leone氏とクリスティンさん
トレードティスティングデーにて
最新の設備が整う醸造所

設立から現在まで

2012年に元から有機農場として使われていた4エーカーの土地をブドウ栽培用に整備し始め、念入りな計画のもと、トンプソンと名付けた畑にシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの苗木を手作業で植え、オーガニックワイン作りへのプロジェクトがスタートしました。
2013年には新たな8エーカーの畑にシャンパーニュ用ブドウ3品種を植樹し、3年目には少量ですが果実を実らせるようになりました。
2015年には好評を得たワイナリー初2014年産の”スティル・ロゼ”をリリース
3回目の収穫を迎えた2016年には、”クラシック2016年イングリッシュスパークリングワイン(CLASSIC 2016 ENGLISH SPARKLING WINE)”及び”スパークリン・ロゼ”を作り始め、
2015年”スティル・ロゼ”がUKVAアワードでトップトロフィーを獲得しました。

ブドウの木の新芽

順調に進んでいたワイン作りですが、2017年には春の霜による被害で70%のブドウの成長に影響を与えることに。ただ、翌年の2018年はイングランドにとって世紀のヴィンテージの年となり、最高品質のブドウの収穫が実現。ブドウ畑の面積を75%さらに拡大し、英国で高い可能性を示すピノ・ノワールの早生品種「ピノ・プレコーズ」を植樹しました。

スパークリング&スティルワイン共に作られている

2019年にはスパークリングワインの”クラシック2016″がインターナショナル・ワイン・チャレンジとオーガニック・マスターズの両方で金賞を受賞、そして初の海外輸出など飛躍的な年を迎えます。その他にも”クラシック・スパークリング2019″はデカンター・ワールド・ワイン・アワードとソムリエ・ワイン・アワードで銀賞を受賞。
“シャルドネ2022″はワインGBで銀賞、デカンター・ワールド・ワイン・アワードで銅賞、”ブラン・ド・ブラン 2019″もデカンター・ワールド・ワイン・アワードで金賞を。
2025年のワインGB アワードにて”ピノ・ノワール(Woodhouse Pinot)”が銀賞と、数多くの賞を受賞し、またウェイトローズでの小売り販売が始まるなど素晴らしい成功を収めています。

数多くの賞を受賞

ツアーに参加しよう

オクスニーでは、5月から10月までは毎週土曜日の午前11時と午後3時にブドウ園ツアーを開催しています。午前11時のツアーは豪華なピクニックランチバスケット付きです(午後3時のツアーはオプション)。11月から4月の冬季は、午前11時のみとなり、屋外での時間を短縮し、屋内での試飲や試飲後の温かいランチ(スープ、パン、シャルキュトリーなど)を提供しています

試飲+ランチ付きツアー: £55
試飲とツアーのみ: £35

夏はブドウ園が見える外での試飲とランチが楽しめる

ツアーと別に営業時間中(火~土曜 10:00~16:00)£12で4種類のワインを含むワインフライトも楽しめます。食事を希望の方には。ここの農園産の鹿肉シャルキュトリー(時折イノシシ肉も)を含む盛り合わせプレートも注文可能とのこと。

ワインフライト4種

またオクスニーでは2名から最大14名までが宿泊できるセルフケータリング宿泊所も提供されています。ツアーや試飲付きのパッケージもあるようです。

シャワー&トイレ付きのShepherd’s hut(シェパードハット)スタイルの宿泊施設
中はとってもモダンで可愛らしい

詳細は、オクスニー・オーガニック・エステートのウェブサイトをご覧ください。

その他のオーガニックワインを作るワイナリー&ヴィンヤード

全てではありませんが、オーガニック農法でワインを作る英国のワイナリーをいくつかピックアップしてみました。一部のワイナリーはツーリストも受け入れています。
個々の情報は州ごとのワイナリー&ヴィンヤードをご紹介する機会に、もう少し詳しくご案内させていただく予定です。

  • Albury Organic Vineyard
    Silent Pool, Shere Road, Guildford, Surrey, GU5 9BW
    サリー州にあるオーガニックヴィンヤード
    冬季は休みがありますが、週末はティスティングルームにてワインフライトを楽しめます。チーズ&ワインなど日によって様々なイベントも行っています。有機認証のワインは今のところ一部のみ。
  • Forty Hall Vineyard
    Forty Hall Farm, Forty Hill, Enfield, London, EN2 9HA
    中世以来ロンドン初の商業規模のブドウ園です。地元住民によって運営、管理される4ヘクタールのブドウ園では、Davenport Vineyardsの有機ワイン醸造家ウィル・ダベンポートとの提携で有機認証のスティルワインとスパークリングワインを生産しています。
    非営利の社会企業として、ワイン販売による収益は、ロンドン北部エンフィールドの地域コミュニティに向けた貴重な「エコセラピー」健康・ウェルビーイング事業の実施に役立てられています。
  • Davenport Vineyards
    Limney Farm, Castle Hill, Rotherfield, East Sussex, TN6 3RR
    1991年に創設でケント州とイースト・サセックス州の間に位置する2つの区画にブドウ園を、イースト・サセックスの Rotherfieldに醸造所を構えています。全て有機栽培されたブドウでワインが作られています。
  • Sedlescombe Organic Vineyard
    Hawkhurst Road, Sedlescombe, Robertsbridge, East Sussex
    TN32 5SA
    イースト・サセックスに1979年にロイ・クックによって創設されたヴィンヤード。
    英国バイオダイナミック協会による有機認証、またはバイオダイナミック認証を取得したワインが作られています。
  • Silverhand Estate
    Luddesdown Road, Kent, DA13 0XE
    ケント州にある英国最大の単一有機ブドウ園(900エーカー以上)。金~日曜日にはツアーも提供されています。
  • Limeburn Hill Vineyard
    Westfield Farm, Limeburn Hill, Chew Magna, Somerset, BS40 8QW
    イングランド南西部で唯一のバイオダイナミック農法を採用するブドウ園。約3000本のブドウの木が手作業で植えられ、8品種(赤3種、白5種)のブドウを生産しており、全てバイオダイナミック認証を取得しています。
  • Quoins Organic Vineyard
    Bradford-on-Avon, Wiltshire, BA15 2PW
    バースから車で30分ほどの場所にあるオーガニックヴィンヤード。
  • Domaine Hugo
    Botleys Farm, Downton, SALISBURY, Wiltshire, SP5 3NW
    ウィルトシャー/ハンプシャー州境、有機栽培およびバイオダイナミック農法認証のワインの作り手。
  • Ancre Hill Estate
    Ancre Hill Estates, Rockfield Rd, Monmouth NP25 5HS
    ウェールズにあるバイオダイナミック&オーガニックワインの作り手 のワイン達。
    カナダやシンガポール、香港などにも販売代理店があります。

ぜひこの機会に、有機農法で栽培されたブドウで作る英国のオーガニックワインをお試しになってください!

大島理恵子

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英国サリー州在住 英国メディカルハーバリスト/アロマセラピスト/リフレクソロジスト 1994年英国に移住。 ロンドン市内のセラピールーム及び癌センターで施術...

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