写真で巡るイギリスの旅
~シングルモルトの島々《後編・アイラ島》~

前回のスコットランド、アイランズを紹介した前編に引き続き、後編はシングルモルトウイスキーの宝庫、アイラ島とアイラ島の蒸留所を紹介しよう。

キンタイア半島からアイラ島へ

キンタイア半島の付け根に近い街、ケナクレイグから乗ったアイラ島行きのフェリーは、早朝にもかかわらず乗客でいっぱいだ。ラウンジに座って、うとうとしているうちにアイラ島に2時間で到着する。フェリーが到着したアイラ島のポートエレンは、インフォメーションセンターもない小さな港町だった。

アイラ島の港ポートエレンと到着するフェリー
ポートエレン アイラ島の船着き場
ISO 200| 絞り8 | 焦点距離24mm | シャッター速度1/60

地図を眺め、とりあえず島の中心地ボウモアに向かってみる。起伏のない道がどこまでも真っ直ぐ続き、ところどころ道の両脇が沈んで水がたまっているアイラ島特有のピートでできた湿地地帯があった。
アイラ島の産業はウイスキー造りと観光。まさにウイスキーを作るためにあるような島だ。島全体が海藻成分オークを含む厚いピートが堆積している。
このウイスキーを眠らせる熟成庫は、海辺に建てられ常に海風にさらされている潮風とヨードの香りが強烈なウイスキーはこんな環境で作られていた。

地中から取り出されたピートが湿地の溝の両脇に積まれている
地中から取り出したピート
ISO 200 | 絞り8 | 焦点距離24mm | シャッター速度1/60

アイラ島は人口およそ3,400人の 600キロ平方メートルほど の島だ この島を訪れる観光客の多くは蒸留所をめぐるウイスキーフアンと言っても過言ではない。蒸留所は島のあちこちに分散している。見学の時間も限られているので、全てをくまなく見るためには1週間は覚悟しなければならないであろう。

ボウモアの街中に建つキラロウ教会の外観
ボウモアの高台に建つキラロウ教会
ISO 200| 絞り8焦点距離105mm | シャッター速度1/125

海抜0mに建つ蒸留所、ボウモア(Bowmore Distillery)

ボウモアとはゲール語で「大いなる岩礁」を意味する。この蒸溜所は島一番の大きな湾に面した海抜0m地帯に立ち、その名のように大西洋が荒れたときには打ち寄せる波しぶきの下に隠れてしまうのだ 。

夕陽に照らされた海岸に建つボウモア蒸留所の建物
ボウモアは海抜0メートルの蒸留所
ISO 200 | 絞り4 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/60

アイラ島のほぼ真ん中ともいえる場所に建つボウモア蒸留所 。ここのウイスキー造りは1779年の創立以来まったく変わっていない。大麦を発芽させる製麦作業 は、自社によるフロアモルティング。モルトマンと呼ばれる職人がおよそ8tの大麦を4時間ごとにスコップでかき混ぜるのだ。
しかし、最近は熟練の技能を必要とするモルトマンによる”フロアモルティング”から、機械化された”モダンモルティング”を行う専門業者(モルトスターと呼ばれる)に委託する蒸留所が増えている。自社で、フロアモルティングを行う蒸留所は、このボウモア蒸留所を含めて数えるほどになっていた。

蒸留所内でスコップを使い大麦をかき混ぜるモルトマン
大麦を4時間毎にかき混ぜるモルトマン

この後、麦芽はアイラ島特有のピートが溶け込んだ仕組み水で整えられ、ピートで焚きしめられて、ヘビーな酒質を生むストレート型ポットスチルで蒸留される。

ボウモア蒸留所のポットスチル
ストレート型ポットスチル
ISO400 | 絞り4 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/30

熟成は海抜0mの倉庫で10数年から20年以上かかる。試飲室でのテイスティングはハードで、少し薬くささを感じる癖のある味は、アイラモルト 全体に共通するものだ。ピートの中に含まれる香りがこの味に大きく影響している。

ボウモアウイスキーのボトルと大西洋
ボウモアウイスキーのボトルと大西洋
ISO400 | 絞り8 | 焦点距離24mm | シャッター速度1/60

》ボウモア蒸留所:https://www.bowmore.com/


【Amazonでボウモアウイスキーを探す!】

ボウモア12年 [ ウイスキー イギリス 700ml ]
¥3,980~

癖の強い風味だがファンの多いラフロイグ(Laphroaig Distillery)

ラフロイグは、ヨードピートと潮の香りを際立たせる重厚でクラシックな風味が特徴だ。蒸留所は島の南の海岸、ポートエレン港の近くに位置している。ここではアイラ島に自らのフェザーと海藻と苔を大量に含んだピートエリアを所有し、フロアモルティングから製麦 の工程を通した麦芽はじっくりとピートで焚きしめられている。その後発酵させ得られたもろみは、小さなスチルで蒸留されている。
その熟成には、海に直接面した倉庫で行われている。

海岸に建つラフロイグ蒸留所の建物
この海岸でヨードの強い香りが生まれる
ISO200 | 絞り8 | 焦点距離24mm | シャッター速度1/60

蒸留時に採取する原酒のタイミングを遅らせ、よりタールの風味を強めるなどの工夫がなさなされている。今まで飲んだシングルモルトの中でも最も個性的な香りだった。

ラフロイグ蒸留所の見学ツアーでポットスチルの説明を聞くシーン
大勢の観光客にモルト造りを説明する

強烈な香りは薬を飲んでいるような感じすらあったが、不思議なことにすぐまた飲みたくなる、そんな個性を持つシングルモルトウイスキーだ 。

ラフロイグ10年のボトル
強烈な個性のラフロイグ
ISO2400 | 絞り8 | 焦点距離24mm | シャッター速度1/60

チャールズ皇太子もファンというラフロイグ。正露丸のようなクレゾールと評されることもある。蒸留所に紋章が飾れている。

壁に掛けられた英国王室愛用のシングルモルトを記したプレート
英国王室愛用のシングルモルト
ISO2400 | 絞り8 | 焦点距離105mm | シャッター速度1/60

》ラフロイグ蒸留所: https://www.laphroaig.com/en/


【Amazonでラフロイグウイスキーを探す!】

シングルモルト ウイスキー ラフロイグ 10年 750ml 【正規品】
[ ウイスキー イギリス 750ml ]
¥5,422

ピートの香りが強く染みついたアードベッグ(Ardbeg Distillery)

アードベックの歴史は古く、1794年までさかのぼる。シングルモルトが秘密のウイスキーだった時代に、アードベックはすでに世界の偉大な蒸溜所の一つだった。一時閉鎖を余儀なくされたが、1997年の再開はアイラモルトの復活の最初の兆候であり、 アードベックはこの中で主要な位置を占めるとともにその恩恵を受ける蒸溜所にもなった。若い所長のスチュワート・トムソンとその妻のジャッキーに対する会社の信頼も報われている。彼女の知識とエネルギーは「蒸留所の看板」であり見学者の間にも人気がある。
ここのキルンは送風機がなく、そのためピートの煙がヘビーに染み着くという点で非常にユニークである。水源がピューテイーであるということも、アードベッグのタールようなフレーバーに大きな影響を及ぼしている。アードベックを愛する者の中には、りんごの木やレモンの皮のようなフルーティーさは、スピリット・スチルの再循環システムに由来するものだと信じる者もいる 。

海岸に建つアードベック蒸留所の全景
海岸に建つアードベック蒸留所の全景
ISO200 | 絞り8 | 焦点距離24mm | シャッター速度1/60

1980年の初頭に閉鎖されたアードベッグ蒸留所だが、1980年代の終わりには再稼働している。
ここのキルンは送風機がなくそのためピートの煙がヘビーに染み付くという点で非常にユニークであった 。

キルンをバックに撮影した試飲のアードベックウイスキー
キルンをバックに撮影
ISO 200 | 絞り8 | 焦点距離105mm | シャッター速度1/60

アードベッグのポットスチルから魅力的なウイスキー、しっかりとしていて、かつ暖かく癒すような食欲をそそる味わいのシングルモルトが作られている。

アードベッグのポットスチル
アードベッグのポットスチル

》アードベッグ蒸留所: https://www.ardbeg.com/en-int


【Amazonでアードベッグウイスキーを探す!】

アードベッグ 10年 箱入り [ ウイスキー イギリス 700ml ]
¥4,970

アイラ島で唯一ジンも手掛けるブルイックラディ(Bruichladdich Distillery)

ブルイックラディ蒸留所は、ロッホ・インダール (アイラ島のボウモアも面した湾)の北の海岸にある。
蒸留所の水は、隣りを流れるブルックラディ川の水を使っている。川の水は鉄分を多く含んだ岩から湧き出たもので、ピートの上を静かに流れてきたため風味深い味わいである。 長い間にわたってライトでありながらもしっかりとした麦芽風味が守られ、ほのかなパッションフルーツと海藻や塩を融合させた趣のある風味を楽しむことができた 。希釈するときに蒸留所の仕込み水を使用することとチル・フィルターをかけないことによって、その味わいが一層強められているようだ 。

ブルイックラディの建物
2001年に再開された蒸留所
ISO 200 | 絞り8 | 焦点距離205mm | シャッター速度1/125

ブルイックラディ蒸留所では2003年に瓶詰めの機械一式を設置したことにより、一層その味わいを深めることが可能になった。蒸留所は、1881年に建てられ1886年には改装 されている。1975年には蒸留所の拡張工事を経験しているが、現在も創設当時と当時と変わらない蒸留所の面影を残している 。

ブルイックラディ蒸留所の見学ツアーでポットスチルの説明を聞くシーン
ブルイックラディ蒸留所のポットスチル
ISO 400 | 絞り5.6 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/60

蒸留所のニックネーム「ザ・ラディ」を商品名にし、 蒸溜所の建物の塗装の色と合わせるために海の色である薄い青のラベルをつけた 。

ブルーのラベルがきれいなボトル
薄い青のラベルを付けたブルイックラディのボトル
ISO 200 | 絞り8 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/125

》ブルイックラディ蒸留所: https://www.bruichladdich.com/


【Amazonでブルイックラディウイスキーを探す!】

【正規品】ブルックラディ ザ・クラシック・ラディ [ウイスキー イギリス 700ml ] [ギフトBox入り]
¥5,155~

ピート感のない異色のアイラモルト、ブナハーブン(Bunnahabhain Distillery)

1881年に建てられたブラハーブンはアイラの蒸留所の中でも一番わかりにくいところに位置しているようだ。蒸留所の名称は、ゲール語で「河口」を意味するもので、ゲール語を母国語としないものにとってはとても難しい名前である。
この蒸留所ではアイラ島で唯一の純粋な湧水、石灰岩を通って湧き出た水をパイプで蒸留所に運び使っている。そのため、途中でピートを取り込まないので口当たりが軽く、香りもライトで「最も飲みやすいアイラ」と言われる異色のアイラモルトが生まれる。

海沿いに建つブナハーブンの蒸留所の建物
海沿いに建つブナハーブンの蒸留所
ISO 200 | 絞り8 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/125
タマネギ型をしたブナハーブンのポットスチル
ポットスチルは大きく、業界ではタマネギ型と言われた形をしている
ISO 400 | 絞り8 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/60
大西洋をバックに撮影したブナハーブンのボトル
アイラ島を代表する歌、ウエスタンリング・ホーム 「西の故郷へ海路を進む」の歌詞をラベルに印刷している
ISO 400 | 絞り8 | 焦点距離105mm | シャッター速度1/60

》ブナハーブン蒸留所: https://bunnahabhain.com/


【Amazonでブナハーブンウイスキーを探す!】

ブナハーブン 12年 [ ウイスキー イギリス 700ml ] [ギフトBox入り]
¥4,547~

フルーティーなウイスキーを造るカリラ(Caol ila Distillery)

カリラと発音される名前は、ゲール語で「海峡」を意味している。 ポート・アスケイグ港近くの入江にあり、スチルハウスの大きな窓からは海峡を渡るフェリーが、ぽっぽっと音をたてて海を横切る風景を見ることができる。
蒸留所が一番よく見えるのはフェリーからだ。1846年に創業した蒸留所、1970年代に改築された建物は、現在では時代の傑作として認められている。蒸留所は機能的で、かつ魅力的であった。

スチルハウスの窓から眺める海峡
スチルハウスの大きな窓からは、海峡を渡るフェリーが見える
ISO 400 |絞り4 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/60

蒸留所の仕込み水は、極めて塩分が強くミネラルを含んだ石灰岩から湧き出たものを使っている。
蒸留に使うポットスチルは、3つのストレートヘッド型のウォッシュスチルと、3つのスピリット・スチルが使われていた。

カリラの蒸留所ツアーでポットスチルの説明を聞くシーン
カリラのポットスチル
ISO 400 |絞り4 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/60

カリラのウイスキーは、フレーバーの非常に生き生きとした味わいで、麦芽の甘さ、フルーティーななかにも、芳醇な花の香りをまとったエステリーを伴うウイスキーだった 。

カリラ12年のボトル
試飲したカリラ12年
ISO 400 | 絞り4 | 焦点距離105mm | シャッター速度1/60

》カリラ蒸留所: https://www.malts.com/en-gb/distilleries/caol-ila


【Amazonでカリラウイスキーを探す!】

カリラ 12年 箱入り [ ウイスキー イギリス 700ml ]
¥5,248~

パンチ力の効いたシングルモルト、ラガヴーリン(Lagavulin Ditillery)

これまで紹介してきた蒸留所の名称は、スコットランドで使われてきたゲール語からくるものが多いが、ラガヴーリンという意味もゲール語で「水車小屋がある窪地」という意味だ。
ラガヴーリン蒸留所としての歴史は1816年の創業から始まるが、その創業以前の1700年代中頃に非合法の蒸留所として酒造りを行っていたころまで遡ることができる。

ラガヴーリン蒸留所の建物
1816年に遡る歴史ある蒸留所
ISO 200 | 絞り8 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/60

ブレンデッドウイスキーで有名な「ホワイトホース」のキーモルトウイスキーとして使われていた、ラガヴーリンのウイスキー。現在は、ブレンド用のウイスキーよりもシングルモルトウイスキーの比重が高くなり、こくがあってパンチ力の効いた重量級ボクサーのようなシングルモルトウイスキーを造っている。

ラガヴーリン蒸留所のポットスチル
洋ナシ型のラガヴーリンのポットスチル
ISO 200 | 絞り8 | 焦点距離20mm | シャッター速度1/125
ラガヴーリン16年のボトル
蒸留所代表作のラガヴーリン16年
ISO 200 | 絞り8 | 焦点距離105mm | シャッター速度1/125

》ラガヴーリン蒸留所:https://www.malts.com/en-gb/distilleries/lagavulin


【Amazonでラガヴーリンウイスキーを探す!】

ラガヴーリン 16年 箱入り [ ウイスキー イギリス 700ml ]
¥7,259~

スコッチウイスキーの中でも、シングルモルトウイスキー好きには聖地とも呼べるアイラ島。
ピート香の強いシングルモルトが多いが、蒸留所によって造るウイスキーには個性があった。
機会があれば、ぜひご自身で足を運んで蒸留所をめぐっていただきたいものだ。

春以降に再開されるアイラ島の蒸留所をめぐる現地ツアー(4~9月催行)もあるので、参考にご覧いただきたい。

辻丸純一

28,075 views

イギリスと出会ってから50年過ぎました。私の人生の節目に必ずイギリスが絡んで来ました。今回も写真と映像参加せていただく事になり感謝、感謝です。 日本よりイギ...

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧