イギリス映画談 ~一度は戻ってみたい若い頃の体に『アーサーズ・ウイスキー』~

2025年1月17日公開

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
右からジョーン(パトリシア・ホッジ)、スーザン(ルル)、リンダ(ダイアン・キートン)
©AW Movie Production Ltd 2024

不可能だと分かっているのでかえって憧れてしまうのは、若い時の自分の体に戻ること。
戻るのは肉体のみ、頭の中は今のままで。若い時の失敗を覚えていて、繰り返さないのが重要だ。どこまでできるかを自覚しつつ、その範囲内でできる限りに体を動かす自分を、冷静に見る自分がいることも重要だ。
勿論こんなことを夢見るのは若い人ではない。ある程度年のいった、人生の酸いも甘いも一応知った人たちだ。そんな夢を幸運(?)にも手に入れた女性3人の映画がやってきた。

今まで失敗ばかりのアーサーの発明

嵐の夜、イギリスの郊外の掘立小屋のようなところで趣味の発明に熱中していたアーサーは、発明品が出来上がった喜びに外に出た瞬間、雷に打たれて死んでしまう。こうして我々に顔を見せるとすぐにアーサーは姿を消し、彼の葬儀が次の場面だ。
その後、彼の妻ジョーンと二人の友人リンダとスーザンが掘立小屋みたいな納屋を掃除していると、ウイスキーボトルを発見する。納屋から少し離れた本宅の居間に戻り、グラスに1杯ずつ飲むと疲れのためかそこで眠ってしまう。

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
アーサーのウイスキーを飲む、右からスーザン、リンダ、ジョーン
©AW Movie Production Ltd 2024

翌朝、目が覚めるとお互いの顔を見てびっくり。そこには若い頃に戻った3人がいた。アーサーの発明は若返りできるウイスキーだったのだ。アマチュア発明クラブの会計を担当していたアーサー初の成功発明か?

若い自分と今の自分、繰り返しながら物語は進む

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
若い体の、右からリンダ、スーザン、ジョーン
©AW Movie Production Ltd 2024

若くなって何をするかをカフェに出かけリストにしていると、徐々に元の体に戻ってくる。若返り薬の効果持続時間がそれほど長くないと知ったが、20代に戻るという夢を十分に楽しむため、今どきのファッションやメイクをまとって夜はクラブに出かけていく。本当に若い人たちに交じって、トラボルタ風ダンスを楽しみ、お酒を飲み過ぎてしまう。3人の中で唯一結婚をせず独身をとおしてきたスーザンは、クラブのDJとテキーラを何杯も飲みあい、ソファーで寝てしまう。朝になって、元の姿に戻ったスーザンを見てDJは驚く。
残り少なくなったウイスキー、最後の1杯を飲み干しシャーウッドの森(ロビン・フッドで有名ですよね)に出かけてゆく。そこにベネズエラ人の屋台があり、オーナーのジェームズと出会う・・・。

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
屋台のオーナー、ベネズエラ人のジェームズと話す若いスーザン
©AW Movie Production Ltd 2024

その後、ジョーンが最後のもう一ビンを見つけ、貯金等を下ろして3人でラスベガスに出かけようと誘いに来る。

映画の出演者たち

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
若い女性用ファッショんの現在の3人、右からジョーン、リンダ、スーザン
©AW Movie Production Ltd 2024

アーサーの妻ジョーンを演じるのはパトリシア・ホッジ。1946年生まれのイギリス人、主に舞台で活躍してきた女優。映画でも英国アカデミー賞の主演女優賞を獲得したことがあるが、残念ながらその作品は日本で公開されなかった。いかにもイギリス人らしいノーブルな印象の人だ。

リンダはダイアン・キートンが演じている。パトリシアと同じ1946年生まれのアメリカ人。1970年代から活躍し、今も第一線で活躍、作品が途絶えない息の長いハリウッドスターだ。

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
ラスベガスで出会ったドラァグクイーンとリンダ
©AW Movie Production Ltd 2024

スーザンを演じるのがルル。これにはちょっと驚いた。1960年代に歌手としてデビュー、1967年には映画「いつも心に太陽を」に出演、シドニー・ポワチエと共演し、映画の主題歌も歌い大ヒットとなった。1974年には「007/黄金銃を持つ男」の主題歌を担当し、これも大ヒットしている。この後もイギリスでは主に歌手として、時にテレビドラマで活躍を続けてきたようだ。この映画ではルルは製作者の一人としても活躍している。日本ではこの映画で、ルルの名前が久しぶりに聞かれることになる。

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
ボーイ・ジョージと歌うスーザン役のルル
©AW Movie Production Ltd 2024

ジョーンの思い出の人カレン、40年くらいぶりに会うカレン役をヘイリー・ミルズが演じている。名優ジョン・ミルズの娘で名子役として1950年末から60年代前半に活躍した彼女も、パトリシア・ホッジ、ダイアン・キートンと同じ1946年生まれの現在78歳。
さらに、ラスベガスのショーに出演する本人役でボーイ・ジョージが歌声を聴かせている。3人が舞台に呼ばれてバックコーラスとして歌うことに。

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
ラスベガスの舞台でボーイ・ジョージとバックで歌う3人
©AW Movie Production Ltd 2024

映画の中の日本テイスト?

何故かこの映画には日本のものが登場する。
まずは、3人が訪れるカフェでジョーンの”紅茶”の注文に、お店の人が”単なる紅茶?他にも・・・があるよ”と色々な飲み物名を挙げるその最初に”AWABANCHA→阿波晩茶”が出てくるのだ。本当に阿波晩茶がイギリスのカフェにはあるのだろうか?さらに、飲み物を注文するとサービスとして”KOBUCHALATE→昆布茶ラテ”が実際に出てくるのだ。この二つの飲み物、イギリスのカフェでは普通にあるのだろうか?東京で出会ったことがないのは私だけでしょうか?
もう一つは、スーザンの乗っている車がマツダの乗用車だったこと。外国の映画で日本車を見ることは珍しくないが、大部分はトヨタかホンダ、時にニッサンかスバルだ。マツダを見るのは初めてのような気がする。しかもこの車、何度も登場し大活躍。赤い車体がかなり目立つ。

イギリス映画『アーサーズ・ウイスキー』のシーン
若い女性用ファッションの若い3人、右からジョーン、リンダ、スーザン
©AW Movie Production Ltd 2024

若い頃に戻って、憧れのラスベガスまで行って楽しんだ3人だが、現実の厳しい世界も描く物語を書き、監督をしたのはスティーヴン・クックソンという監督だ。(脚本はアレクシス・ゼガーマンとの共同)日本には作品が来ていず知らない人だったが、しっかり楽しませ、現実もきちんと見せてくれ、納得させるなかなかの腕前。この作品でナショナル・フィルム・アワード UK最優秀コメディ賞を受賞している。

『アーサーズ・ウイスキー』公式サイトhttps://arthurswhisky.jp/

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