朝食時にトーストに塗っていただくマーマレード、またお茶の時間にスコーンと一緒にいただくジャムはイギリスの伝統食の一つとして長く愛されてきました。ストロベリー、ラズベリー、ダムソンなどは定番ですが、ファーマーズマーケットなどで ‘桑の実’ ’セイヨウカリン’ といった珍しいものを目にするとつい買ってしまいます。
チップトリー(Tiptree)の農園見学へ出発
今回は140年にわたって保存食を作り続けてきたチップトリー(Tiptree)の農園、工場を見学した時の模様をお伝えします。
© Wilkin and Sons
世界60カ国に輸出されているブランド、チップトリーの商品の中でもジャムやマーマレードは特に有名です。まずはジャムの材料となる果物、ベリーを栽培している農園を見学しました。案内をして下さったのはダン・ワスケットさんです。
東京ドーム75個分の広さの農園
レンジローバーの4輪駆動車で850エーカー(3.5平方キロメートル)の果樹園を周ります。
東京ドームに換算すると約75個、一般的な小学校の校庭だとなんと117校分の広さの農園です。
ここでは、イチゴ、ラズベリー、ローガンベリー、ダムソンプラム、ヴィクトリアプラム、セイヨウカリンなどジャムに適した果物やベリーが栽培されています。
最初に目に入ったのは桑の木です。「’桑の実泥棒’はすぐに手を見ればわかりますよ。手を染めずに採るのは無理だからね。現行犯ですぐに捕まる。」時々ジョークの入るダンさんの案内はまるでテーマパークにいるような楽しい気分にさせてくれます。
桑の実はドライにしたものは時々食べますが、ジャムは試したことがありません。是非試してみたくなりました。
『LEAF Marque』の認証を受けた農園
この農園はLEAF Marqueの認証を受けています。LEAF Marqueとはイギリスを拠点とする環境・農業団体 LEAF(Linking Environment And Farming) によって認証されるもので、持続可能な農業の証。その農園で作られる製品は、次の世代まで続く農業や持続可能な方法で栽培された製品として認定されます。土の中の微生物や生き物たちの力を活かして、出来るだけ環境に負担をかけずに栽培されていることを物語っています。
また、野生動物の保護のために作られたネイチャーリザーブやフクロウの巣箱もありました。
この地域は雨が少なく、水不足になることもあるそうで、冬の間に貯めた水を確保するための大きな貯水池が2か所に作られていました。
マーマレードの語源となったクインス
クインス(セイヨウカリン)の木にはちょうど花が咲いていて、すぐに車を停めていただき写真撮影。現在では商業用に栽培しているところを除いては、植物園や特に古いガーデンなどにしか見られなくなった果物です。
私も実だけはジェリーにしたことはありますが、花は初めて見ました。クインスは、ポルトガル語でマルメロと言います。これがマーマレードの語源になりました。マーマレードが特に好きな私としてはうれしい出会いでした。
チップトリーを代表するジャム”リトルスカーレット”
ストロベリーが栽培されているところでは、過剰採掘によって激減したピートに代わってリサイクル可能なコイア(coir・・・ココナッツの外殻から得る繊維で作られる)がコンポストに使われています。
チップトリーを代表するジャムの一つがリトルスカーレット。通常のイチゴの5分の1ほどの大きさで、ワイルドストロベリーが原種となったイチゴが使われています。栽培、収穫共に難しいと言われるリトルスカーレットを商業用に栽培しているのはイギリスではチップトリーだけ。
それはチップトリーを創設し、現在でも経営者であるウィルキン&サンズ家の一人がアメリカを訪れた際に、そこに自生するリトルスカーレットを見てイギリスに持ち帰ったのが始まりです。
© Wilkin and Sons
故エリザベス女王やジェームスボンドにも愛されたリトルスカーレット
故エリザベス女王も、リトルスカーレットがお好きだったとか。
© Wilkin and Sons
イアン・フレミングが書いたジェイムズ・ボンドの「ロシアより愛をこめて」の中では、ボンドのこだわりの朝食に関してこう書かれています。「ゆで卵は柔らかめに。茹で時間はきっかり3分20秒・・・そして2枚の厚切りの全粒粉のトーストに濃い黄色のジャージーバターがたっぷり塗られている。そばにはチップトリーのリトルスカーレット、クーパーのヴィンテージ・オックスフォードのマーマレード、フォートナムのノルウェイ産ヒースの蜂蜜が入った三つのガラスの瓶が置かれている・・・」
後でリトルスカーレットを売店で買おうと思いましたが、なんと品切れ!
日本にいる友人に話したところ早速日本で入手したそうです。通常のジャムの2倍半~3倍の値段ですが、ジャム好きにとっては是非とも試してみたいところです。
リトルスカーレットの苗の横に差しかかった時、巣を作っている蜂たちが苗の周りを忙しく飛び交っていて、急いで車の窓を閉め、次の場所に移動しました。
収穫期のイチゴ栽培
イチゴが栽培されている温室ではピッカーと呼ばれる人たちが収穫に忙しそうでした。
太陽の光を最大限に利用して栽培されたイチゴは今が旬。元気なイチゴたちが「私、今が食べごろ!」と招いているようです。
この季節に店頭や道路わきで売られているイチゴの多くには敢えて’English Strawberry’と書かれています。イングランド産のイチゴは程よい甘さと、風味が特に人気です。
「ハイ、どうぞ」とダンさんに渡されたイチゴ。あまりの大きさに驚いてしまいました。摘み立てのイチゴはジューシーで、なんとおいしかったことでしょう。
この建物で栽培されるイチゴはジャム用ではなく、スーパーのセインズブリーに出荷するために栽培されています。
小さめのイチゴや、セインズブリーの果物コーナーで残ったものはジャムにします。リサイクルに徹底していることがここでも感じられました。
広大な農園ですが、イギリスでは育たない果物や、ここで栽培するだけでは足りない場合は、厳選された信用のおける栽培者から仕入れています。長年妥協を許さずに良質のジャムを作り続けて来たチップトリーの信念は、その材料となる果物の栽培から始まっていることが良くわかりました。それは特に環境に優しく、持続可能な農業を目指す責任のある栽培です。
こうしてダンさんによるチップトリーの農園見学が終わりました。次回は工場見学の模様をご紹介します。
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