紅茶本来の香りではない!?アールグレイの香りとは?
香りのいい紅茶は何かと聞かれたら、真っ先にアールグレイを思い浮かべる人も多いことでしょう。ちょっとビターな柑橘の香りは、飲むだけにとどまらずケーキや焼き菓子にもよく使われていて馴染みがありますし、紅茶といえばアールグレイというほど、ポピュラーで記憶に残る風味です。
この印象的な香りの元は、イタリアが主な産地のベルガモットオレンジ。紅茶の葉にこの香りをまとわせたのが、アールグレイです。
このお話をすると、「紅茶本来の香りではないのですか!?」とショックを受ける方が少なからずいらっしゃるのですが、アールグレイは、花やドライフルーツ、香料で香り付けした “フレーバードティー”の一つで、アールグレイはその筆頭。おそらく、意図して作られた世界で初めてのフレーバードティーなのです。
アールグレイ誕生物語
アールグレイとは、”グレイ伯爵”という意味。初めてアールグレイを作った会社については、ジャクソンという説とトワイニングという説があり、どちらが本当なのかは定かでないものの、その名が、イギリスの首相を務めたこともある、第二代グレイ伯爵に由来していることは間違いありません。
二つの説のうち一つは、グレイ伯爵が外交使節として中国に赴任した際に、現地で飲んだ紅茶が忘れられず、イギリスに帰国してから、ジャクソンの共同経営者であるジョージ・チャールトンにブレンドの秘法を伝え、見事にジャクソンが再現したというもの。
もう一つは、当時海軍大臣を務めていたグレイ伯爵が、中国からの土産物として味わった紅茶を大変気に入り、トワイニングに味や香りを再現したブレンドティーを注文したことから生まれたとするもの。
いずれも19世紀前半のお話です。
元祖の論争は、ジャクソンがトワイニングに合併されたこともあり下火になりましたが、アールグレイが今でも世界中で愛されるフレーバードティーとして存在していることは、揺るぎのない事実です。
また、当時グレイ伯爵が忘れられないほど感動した中国の紅茶は、おそらく正山小種(せいざんしょうしゅ、ラプサンスーチョン)ではないかと考えられています。当時の正山小種は、今のような松の燻製香ではなく、乾燥させた龍眼の実のようなフルーツの香りがしたといいます。それを再現するにあたり、当時すでにそのオイルがキャンディーやケーキに使われていたシチリア産ベルガモットオレンジが使われたのだそうです。
(”正山小種”については、連載第4回”貴重なイギリス産紅茶『トレゴスナンティー』を味わう“で触れておりますので、よろしければそちらもご覧ください。)
多様なアールグレイ
元は中国の紅茶を再現させたアールグレイですが、今ではベースとなる紅茶の種類は様々で、ダージリンのアールグレイもあれば、セイロンのアールグレイもあります。紅茶に限らず緑茶やほうじ茶などでも作られていて、その多様性に驚かされます。
(ちなみに、私のネットショップで扱っているのは、ノンカフェイン紅茶のアールグレイです。よろしければ、一度ご覧になってみてください。)
また、アールグレイをひとひねり。よく合う他の素材をブレンドしたフレーバードティーもあります。
例えば、トワイニングの”レディ・グレイ”。アールグレイをベースに、オレンジやレモンのピール、青い矢車菊をブレンドしていて、アールグレイよりスッキリ上品な味わいです。日本では2001年から販売が始まりましたが、日本未発売だった頃は、イギリスに行く人がいるとお願いして買ってきてもらった、懐かしい思い出があります。今ではスーパーで手に入る、身近な紅茶になっています。
この他にも、オレンジをブレンドしたものや、様々な柑橘類、花をブレンドしたものなど、各社から様々なバリエーションのアールグレイが販売されています。
多様なアールグレイのラインナップにどれを選ぼうかと迷うほどですが、香りの強さ、紅茶の味わいはそれぞれ違いますので、お好みのものを探すのも楽しいですね。伝統的な中国の紅茶をベースにしたものは、オレンジの香りにややスモーキーなフレーバーが加わったオリエンタルなイメージ。セイロンベースのものは癖がなくマイルドで飲みやすいものが。ダージリンベースですと、すっきりとした口当たりのものが多いように感じます。アールグレイ誕生の物語を思い浮かべて、当時に思いを馳せながらゆったり味わうと、きっとその味は一層格別なものになるでしょう。
参考文献
片岡物産ホームページ
『紅茶の事典』 成美堂出版
『紅茶の教科書』 磯淵猛著 新星出版社
『二人の紅茶王 リプトンとトワイニングと…』 磯淵猛著 筑摩書房