イギリス映画談~バンクシーを知っていますか?『バンクシー 抗うものたちのアート革命』~
2023年5月19日公開
バンクシー Who?
バンクシーの名前は知っていた。どこかの建物の壁に、突然絵が描かれ、その絵が面白いと時々ニュースになる。そんなふうにバンクシーはやってきた。
その絵は、ネズミだったり、少女と風船だったり、ちょっと粗目の描写ながら、訴えたいことがはっきりしているものだった。バンクシーという署名はあるが、本人が表に現れることはなかった。
壁に描かれる絵は言ってみれば落書きだ。そんな落書きが、世界各地に突然現れる。日本にも表れたりした。
落書き→グラフィティの道のり?
落書きが脚光を浴びたのは1970年代のニューヨークだったか。建物の壁や地下鉄の車内外にスプレー缶を利用して描かれる落書きは、その後グラフィティという英語名が美術界の一つの手法となって、世界に拡散したような印象がある。キース・ヘリングやバスキアなどそこから生まれた有名アーティストもいる。
そうした下地があったので、バンクシーを初めて見た時、ニューヨークからの新しい描き手かと思ってしまった。とんだ勘違いをしていたものだ。勘違いのため、この映画を紹介するのが遅くなってしまった。陳謝。
バンクシーの正体は今もって明かされていない。この映画を見ても、彼が登場するシーンでは網がかけられ顔を知ることはできない。一人の人物なのか、あるいは複数の人間からなっているのかさえはっきりしていない。多分、一人だろうとは思うが。色々な噂だけが聞こえてくる。
今の美術界で話題になることと言えば?
世界で美術関連がニュースになるのは、最近では次のような場合だ。
- 誰々の作品が新たに見つかった場合。当然誰々は有名な画家で、その作品の価値は計り知れないというもの。
- 誰々の作品に~億の価格が付けられたというもの。当然誰々は有名画家だ。
どちらの場合も作品の金銭的価値がニュースになっているのだ。
絵画を金銭的価値で見る風潮に反発したのがバンクシーだった。
ブリストルの有名人?
バンクシーが生まれ、活動の拠点としているのがイギリスのブリストルというのも初めて知った。イングランド西部の港湾工業都市でエイボン川に面している。Wikipediaには次のように書かれている。「5世紀以降のアングロ・サクソン時代にブリストルは都市として形成されていった。もともとはエイボン川の河口から最も近い架橋可能な位置だったことから、「橋のある場所」を意味するブリグストウ(古英語: Brycgstow)と呼ばれていた。」そこからブリストルになったようだ。
産業革命の前まではロンドンに次ぐ3つの都市の一つだったらしい。現在でもブリストルと周辺地域の人口はイギリスで8番目の多さであるという。歴史のある古い町で、昔ほどではないにしても今も人が集まる町なのだ。過去の栄光が去り、陰りがさして都市の暗い部分もある町と言えようか。そんな中からバンクシーは出現した。
Wikipediaにはブリストルの著名人28名の一覧があるが、そこにはケーリー・グラントなどと共にバンクシーの名前がある。
この映画が教えてくれること
映画の始まりは2018年のサザビーズのオークション会場。バンクシーの「風船と少女」が102万ポンドだったかで競り落とされた瞬間、額の中の絵が下に落ち始め、仕込まれた刃で縦に細く切られて出てくる。これは当時ニュースで大きく取り上げられ有名になった。
映画には多くの人がインタビューされている。少年時代からバンクシーを知り、ブリストルのグラフィティを熟知し、この映画でも中心的に登場するジョン・ネーション、
バンクシーの最も近い協力者である有名なアーティスト、ベン・エイン、
アートプロモーターでバンクシーの元右腕だったスティーブ・ラザリデスなどが、バンクシーについて語っている。
映画は1970年代ニューヨークのグラフィティを中心としたストリートアートから始まり、バンクシーが様々に活動する2000年代から映画の頭にあったサザビーズのオークション事件まで、驚くほど多くの情報が、かなりのスピードで描かれる。
驚くほどの情報の中には、世界の美術館(ロンドンテート、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン、パリのルーブルなど)に額入りのバンクシー作品を密かに展示とか、アメリカから出てきたスクリーンアート方法を取り入れてグラフィティを短時間に壁に描くとか、アナハイムのディズニーランドに手錠をかけられた人形(グアンタナモ米軍基地の囚人らしい)を設置したとか、パレスチナの分離壁に子供が穴を開けている様子とそこから見える平和なビーチ風景を描いたとか・・・。
そして、サザビーズの細かく切られ、途中で止まった「風船と少女」は、その後さらに転売され倍以上の金額になったという!
いずれにしても113分で心と体がバンクシーでいっぱいになること間違いなし。見たい人はお早めに。
公式サイト:https://banksy-cinema.com/