1.英国の会員制社交クラブのアフタヌーンティー
ロンドン中心部には数々の会員制社交クラブが存在しています。17世紀、紳士のみが集うコーヒーハウスが発祥の社交クラブ。入会資格は10名以上の仲間の推薦、更に投票での承認が必要・・などという古い歴史のあるクラブから比較的新しいカジュアルなクラブまで。まるで映画の世界かのようなベールに包まれた場所です。社交クラブのアフタヌーンティーといえばさぞかし豪華に違いない!と思われる方も多いかもしれませんが、高級ホテルのような華やかさはありません。何故なら上流階級から広まった英国文化としてのアフタヌーンティーの目的「お菓子」ではなく、あくまで「社交」が目的だから。親しい仲間と会話や団欒を楽しむための時間ですから、必要以上に華美なお菓子は必要無いのです。また「食べ物の味をとやかくいうことは上品でない」という文化が根付いている為、お菓子の味が話題になることはありません。
とはいえ気になるのはやはり「スコーン」。社交クラブで出会ったスコーンは「白く上品に」「狼の口」も美しく焼き上げられ、たっぷり過ぎる位のクロテッドクリームが添えられています。華美ではありませんが、きちんとお行儀よく並んでいて正に英国の正統派アフタヌーンティーといった佇まいです。
2.英国人こだわりの「ティー・サンドイッチ」
アフタヌーンティーのサンドイッチとセイボリー(塩味のパイなど)を見てみましょう。オーソドックスなサンドイッチにキッシュ、英国らしいソーセージロールが並びます。キッシュはフランス料理では?と思われる方もいらっしゃると思いますが、英国ではフランス人シェフを雇うことがステイタスと考える人が多い為、高級ホテルやクラブではフランス人シェフの洗練されたお菓子(タルトやムース、マカロン等)が提供されることが一般的です。
その為、素朴な英国菓子のアフタヌーンティーを楽しみたい場合は、是非、ロンドンやカントリーサイドの小さなティールームを訪れることをおすすめします。
さて、ここに並ぶティー・サンドイッチはザ・英国!というものばかりで嬉しくなります。具材は「きゅうり&バター」「サーモン&クリームチーズ」「卵&クレス」「ローストビーフ&クレソン」です。英国ではパンの色にこだわることも多く、特に格式があるとされる「キュウリ(キューカンバーサンドイッチ)」には必ず白パンでなきゃ!という方も少なくありません。
そこには様々な歴史的背景がありますが、昔はキュウリは大変高価な食べ物で、自分のお城を持ち、領地でキュウリを栽培出来ること。さらに収穫したばかりの新鮮なキュウリを、お抱えシェフが美しいサンドイッチに仕上げたものをお客様に出せることはステイタスであったこと。また戦時中は配給制度もあり白い小麦粉のパンは大変贅沢で特別な時にしか食べることが出来なかった為「白いパン」もまた「豊かな食べ物」と感じる人が多いようです。
更には白いパンは出来る限り薄くスライスする。パンの耳は切り落とす。マヨネーズは(英国のものではないので)使わない。英国の品質の良い無塩バターでキュウリのみずみずしさと食感を楽しむ。正式な形は長方形、三角、最も上品には小さな正方形の3種。と、英国の伝統を大切にする人々からは、何処にも書いていないけれど、絶対ではないけれど、想像していた以上の頑固で熱く強いこだわりを聞くことが出来るのです。
他のサンドイッチへのこだわりは、またの機会に、是非ご紹介させてください。
3.白くエレガントな英国のお菓子
先程は「白いパン」について触れましたが、元々は結婚式のお祝いのお菓子であった「ショートブレッド」のように、英国菓子の特徴のひとつとして「白く焼き上げる」ことが好まれることがしばしばあります。「白くとろけるような食感が良い」と考えられる為、きつね色になると台無し!とまで言う人も。フランスでは焼き菓子は「bien cuit(ビアンキュイ)」としっかりきつね色になるまで焼き上げることが大切とされ、サブレやタルトはカリッと焼かれ艶出しシロップで「ピカピカ」に仕上げられます。パリのホテルリッツの厨房で働いていた時にはちょっと焦げすぎかな?と早くオーブンから出してしまうと焼きが足りない!と怒られる事もしばしば。ですからフランス菓子とは真逆の「真っ白のうちにオーブンから出す」事に慣れるまでに大変時間がかかりました。
4.白く焼き上げるための工夫
全てのお菓子が当てはまる訳ではありませんが、お祝いのお菓子であったり、上品に仕上げたい時に「エレガントに白く」焼き上げる為に実に様々な工夫がされています。そのひとつは表面に卵黄ではなく、「牛乳」や「生クリーム」を塗ってから焼くこと。こんがりと焼き色が付き過ぎない「エッグミルク」と呼ばれる卵を牛乳で溶いたものを塗ることも多くあります。(ですが、これはタンパク質が固まり表面がシワシワになりやすいのでお好みが分かれるかもしれません)その他、材料には出来る限り「白い」バターを選ぶ!という人も。白く焼き上げるコツは「裏面を見てうっすら焼き色がついていたらもう焼けているので、表面に焼き色が付く前にオーブンから出すこと?」だそうですよ。
5.バター不使用「白くて美しいクリームスコーン」レシピ
各家庭の数ほどあるスコーンのレシピですが、ここではお手軽ながら「狼の口」も美しく仕上がる「クリームスコーン」をご紹介します。「クリームスコーン」はその名の通りクリームを練り込んだスコーン。英国では「ダブルクリーム」と呼ばれる濃厚な生クリームだったり、クロテッドクリーム、サワークリームのこともあります。バター不使用というよりは、バターの油脂分をクリームに置き換えたもの、と考える方が正しいかもしれません。美味しいクリームが豊富な英国家庭では冷蔵庫の中に余っているクリームで、お手軽に作られています。
6.抜き型の秘密
英国のスコーン生地は1.5~2㎝の厚みに伸ばし型抜きするのが基本。とはいえ、家庭ではわざわざ高さを測ったり、ルーラーや綿棒を使ったり面倒なことはせず、手のひらで押し広げることがほとんど。そんな時に大活躍するスコーン用の抜型。なんと!置いた時に下から中央の線の下までで1.5㎝。中央の線の上までで2㎝の設計になっているので、それを目安に簡単に必要な厚みに伸ばすことが出来るのです。更に形も丸と菊、どちらにも使うことが出来る優れもの。
7.Cream Scone (クリームスコーン)レシピ
材料(直径5.5㎝の抜型8個分)
- 小麦粉(ドルチェ使用) 250g
- ベーキングパウダー 小さじ 1
- グラニュー糖 大さじ 2
- 卵1個+牛乳 80g
- 生クリーム(脂肪分45%以上) 100ml
- 塩 ひとつまみ
※必要な水分量は気候や小麦粉の種類に大きく左右されます。べたつく時は少なめに。パサパサするときは牛乳を増やしてください。
下準備
- オーブン予熱(200℃)
作り方
- ボウルに小麦粉、ベーキングパウダーを一緒にしてふるい入れる
- 別の器に卵、牛乳、生クリーム、砂糖、塩を入れよく混ぜる
- 1のボウルに2の液体を加えフォークでぐるぐると、粉と液体を静かに合わせるように混ぜる。
- 全体がまとまりしっとりしたら台の上に出し手で押さえつけるように広げてから二つ折りにする作業を5回ほど行う。この作業を行う事で敢えてグルテンを立たせ、層を作り、「狼の口」作りやすくする。練らないように気を付ける。
- 生地が滑らかに締まったら約1.5㎝の厚みにのばし型抜きする。
- お好みで表面に刷毛で牛乳を塗る
- 予熱したオーブンを190℃の設定で約13分焼く。
- スコーンは乾燥が大敵!焼きあがったら布巾などに包んで保湿をしましょう。
スコーンの材料とポイント
- 小麦粉
英国には「薄力粉」が無い為、中力粉や強力粉が使われることが多いですが、日本では手に入りにくい為レシピでは一般的な薄力粉(ドルチェ)を使用しています。より英国らしい風味に近づけたい場合は薄力粉250gを中力粉に、もしくは70g程度を強力粉に置き換えてください。その場合,必要な水分量が増えますので牛乳を少し増やし調整します。 - 生クリーム
英国では脂肪分48%程度のDouble Cream(ダブルクリーム)が使われます。日本でも脂肪分45%以上のものを選んでください。脂肪分が35%程度のものでも作ることは出来ますが、油脂分が少ない為、重くべたっとした固い仕上がりになります。意外に思われるかもしれませんが、生クリームの脂肪分は高い方が、軽く風味豊かな焼き上がりになります。 - 砂糖
英国でお菓子作りに使われる砂糖はCuster Sugar(カスターシュガー)という白い目の細かいてんさい糖が一般的です。日本では「グラニュー糖」を使いますが、少量ですからお好きな砂糖でOK。粉砂糖を使うとより繊細な仕上がりになります。「砂糖をしっかり溶かすため」「バターを使う時は砂糖を先に合わせると砂糖の吸湿性により水分が出て濡れたような生地になってしまう」為、砂糖は粉類に混ぜるのではなく液体に混ぜ込む方法が英国でもよく使われています。
《ライター~牟田彩乃~ 告知情報》
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