イギリス映画談
~英国紳士は”超過激”?『キングスマン』~
英国紳士といえば、完璧仕立てのスーツに身を固め、傘を手に帽子を頭に街を姿勢よく歩く。勿論雨が降ってもあわてることはなく、傘はささず、上品で教養豊かというのがそのイメージになるだろうか?
その英国紳士に“超過激”を投げかけた映画が2015年に公開された「キングスマン」だ。宣伝文句は“キレッキレの超過激アクション!”というものだった。スパイ映画の常識をぶっとばして全世界で大ヒット。そのシリーズ3作目の最新作が12月24日(金)に公開される。その宣伝惹句は“始まりも、超過激”だ。
”キングスマン”シリーズ
日本題名に採用されたファースト・エージェントの通り、今や有名になっているこのスパイ組織の誕生を描くのがこの作品だ。
思い起こせばキングスマンシリーズの第一作は、いかにも英国紳士然としたハリー(コリン・ファース)に手引きされて、労働者階級らしい街の不良少年エグジー(新人のタロン・エガートン)が、組織の一員として独り立ちしていく物語だった。既に組織としては確立し、伝統を引き継いでいくメンバーたちの現代のお話しだったのである。
第2作の「キングスマン:ゴールデン・サークル」もエグジーとハリーが活躍する続編だった。
『キングスマン:ファースト・エージェント』プロローグ
新作「キングスマン:ファースト・エージェント」は、シリーズ3作目ではあるものの、キングスマン組織の立ち上げの舞台へさかのぼる。時は1902年。中近東の英国軍駐屯地に一台の車がやってくるところから始まる。負傷者が多く出ているところに、赤十字の医薬品を届けようとしてある家族が訪ねてきたのだ。ロレンスが活躍した時代より少し前、しかしファーストシーンは、今にもロレンスが現れても不思議ではなさそうなアラビアの風景だ。この最初のエピソードが、何とも感動的。家族は両親と5歳前後の男の子の3人、仲の良さそうなオックスフォード公の家族だ。
”キングスマン”シリーズの裏方
キングスマンシリーズは、原作がマーク・ミラーのイギリスの漫画・グラフィックノヴェルだが、その完成にはマシュー・ヴォーンのアイディが取り入れられていたという。
マシュー・ヴォーンはシリーズ全3作の製作、脚本、監督を務め、この「ファースト・エージェント」には原案という肩書も加わっている。彼は1998年の「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」の製作で映画のキャリアを始めている。2004年には007になる前のダニエル・クレイグ主演の「レイヤー・ケーキ」で監督デビュー、その後「キック・アス」「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」等を製作・監督してきた。どちらかといえばアクション作品が多い。テンポよく、分かりやすく物語を進める監督だ。それが超過激に爆発したのが「キングスマン」の一作目といえようか。そしてこの3作目を見るとドラマに沿って感情をじっくり見つめ、見る者を感動させる描写も巧くなったなあと感じさせる。初めのエピソードは物語の原点として、その巧さが十分活かされていた。
『キングスマン:ファースト・エージェント』時代は1914年
物語は12年後に飛んで1914年、世界には暗雲が立ち込めようとしていた。世界制覇をもくろむある勢力が台頭しつつあったのである。イギリスの貴族オーランド・オックスフォード公はこうした状況に心を痛めていた。もうじき18歳になろうとする息子コンラッド・オックスフォードのもとに、従兄弟であるロシアの貴族フェリックス・ユスポフから手紙が届き、ロシアの宮廷で力を伸ばしつつあるラスプーチンに注意しろと知らせてくる。
この作品の面白いところは、歴史に名を遺す有名人が多く登場することであり、実際に起こった事件が巧みに物語に取り入れられていることだ。
主人公たるオックスフォード公家族は純然たる作者の創造人物だが、登場する実在の歴史的有名人は次のような人たちだ。
ロシアの怪僧グリゴリー・ラスプーチン、ロシア貴族フェリックス・ユスポフ、英国国王ジョージ5世、ロシア皇帝ニコライ2世、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世、女スパイのマタ・ハリ、第28代アメリカ合衆国大統領ウッドロウ・ウィルソン、ヴィルヘルム2世や後にヒトラーに仕えたエリック・ヤン・ハヌッセン、英国の陸軍元帥キッチナー伯爵などである。
このなかの英国国王ジョージ5世、ロシア皇帝ニコライ2世、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は従兄弟同士であり、映画では一人の俳優トム・ホランダーが3人を演じているのも面白い。
さらに実際に起こった事件では、サラエボ事件が挙げられる。オーストリア帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の甥で皇位継承者であったフランツ・フェルディナンド公が暗殺された事件が、少しフィクションを加えた上で上手く物語に取り入れられている。
ラスプーチンは踊る
映画のラスプーチンは圧倒的な印象を残す。リス・エヴァンスという俳優が演じていて、彼は多くの映画にも出ているのだが、残念ながらこれまでの作品では印象に残らなかった。しかし今回はその怪異な髭面と、圧倒的な踊りで強く記憶に焼き付いた。ただ、その強い役への扮装で、俳優リス・エヴァンスの素顔が分かるかという心配はあるが。そして踊り、いや正確にはアクションである。ロシアはバレエで有名だが、そこにコサックダンスの要素を加え、スピードとジャンプ力で踊り(暴れ)まくる。ロシアのパーティ会場で初めて会ったシーンでは、ラスプーチンはオックスフォード公に”君はウエイターか、英国人か?”と声をかけ、オックスフォード公は”君は僧侶か、バレエダンサーか?”と返している。更に毒を盛られても死なないラスプーチンは、反対にオックスフォード公の傷を手品のように直してしまうなど正に怪僧にふさわしい活動ぶり。
世界を守るためKing’s Manの創設
1914年と言えば第一次世界大戦が始まった年。オックスフォード公の息子コンラッドは18歳になるや否や、親の反対を押し切り志願して出征してしまう。進んで最前線の塹壕戦で戦うのだが・・・。
“始まりも、超過激”と、アクションにクローズアップされがちだが、超過激なアクションの裏には、はじめのエピソードに続き父と息子の絆がしっかり描かれている。さてさて、この後ドラマはこれからどのように展開していくのか。第一次大戦後、スパイ組織キングスマンの創設に向けてオックスフォード公の活動は超過激に続く。
オーランド・オックスフォードを演じるのはレイフ・ファインズ、彼はこの映画の製作総指揮も担当している。息子のコンラッドを演じるのはハリス・ディキンソン。親子二人で英国紳士とは何かをきっちり見せてくれる。
”Kingsman”はロンドンのサヴィルロウにある紳士服テーラーの名前、ここがスパイの秘密本部でもあるのはご存知の通り。1、2作目の原題は「Kingsman:The Secret Service」「Kingsman:The Golden Circle」と頭にKingsmanが付いていたのだが、3作目の原題は「King’s Man」となっている。今回の映画では、国王ジョージ5世と共に国を守ろうとするキングスマン組織の行動目的に沿ったものにしたのだろう。
2時間11分と少し長めの映画ながら、だれる部分は何処にもなく、むしろワクワク感一杯に楽しむことができる。超過激におススメ!!
ぜひ劇場で、このドラマのエピローグを堪能していただきたい。
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